大人気スウェーデン人ユーチューバー、PewDiePie(ピューディパイ)ことフェリックス・シェルバーグ氏は6月第3木曜、大々的なリブランディングを発表した。
同氏が大幅なイメージチェンジを図ったこの姿勢は、ゲーミングクリエイターにおけるブランドセーフティの重要性に対する意識高揚の好例にほかならない――そして、業界固有のエージェンシーによるその舵取りの実例でもある。
シェルバーグ氏のリブランディングは、有力ゲーミングユーチューバーである氏――ゲーミングクリエイターとして10年近く、YouTube最大のサブスクライバー数を誇っている――と、ゲーミング界固有のクリエイティブエージェンシー、ペーパー・クラウンズ(Paper Crowns)との提携によるものだ。
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四角形のサイケデリックなシンボルや「ブロフィスト(brofist)」のロゴを含め、これまでシェルバーグ氏が使用していたブランドアセットを刷新するにあたり、ペーパー・クラウンズのデザイナーらは愛犬エドガー(Edgar)をはじめ、氏のコンテンツおよびファンダムで人気の諸々や、氏のお気に入りのビデオゲームを採り入れた。
ロゴも一新し炎上イメージから切り離す
「まず、『あのブロフィストは新しいものと替えよう』と考えた。少々大人っぽいものにしよう、ロゴに拳(フィスト)があることで連想されかねないあらゆる反抗的イメージから離れてみよう、もっと同時代的で、もっとモダンで、洒落た、究極的にはシンプルなものに移行していこうと」と、ペーパー・クラウンズのリードアートディレクター、ルーカス・ハエン氏は話す。
今回のリブランディングは、シェルバーグ氏を過去の炎上騒ぎから切り離す一助になりうるものであり、氏にとってはそこも大きなメリットだ。2020年の活動休止に至る以前、シェルバーグ氏はしばしば攻撃的/不快と受け取られたエッジの効いたコンテンツや、一部のファンによる問題行動が引き起こした騒動の渦中にあった。
ただ、シェルバーグ氏の名誉のために書くと、活動休止から復帰して以降、氏は物議を醸しかねない言動と距離を置いており、最近のコンテンツの大半は実際、懐妊中の妻マルツィア・シェルバーグ氏と送る日本での穏やかな日々を見せるなど、健全な空気感に満ちている。
シェルバーグ氏がかつて物議を引き寄せる存在と見なされていたのは事実だが、いまはアンドリュー・テイト氏やアディン・ロス氏といった、毒や棘を売りにするクリエイターらに比べれば、いわば人畜無害な存在だ(シェルバーグ氏陣営は、今回、取材依頼に応じなかった)。
コンテンツはすでに生まれ変わっている
「成長という言葉は使いたくないが、それに近いものがあるのは認める」と、ペーパー・クラウンズの創業者スカイラー・ジョンソン氏は話す。「それに彼は、もうすぐ息子ができる、自分は父親になると発表した――それも大きいのだと思う」。
物議や炎上の記憶とブランドを切り離すには、イメージ/ビジュアルの刷新以上のものが必要な場合もあるが、シェルバーグ氏の場合、氏のYouTubeコンテンツがすでにそうした黒歴史と完全に決別している事実も一助になった。シェルバーグ氏による今回のリブランディングは、ブランドセーフティに向かう動きの集大成であり、その旅路の始まりではない。
「今回のこれは賢明な戦略になりうる。というのも、以前の騒動から十分な時間が経過しており、これまでとは違うかたちで、過去の余計な荷物を大量に引きずることなく、いわば改めて自己紹介をする準備が、ある程度整っているからだ」と、リブランディングエージェンシー、リブランディング・エクスパーツ(Rebranding Experts)の創業者ジム・ハイニンガー氏は話す。
また、シェルバーグ氏による今回のリブランディングには、ほかにも潜在的メリットがある。これは、ゲーミング界に精通する業界固有のエージェンシーとの提携を通じてクリエイターがどのような利益を得られるのかを示す、端的な例だからだ。実際、今回のリブランディングはそもそも、シェルバーグ氏の主導ではなく、氏のチームが2022年9月、マーチャンダイズおよび新たなランディングページのデザインの件でペーパー・クラウンズに連絡したことをきっかけにして始まった。
クリエイターにマーケティング戦略を与える
ペーパー・クラウンズのデザイナーらは、同プロジェクトを始めてすぐさま確信した。より一貫した、揺るぎないブランドアイデンティティの確立が、シェルバーグ氏にとって大きな利益になると。そこで彼らは後日、ブランドの一新を氏に提案した――そして、氏はそれを受け入れた。何カ月かの共同作業を経たいま、人々の目の前にあるのがその結果だ。
「彼らには何億人というサブスクライバーがいて、おそらくは我々皆の想像を超える額を稼いでいる――にもかかわらず、誰一人、マーケティング戦略というものを持っていない」とジョンソン氏。「だから、彼らのブランドに取り組めば、誰でもすぐに気づく。『おいおい、あって然るべき構造もアイデンティティも、何一つないじゃないか』と――実に興味深い」。
[原文:How PewDiePie’s rebrand shows gaming creators’ growing focus on brand safety]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集::分島翔平)