変わる学校教育に学生も変わるか?:大学全入の意味はない

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カナダの国営メディア、CBCの報道に「昨年度最高額を稼いだ看護師の年収は51万㌦(約5500万円)」という記事に思わず目が点になりました。もちろん、国営報道がそう報じるには「何かおかしい」という点が含まれるからで実際その人がどれだけ残業しても通常の賃金と残業手当だけで計算すれば週5日、一日23時間勤務を1年間続けなければ到達し得ない金額だからです。

それはともかく、カナダの看護師が稼いでいるというのは事実で2000万円程度稼ぐ人はザラ。なぜそうなったかと言えば圧倒的な看護師不足によるものです。世の東西を問わず、看護師の世界はきつい、夜勤や週末勤務があるなどストレスフルな業務なので辞める人が絶えない中、外国人労働者による補充をするにもIELSという英国系試験で9.0満点中、会話が7.0、残りは6.5点をクリアしないとそもそも看護師試験の入り口に立てません。ではそれがどれぐらいのレベルかと言えば私は7.0は厳しいと思います。そりゃそうです。患者の命がかかっているわけで聞き間違いは絶対に許されないとなれば狭き門なのです。

AIの時代になり職業が無くなる、と言われる中で看護師や介護士は不足が確実視されている分野です。日本では看護師は3年制の看護師学校に通う人が多かったのですが、近年、4年制大学に於いて看護科の新設が目立ちます。例えば令和4年に開校した大学の学部では新設の4大学は全部看護科があります。新規に学部追加をした8大学でも理学療法や介護までいれれば6学部が看護、医療絡みです。更には大学院でも看護、理学療法、健康絡みの新設がずらりと並びます。

つまり看護師になるにしても今までは8割以上が看護学校で通常の看護師を目指し、婦長やその上を目指す場合は大学の看護科卒業という選択肢だったものが今後、どっと大学卒の看護師が増えるということです。これは高齢化社会にどっぷりつかっている日本に於いて看護、介護の手が足りないという表れでIT化もままならない世界であることを意味しています。

看護師だけではありません。大阪府立大学と大阪市立大学が合併した大阪公立大学は日本最大の公立大学のひとつで2022年に開校しました。その学部を見ると古典的な経済学部や法学部、商学部はひとまとめ感が強いのですが、理学部は6学科、工学部は12学科、更に農学部、獣医学部、医学部、看護学部、生活科学部と細分化されています。つまり、大学がいよいよ代返してバイトしてクラブ活動や遊びにかまける4年間から専門知識を必死で確保する試練の4年間に代わろうとしているように見えます。

これは今後、大学や大学院を卒業する若者がしっかりと専門知識を備えて社会活動する上での基礎を身に着け、その上で職業もプロとしての道を歩むという流れが強まるとみています。これは日本が「経営者と雇われの関係」と揶揄された時代から従業員の基礎能力が高く、マネージメントができる人を育てるという流れになる可能性を見ています。

但し、私は大学全入の意味はないと思っていますし、上述の大阪公立大学がどれだけ規模が大きいと言っても学部学生と大学院学生を併せて16000人です。私の母校の青山学院の19000人や明治の32000人とは比べ物になりません。つまり、依然マンモス大学は多くの大学入学希望者を吸収する大口受け入れ先ですが、徐々に大学は変質化するのだろうと期待しています。

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日経に国際バカロレアという世界共通の教育プログラムを採用する国内学校が増えてきたとあり、東京都立国際高校がその例として詳しい記事が掲載されています。なぜ、バカロレアかと言えば日本政府がグローバル人材を輩出させるという後押しをしているからです。近年新設ないし新設予定の大学でもグローバル化を目指した教育をモットーとしているところは非常に多くなりました。

ただ、正直、学生が「世界を股にかける」というイメージを持てないため、感覚的にはグローバル人材を輩出したい学校と学生にはギャップが生じているように見えます。学生はもっと現実的で自分が想像できる未来像、例えば看護師、IT技術者、あるいは各種研究者や専門家や芸術関係というように見えます。

グローバル化は日本はまだ相当遅れているし、実際、実務で輩出した国際人は他国に比べて極めて限られるのが現状です。その背景は企業が人材の国際化を養成しなかったこと、国内が居心地よく海外に出る必要性がないこと、まだ見ぬ世界への畏怖などがあると思います。しかし、ここはもう少し力強く押し出さないと日本は井の中の蛙になりかねないでしょう。また、国際ビジネスを学ぶ教育機関の拡充も欲しいところですね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月12日の記事より転載させていただきました。

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