Apple 、Apple TV広告プロダクトを水面下で推進:年内には詳細が明らかに?

DIGIDAY

Appleが広告業界を視野に入れつつあることは周知の事実であり、同社のメディア部門はすでに、検索広告で毎年40億ドル(約5960億円)を生み出している。そしていま、出稿するスクリーンをさらに増やすことによって、その取り組みをさらにステップアップしつつあるようだ。

Appleとそれぞれ予備交渉を行ったメディアエージェンシー幹部たちの話によれば、同社は広告再生付きオリジナル動画コンテンツのマネタイズに本腰を入れる準備を整えているという。

今回取材したメディアエージェンシー幹部たち(この交渉の機密性と、プライバシーを重視するAppleの社風を考慮して、全員が匿名を希望)の話では、その詳細が年内に明らかにされることになっているという。

米DIGIDAYは持株会社幹部たちとの交渉の本質に関するコメントをAppleに求めたが、回答は得られなかった。各関係者の話では、Appleは、広告プラットフォーム担当バイスプレジデントのトッド・テレシ氏が中心になって、各社を回って、首脳陣との話し合いを重ねているという。こうした会合の席で、テレシ氏はエージェンシー関係者がいう「Apple TVでの広告枠販売への通常と違うアプローチ」を説明しているという。

オーディエンスピッチ

ある関係者によれば、Appleは数カ月前、大半のTVセラーが市場に出している従来型のオーディエンスベースのピッチよりも、むしろ検索広告の販売に近い広告販売アプローチを話題にしていたという。Apple TVの幹部たちは、Googleやマイクロソフト(Microsoft)の検索広告の購入のされ方と似たような方法で、APIベースのプラットフォームを構築することを話題にしていたといわれている。

「クリーンルームも信じていないし、いかなるデータの活用も信じていない。それが明確に打ち出されたAppleの見解だ」と、同関係者は語る。「Appleは当時、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)との提携に強く反対していた。そして、AppleにDSPを構築する力はないとも言っていた」。

その後、このアプローチが変わった。米DIGIDAYが8月に報じたように、Appleは現在、DSPの構築に取り組んでいる。先日、Appleと会合を持った別の持株会社幹部も、同社は自社のTVインベントリー(在庫)にDSPを用いる計画を進めていると述べている。「Appleは実際に、マップやメールといった自社アプリを介したネイティブインベントリーを豊富に抱えているので、DSPが導入されても、実際には自社が所有・運営するTVコンテンツに関してのみ用いられるだけだろう」と、同幹部は語る。

Apple TVはすでに、メジャーリーグベースボール(MLB)の試合放送で広告を流しているが、その広告を販売しているのはAppleではなくMLBだ。だがApple TVには、複数部門でエミー賞を獲得している『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく(Ted Lasso)』をはじめ、広告を流せるオリジナル番組はいくらでもある。

「非常に素晴らしい広告体験になるはず」

問題は「それがいつ開始されるのか?」だ。あるエージェンシー関係者によれば、Appleはそのメディアエージェンシーネットワークに対して、第4四半期のクライアント予算の確保を求めてはいないという。したがって、その時期は2023年はじめになる可能性が高いと考えられる。

「(コネクテッドTVでもストリーミングでも)プレミアムインベントリーの開放につながるものなら何であれ、それは支持するに値するものだ」と、同幹部は語る。「その最後の砦がApple TVだ。おそらくは広告読み込みの少ない、非常に素晴らしい広告体験になるはずだ。Appleの収入源はすでに非常に多様化しているので、多くの広告を入れなくてはならないというプレッシャーは少ないのではないだろうか」。

3人目の持株会社幹部も今年の夏、Appleのテレシ氏と面談し、スポーツ番組(メジャーリーグサッカー[MSL]との10年契約など)をめぐる広告機会についての話を聞かされたが、Apple TVの広告付きプランについては触れられなかったという。

同幹部によれば、テレシ氏は11月に同持株会社との再度の会合を開くことを望んでいるという。広告付きプランの話はそのときに持ち上がるのではないかと、同氏は考えている。テレシ氏は、「広告事業の拡大に関心を示したが、ひとつには、大きなチャンスに恵まれない限り動かないこと。もうひとつは、顧客との関係を危うくすることは絶対にしないということも明確にした」と、同幹部は語る。

