マクロン氏再選と欧州の行方

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マクロン氏が大統領選で再選を勝ち取りました。決選投票はルペン氏と思ったほど僅差にならず、余裕ある勝ち方でしたが、一部からは3度目の挑戦となるルペン氏の票は徐々に伸びている、マクロン氏でもルペン氏でもないとする国民も多いといった声も上がっています。

エマニュエル・マクロン フランス共和国大統領 同大統領HPより

マクロン氏が勝利したことで欧州を中心に世界経済には安ど感が広がると思います。まず、一番先に進めるのがロシアとウクライナの停戦交渉の先頭に立つことだと思われ、遠くないうちにマクロン氏もプーチン大統領と面会を求めるものと思われます。

欧州の首脳が次々とプーチン氏への説得工作を続けていることからどこかで成果が出てくると期待したいところで、マクロン氏はその真打の一人であることは確かでしょう。ドイツとも協議を進めながら欧州全体の安全保障と絡ませる、という当然の作業がシームレスで行われるのは論を待ちません。

次いで物価高問題です。フランスのCPIは3月度が前年同月比4.5%と30年ぶりの高さとなっています。また物価スライド方式をとっているフランスの最低賃金は1月に0.9%上昇したばかりなのに5月から2.65%の上昇が決定しています。これらの上昇は日本のように企業努力してなるべく吸収しようとせず、最終消費者への比較的ミラーのような価格増になります。

欧米の物価が日本に比べて高いのは企業努力分が少ないためですが、思うに企業文化の違いが大いにあると思います。日本の場合、「お客様は神様です」というほどお客様の意向を最大限尊重しますが、欧米の場合、従業員や株主の意向はより重要なとらえ方としています。例えば企業努力をした場合、従業員への負担が増えたり、利益圧迫により配当金や株価の低迷を引き起こす原因となりかねず、必要な値上げはお客様にご理解いただく、という姿勢がより強くなります。

例えば私も4月から顧客向けの価格を分野により5%から20%程度、一斉値上げしておりますが、値上げの2か月ぐらい前から各人にメールなどをしてそのお願いをさせて頂いており、顧客からはむしろ「リーズナブルな価格だ」と支持を頂くくらいなのです。

話を本題に戻します。欧州の場合、英国が明らかに別枠的な存在になりつつあり、欧州本土が一団とならねばいけないのですが、私にはここが弱く見えます。確かに今はウクライナ問題という共通課題がありますので動きやすいもののこれが停戦などを通じてひと段落したのちに各国の体制、経済政策、移民/難民問題、安全保障が同じ方向で調整できるのか、疑問点はあります。

理由は社会がそもそもSNSを介してバラバラになっている中で欧州は宗教と人種を背景にした極めて複雑な社会を構築しています。個人的には欧州にある国家以上に社会は細分化されており、右派、左派のみならず、カトリック、プロテスタント、ユダヤ、そして台頭が目立つイスラムが国家を分断する危機にあるとみています。

ルペン氏が何度も大統領選に挑戦する社会体制も日本には珍しい形態だと思います。大統領選に落選すれば後進に道を譲る発想もありそうですが、ルペン氏はますます血気盛んになって次回こそ、という意気込みとその支持層の拡大を確実に見て取っています。

フランスの最大の弱点は資源ですが、フランスは世界最大の原発大国であり、マクロン氏が更に6基の原発を建設することを2月に打ち出しています。ドイツのエネルギー源が少なくなっていく中でフランスの電源に依存する体質は今後は更に進むわけで原発を売る国家としてより明白な指針を打ち出していくでしょう。

最後にマクロン氏とバイデン氏の関係ですが、表立ったぎくしゃく感はあまりないのですが、個人的には合わない性格ではないかという気がしています。唯一、マクロン氏が表立って怒りを示したのがオーストラリアの原子力潜水艦の一件でこの時はバイデン氏が不器用だったと下手に出ています。今後、ウクライナ援護をめぐり、アメリカが直接的にウクライナとディールする可能性があり、これは自分のおひざ元を通り越しているという心地よくない事態が発生するかもしれません。特にこの週末、アメリカの国務長官と国防長官がそろってキーウ入りし、ゼレンスキー氏と会談をしていることなどは欧州の頭越しという印象は当然あると思います。フランスが選挙中で動けないこの時期を見計らったようにも感じるわけでバイデン氏の繊細さが今後、フランスとの関係の維持には欠かせないポイントとなりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月25日の記事より転載させていただきました。

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