「転換が遅かった」:百貨店コールズの新戦略は、アクティビスト投資家への抑止力にはならない

DIGIDAY

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アクティビスト投資家は、1年以上にわたってコールズ(Kohl’s)を支配しようと試みてきた。これに対して同社は、話題性のあるパートナーシップを結び、小売戦略を刷新しようとしてきた。しかし、このような最近の活動は不十分かもしれない。

同社は過去数年間にわたり、売上を増やすために2つの大きなパートナーシップに投資してきた。同社は2019年から、顧客が店舗内でAmazonの返品を行えるようにし、次の年にはそのパートナーシップに続いて、数百のセフォラ(Sephora)店舗内ストアを開設すると発表した。コールズはさらに、自社の品揃えを刷新し、より人気のあるアスレジャーのスタイルやブランドを取り入れた。一方で、同社は今年3月に行われた第4四半期の決算発表において、2021年全体の営業利益率が8.6%に増加したと発表した。さらに同社は、2022年に2〜3%の売上増加を見通している。

しかし、このような段階的な改善を行っても、コールズの株式の5%を保有するマセラムアドバイザーズ(Macellum Advisors)が同社に対して、すべてまたは一部の業務の売却を要請するのを止めることはできなかった。アクティビスト投資家であるマセラムは、コールズへの最新の提案として、コールズがマセラムの後援する10人の人物を役員会に任命することを求めた。コールズは役員会のメンバーに対して、この提案を拒否するよう求めた。しかしマセラムは依然として、コールズへの圧力を緩める気配はない。

このため、コールズが自社の操業を立て直すことができるかどうかはいまだ未知数だ。経営不振に陥っている百貨店である同社は、困難な状況に直面している。米モダンリテールと対談したアナリストたちは、同社が長期的に身売りを検討しているかは明確でないとしたものの、同社の転換戦略が遅かったことは認めている。

マセラムの攻撃

コールズは何年にもわたり、そこそこの収益をあげてきた。同社は2021年の第2四半期に、ようやくパンデミック前の2019年の収益額を回復した。しかし2019年の収益は2018年の収益を下回り、2018年の収益は2017年とほぼ同額だった。同社は昨年、第2および第3四半期に良い業績をあげた。しかし第4四半期の収益はアナリストの期待を下回り、多くの同業の百貨店と同様に、一貫した成長に長いあいだ苦闘してきた。

マセラムの介入はおもに、より広範囲な百貨店カテゴリーの苦闘を焦点としたものだった。マセラムは2021年2月、コールズに送った最初の株式公開買付書簡のなかで、コールズが「同業他社と比べて慢性的に業績が低い」とし、「操業成績の弱点」を示した。

マセラムは最新の提案で、コールズが2つの買収の申し出を拒否したのは、現在の役員会が株主に対する受託者責任を軽視しているためだと指摘した。また同社は、コールズが10年以上にわたって既存店成長率を公表していないことも強調した。これに対してコールズは、任命候補者となった10人は不適任だと述べた。そのうち6人は過去に取締役を務めた経験がなかった。コールズは、同社が以前に拒否した身売りの申し出では、同社が株式あたり64ドル(約8190円)に評価されており、マセラム自身が同社について見積もった100ドル(約1万2800円)を下回っていると付け加えた。

これは、株価を最大化するためにコールズのビジネスのすべてまたは一部を売却しようと望んでいるマセラムとのあいだの、すでに1年以上にわたる応酬における最新のやり取りにすぎない。

マセラムは2021年2月、まず、コールズのアンコラホールディングス(Ancora Holdings)、リージョンパートナーズアセットマネジメント(Legion Partners Asset Management)、4010キャピタル(4010 Capital)とのパートナーシップに目をつけた。次に、マセラムの投資家は役員会をコントロールして、エグゼクティブの給与削減、在庫水準の低減、不動産の売却を行おうとした。コールズはこの全面的な取締役会乗っ取りの試みを2月に拒否したが、同グループは4月に3人の新しい役員を迎えることに合意した

しかしロイター(Reuters)は同年の12月初旬、コールズがマセラムによる売上予測を下回ったことを受けて、マセラムが同社に再度挑戦する用意を進めていると報じた。実際にマセラムは2022年1月、役員会に自分たちのメンバーをさらに増やすよう求めた。その1月の直後、コールズは複数の買収提案を受けたことを発表し、2週間後にはそれらの申し出を拒否した

