ヒップホップ誕生から50年。音楽と文化を作ってきたテクノロジー

1973年8月、ブロンクスから生まれたヒップホップ音楽。

このジャンルがストリートからトップチャートへ駆け上がった一因には、制作におけるアナログとデジタルの架け橋となった音楽テクノロジーの存在があります。

ドラムマシン、デジタルサンプラー、魔改造ターンテーブル。ヒップホップアーティストは、その時代の新たな技術を取り入れ、ヒップホップという音楽ジャンル全体を定義するツールとして活用してきました。

2023年、今はラップトップ1台で音楽が制作できる時代。しかし、デジタル化され、今の音楽系ソフトにプリインストールされているさまざまな音は、もともとは世界トップクラスの音楽エンジニアの手によって、物理的道具(金属やプラスティックの塊のような音楽機器)を用いて作られたものです。

ヒップホップを作り、ともに成長してきたマシンやソフトをまとめてみました。

Roland TR-808

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Image: hurricanehank / Shutterstock.com

特定の商品名が、その物事そのものを表す言葉になることがあります。ネットで検索する=ググる=Google(グーグル)がその最たる例。

音楽業界でいえば1980年に発表されたRolandのドラムマシンTR-808がそれ。「はちまるはち」「ヤオヤ」といえば、TR-808に限らずドラムマシンを意味することがあります。

発表から40年以上、マーヴィン・ゲイからアフリカ・バンバータ、今日のYe(カニエ・ウェスト)の楽曲まで、何千という曲作りに携わってきました。

ヒップホップ業界でのTR-808の成功は、カントリーからロックまで、そのほか多くのジャンルにドラムマシンが広がるきっかけとなりました。

サンプラー(サンプリングマシン)

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サンプラーなくしてヒップホップを語るのは不可能。

サンプリングは、曲や音源の一部を取り出し、それを別の新しい曲にフィットさせるよう作り直すプロセスのこと。

曲の一部を借りる・再考するというこのプロセスこそ、モダンヒップホップ、ひいては音楽そのものの基本です。

80年代初期、ポータルブルかつ比較的安価なデジタルサンプラーの登場でサンプリングが身近になりました。

アカイ・プロフェッショナルのMPCシリーズや他社競合商品がリリースされたことで、それまで一部のアーティストがオーディオ機器を使い複雑に行なっていたサンプリングが、ほんの数台のマシンで可能になりました。

複雑な著作権問題を生み出すキッカケにもなったのですが…。

ターンテーブル

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ターンテーブルの基礎は、レコードプレーヤーでレコード再生しながら音を奏でること。

ターンテーブリストと呼ばれる人は、ターンテーブルを楽器として扱い、レコードとレコードをつなぐプロセスをアート・演奏へと変化させました。

ヒップホップのパイオニアDJクール・ハークグランドマスター・フラッシュは、さらにターンテーブルを使いこなし、80年代90年代ヒップホップに必要不可欠なを作り出しました。

ブームボックス(大型ラジカセ)

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今日のSonosやBoseのスピーカーを思えば、完全に時代の遺物なのですが…。

しかし、当時のストリートを音楽で満たし、コミュニティを作るのに一役買ったのがポータブル巨大ラジカセ

シャープ、東芝、フィッシャーのラジカセは、ラップバトルやブレイクダンスには欠かせませんでした。

ヒップホップカルチャーはもちろん、90年代のカルチャーアイコンと言っても過言ではないでしょう。

ポータブルCDプレーヤー

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周りの人とともに音楽を楽しむブームボックスとは対照的な存在なのが、ポータブルCDプレーヤー

80年代に登場し、カセットプレーヤーに置き換わりさらに手軽に音楽を楽しめるようになりました。

CDプレーヤーに繋いだヘッドフォン。自分だけの音楽。あの親密さが音楽好きの心をゆさ振りました。

一人での音楽を楽しみ方が確立され、それは今日まで続いています。

また、一人音楽なのでサブジャンルやエレクトロマッシュアップなど自分好みのマニアックジャンルも楽しみやすい。

シンセサイザー

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現代のシンセサイザーの音は、モダンミュージックからゲーム・映画音楽までありとあらゆるところで利用されています。が、その根底にあるのはやはり初期ヒップホップのシンセサイザー活用。

1964年、アメリカのエンジニア、ロバート・モーグ氏がモーグシンセサイザーを開発。ここから楽器としてのシンセサイザーが一気に広まり、J・ディラからドクター・ドレーなどの楽曲で使われています。

エレクトロサウンドを用いたレコードが多くリリースされることで、シンセサイザーは長い時をかけてメインストリームへと昇っていったのです。

オートチューン

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ボーカルや演奏のピッチなどを調整するデジタル編集ツール、オートチューン。今日耳にするポップソングには、ほぼすべてこのツールが利用されているといっていいかと。

微修正のためにオートチューンを使うアーティストは多いものの、ヒップホップはツールの限界に挑戦し新しい手法を生み出しました。

ピッチを好きに調整することで生まれる、ロボットサウンドのような歪みエフェクトを発見。ラッパーのT-ペインはR&Bにこれを用いて独自の「Hard&B」を創り出しています。

ほかにも、リル・ウェイン、リル・ヨッティ、トラヴィス・スコットが、独自オートチューンの方向性を生み出しています。

AI

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現在、そしてこれから、ヒップホップだけでなく音楽業界全体に大きな影響を与える可能性があるのが生成AI

今年初め、AIソフトウェアを使って制作されたドレイクとザ・ウィークエンドのコラボ曲『Heart On My Sleeve』。聞いた人が実際に2人の新曲だと信じてしまうほどの完成度で、世界から注目されました。

ただ、すぐに音楽レーベルが介入し、著作権の問題から曲は削除されましたけど。

生成AIによる音楽についての議論は終わりが見えません。アーティストの声の所有権はどこにあるのか、法的に明確になっていません。

芸術的観点でみると、生成AIによってヒップホップの新たな扉が開く可能性は大いにあります。いろいろなアーティストの擬似音声を自分の楽曲に活用できれば、若手アーティストの夢は広がります…。

生成AIによるビートメーカーは、ラッパーにとって無限ツールとなるかもしれません。

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