イスラエルのイラン核施設爆破計画

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「タイムズ・オブ・イスラエル」紙が19日報じたところによると、イスラエル政府が対イラン戦闘に備え約50億シェルケ(15億ドル)の予算を承認した。同国防予算には、対イラン戦闘で必要なさまざまな種類の航空機、情報収集ドローン、およびそのような攻撃に必要な独自の兵器の資金が含まれているという。

イラン核関連施設への爆発計画を推進するコハヴィ参謀総長(「タイムズ・オブ・イスラエル」紙電子版から)

興味深い点は、米空軍が7月23日、新しい「バンカーバスター」であるGBU-GBU-72 Advanced 5K Penetratorのテストを実施し、成功したことを発表していることだ。同バンカー・バスターは5000ポンド(約2・27トン)の爆弾でイランの地下核施設を破壊する威力を有している。

同紙によると、GBU-72は戦闘機または重爆撃機によって運ばれるように設計されている。イスラエルは、巨大なバンカーバスターを運ぶことができる爆撃機を保有していない。イスラエルは2009年、米国から秘かに小型のバンカーバスター爆弾GBU-28を購入したが、山の奥深くに埋もれているイランのフォルドウ核施設を貫通する能力はないと受け取られてきた。米空軍のテストは、イスラエル軍が昨年5月、ガザでハマスの地下トンネルネットワークを爆撃した際に得た経験に基づいて実施されたという。

すなわち、イスラエルの新たな軍事費は5000ポンドのバンカーバスターの購入と運送関連費に使用されるのではないか、という推測が生まれてくる。イスラエルは着実にイランの核関連施設の破壊工作を準備しているわけだ。

実際、イスラエル国防軍(IDF)のアヴィヴ・コハヴィ参謀総長はニュースサイトで「イスラエルはイランの核開発計画に対する行動の準備を大幅に加速」したと語っている。コハビ参謀総長は、「国防予算の大幅な増加は、この目的のためだ。それは非常に複雑な仕事であり、はるかに多くのインテリジェンス、はるかに多くの運用能力、はるかに多くの兵器を備えている。私たちはこれらすべてに取り組んでいる」と指摘している。

同参謀総長によると、イスラエル軍は1月、対イラン戦争の作戦計画を準備し、8月に入ってイランの核開発の進展を受け「作戦計画はスピードアップされた」というのだ。

ナフタリ・ベネット首相は9月、国連総会での演説で、「イランの核開発計画は分水嶺の瞬間を迎えた。私たちの寛容もそうだ。言葉だけでは遠心分離機の回転を止めることができない。私たちはイランが核兵器を取得することを絶対に許さない」と述べているほどだ。

イスラエルのベニー・ガンツ国防相は8月4日、「イランは2015年7月に核合意した包括的共同行動計画(JCPOA)の内容に全て違反している。同国は10週間以内に核兵器用の核物質を生産できる」と警告している(「イランが10週間以内に核兵器取得へ」2021年8月6日参考)。

イスラエルは、イランと国連安保常任理事国5カ国(米英仏ロ中)にドイツを含む6カ国との間で締結したJCPOAを「イスラエルの安全を脅かすもの」と受け取ってきた。トランプ前米政権が2018年5月、イラン核合意から離脱を表明したのはイスラエルの意向を汲んだ結果だ。トランプ前米大統領は、「核合意はイランの核兵器製造を阻止できないばかりか、イランはイエメン、イラク、シリア、レバノンで武力テロ勢力を支援し、中東の安全を揺るがしている」と主張してきた。

バイデン米政権はイランが2015年7月に核合意したJCPOAに復帰することを願い、イランとの間接的な交渉を行ってきたが、イランで保守強硬派のライシ大統領が誕生し、イラン指導部で反米・反イスラエル路線が台頭してきているだけに、交渉は更に難しくなってきた。

イランはJCPOAの核合意を一つ一つ違反してきた。同国は19年5月以来、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4・5%を超えるなど、核合意に違反。19年11月に入り、ナタンツ以外でもフォルドウの地下施設で濃縮ウラン活動を開始。同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。昨年12月、ナタンツの地下核施設(FEP)でウラン濃縮用遠心分離機を従来の旧型「IR-1」に代わって、新型遠心分離機「IR-2m」に連結した3つのカスケードを設置する計画を明らかにした。そして、今年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている、といった具合だ。なお、イラン議会は昨年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。

なお、イランの国営通信(IRNA)によると、イラン議会(マジュリス)の国家安全保障および外交政策委員会のスポークスマン、マフムード・アッバスザデ・メシュキニ氏は18日、「イランに課せられた制裁解除と米国とヨーロッパによる核コミットメントの履行が核交渉を再開するための第一歩である」と述べ、「米国が制裁を解除しない限り、イランは核交渉に参加する考えはない」と、これまでの主張を繰り返している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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