マセラムが、役員会に10人のメンバーを置くという直近の要求は、これらの拒否を受けたものだ。

「コールズに対する最初の関心は、尽きることのない慌ただしい動きも生み出した。同社に関心を持つ関係者が多いのはそのためだ」と、グローバルデータ(GlobalData)のマネージングディレクターであるネイル・サンダース氏はメールに記した。

しかし、これらの申し出は、長期的に見てコールズにとって最良のものではないかもしれないと、サンダース氏は指摘する。

サンダース氏は次のように述べている。「ほとんどのアクティビスト投資家は儲けに敏感だ。これらの投資家は、不動産の売却や、eコマースビジネスの分離などによって、コールズを収益化できると信じている。たしかにこれらの行動によって多少の短期的な利益は得られるだろうが、コールズの長期的な利益にはつながらない」。

コールズは時間をかけた改善をめざす

そして、コールズは多くの点において、自社ビジネスの改善に努めてきた。

もっとも重要な点として、同社は在庫管理の合理化を試みてきた。同社は近年に、マッド(Mudd)やキャンディーズ(Candie’s)など業績の悪いアパレルブランドの販売を止め、リーバイス(Levi’s)のような有名なブランドとのパートナーシップを拡大すると述べた。

「当社の在庫は昨年に準じ、最新の入荷を維持しており、顧客からの反応もよい」と、CEOのミッシェル・ガス氏はコールズの第4四半期の決算発表で述べた。

全体として、同社はアスレジャーを中心としたアパレルポートフォリオに転向する意図も公表した。同社は独自のアスレジャーポートフォリオを立ち上げ、昨年、チャンピオン(Champion)の販売をはじめ、ランズエンド(Land’s End)やエディーバウアー(Eddie Bauer)とのパートナーシップを開始した。

ジェーンハリ・アンド・アソシエイツ(Jane Hali and Associates)の小売リサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏は次のように述べている。「コールズは自社ビジネスを転換するため、百貨店部門のなかでうまく事業の立て直しを図っている。不採算ブランドを排除し、消費者にとってもう少し興味を引くようなブランドを招き入れた」。

またコールズは、セフォラとの店舗内ストアのパートナーシップや、Amazonの返品プログラムを活用し、コールズの店舗に新たな顧客を引き入れた。

ガス氏は次のように述べている。「セフォラがある店舗は、セフォラを扱わない店舗と比べて、1ケタ中盤の売上増加を達成している。セフォラを訪れてショッピングを行う顧客の25%は、コールズにとって新しい顧客だ。ここに多くの機会がある。そして、当社はそれを促進している」。

フットトラフィック分析企業のプレイサーエーアイ(Placer.ai)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏は、コールズの「店舗のうち、セフォラの店舗内ストアがあるものは、ほかの店舗よりも常によい業績を上げている」と述べている。一方でサンダース氏は、Amazonの返品サービスを「賢明な動き」と称賛している。

しかし、ラミレス氏は「転換が遅い」と指摘している。

同社の売上は前年比で増加しているが、その比較対象はパンデミックのために同社、および百貨店業界全体の売上が壊滅的だった時期だ。プレイサーエーアイのデータによれば、同社の今年の訪問客数は2019年よりも平均16%減少している。第4四半期の売上高はアナリストの予測を下回った

サンダース氏は次のように述べている。「ビジネスの中核となる部分は、まだまだ活性化させる必要がある。精彩を欠いていると感じる店舗が多すぎるし、みすぼらしく感じられる。ホーム用品などの分野は十分な説得力がなく、店舗内のマーチャンダイジングにも多くの不満が残る」。

同氏は、コールズはこれまで、独自の差別化された提案を社内で作り上げることなく、Amazonやセフォラなどのサードパーティに過度に依存してビジネス展開してきたと付け加えている。

同氏は次のように述べている。「アクティビストたちが、コールズの業績を向上させるべきだと述べているのはもっともな指摘だが、彼らが提案する解決策はその業績を達成するための方法ではない。同社をATMとして扱うのではなく、ビジネスの構築についてより多くの声が必要だ」。

[原文:‘Slow turnaround’: Kohl’s new initiatives may not be enough to keep activist investors at bay]

Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image and video courtesy of Kohl’s. ©2017 Kohl’s Department Stores, Inc.

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