伸びるモバイルの数字

Appleは既存の広告事業が生み出す売上のデータを公表していないが、その中心は、App Storeの検索広告販売と、NBCユニバーサル(NBCUniversal)とのタイアップ(NBCユニバーサルのセールスチームは、「Apple News」などのアプリでのインベントリー販売を許可されている)だ。

JPモルガンのアナリストによれば、その年間売上は40億ドル(約5960億円)前後と推定されており、60億ドル(約8940億円)にまで上昇すると予想されている。カウンターポイント・リサーチ(Counterpoint Research)の推定では、米国内におけるiPhoneのマーケットシェアはAndroidスマートフォンのそれを上回っており、6月現在のマーケットシェアは50%となっている。

その一方で、米DIGIDAYがAppleによるDSPのローンチ(プライバシーをめぐる同社の過去の声明を考えると、その市場への導入には手抜かりのなさが要求されるだろう)を報じる前月には、同社はApp Storeにおける新たな検索広告プレースメントも発表している。

過去の教訓

同セクターに身を置くベテランなら、Appleによる広告業界へのこの魅力的な攻勢は、10年以上前にiPadのロールアウトと時を同じくして展開された「iAd」のロールアウトを思い出させるだろう。関係者の話では、iAdは印象的だが値段が高すぎ、市場心理と同調しないままローンチされたプレミアム製品だったという。

一部の目には、iAdは時代の先を行っているように映った。だが、とりわけ広告バイヤーの多くは、Appleの営業スタッフは、広告業界のベンダーとして成功するために必要な謙虚さと柔軟さに欠けているという印象を抱いた。2016年にiAdが事実上の終わりを迎えたのは当然だった。

アドテクスタートアップ数社のアドバイザーを務める元グループエム(GroupM)のベテラン、ロブ・ノーマン氏は、8月に表面化したAppleのプログラマティックの野望についてのインタビューで、iAdは「ファーストクラス」のモバイル体験だったが、その効果を示す証拠がほとんどなかったと述べている。

「それを実際に選んだクライアントにとって、iAdは、クリエイティブ面だけでなく、キャンペーンの進行全般のサポートに関して、非常に手厚いサービスだった」と、同氏は語る。「そして、広告主向けの手厚いサポートビジネスを行うための人材が置かれたわけではなかった」。

過去からの教訓を得たApple

iAdの初期ロールアウト時に、アイクロッシング(iCrossing)でモバイルスペシャリストチームを率いたレイチェル・パスクア氏(現在はプロハスカ・コンサルティング[Prohaska Consulting]のCMO)は、当時のAppleの言動を見ればわかるが(ちょうどそのころ、Googleも「モバイルファースト」のスローガンを声高に提唱していた)、「Appleは、メディアはテックビジネスとは全くの別物であるということに気付いていなかった」と述べる。

「もちろん、iAdはプレミアム製品だった。私が思うに、Appleは一方的に値段を指定できることに慣れきっていたが、そんな手はメディアには通じない」と、同氏は語る。「質問が常に飛び交うメディアの住人たちは、Appleが『これはAppleのプレミアム製品なのだから、こちらがいう金額を払え』といっていると解釈した」。

「もちろん、メディアコミュニティーの受けは悪かった」と、パスクア氏は付け加える。同氏も、他の関係者数名と同じく、iAdの営業幹部は所定のセールスデッキから外れることをほとんど許されていなかったのではないかと私見を述べた。

しかし、広告業界経営幹部たちへのアプローチを続けるなか、Appleが会合の席で見せる探索的な性質と協力的なトーンが示唆するのは、2010年代はじめの広告業界への進出から、Appleが教訓を得ているということだ。Appleはいま、プライムタイムのTV広告販売という領域へ足を踏み入れ、自社によるモバイルの支配体制をいっそう盤石なものにしようとしている。

[原文:Apple is quietly pushing a TV ad product with media agencies

Michael Bürgi and Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)

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