カンヌライオンズ 2023が開幕。参加パブリッシャーに「バカンス気分」はなし

DIGIDAY

世界最大級の広告賞とマーケティング・コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル2023」(Cannes Lions International Festival of Creativity 2023:以下カンヌライオンズ)が6月19日に開幕した。5日間にわたる祭典の舞台は絵のように美しい南仏リビエラ地方のカンヌだが、パブリッシャー各社から派遣される人々はみな、「バカンス気分に浸ってはいられない」と気を引き締めているだろう。

今年2023年のカンヌライオンズ参加企業の主な目的は、広告費の獲得だ。米DIGIDAYが本稿作成にあたって事前に取材したパブリッシャー幹部7人によると、日々のスケジュールの大半が1カ月前から組まれており、1対1のミーティング、招待客限定イベント、ハッピーアワーなど、ブランド各社のマーケターやエージェンシー幹部と過ごす時間が最大限にとれるよう調整したという。

パブリッシャーの狙いは、自社のメディア部門が運営する広告事業の案件獲得につながる情報だ。幹部らが会場を去るころには、半年分のリードがぎっしり書き込まれたスプレッドシートを手に入れられるかもしれない。

少人数で効率よく

カンヌライオンズ2022では、メディア企業主催のイベントで豪華ヨットのチャーターなどかなり贅沢な演出もみられたが、2023年はそこまで望めないだろう。今回取材に応じたパブリッシャーのうち数社は、カンヌに派遣するチームは少人数にとどめ、大規模イベントより1対1のミーティングに注力すると答えている。

「いまの事業環境では、ヨット上の豪勢なパーティはやりにくい」と、BDGメディア(BDG Media)のプレジデント兼チーフリスクオフィサーであるジェイソン・ワーゲンハイム氏は述べる。同社は2022年、午後のパネルディスカッションと超豪華ヨット「JOY ME」上でのカクテルレセプションを主催したが、DIGIDAYへのメールによると2023年、ワーゲンハイム氏は単身カンヌ入りし、クライアントとのミーティングに集中するつもりだという。

また、フューチャー(Future plc)もジョン・スタインバーグCEOによると2023年は「控えめにやる」方針で、同氏はエージェンシー開発担当役員とともにカンヌ入りする。同氏は「カンヌライオンズに参加するなら、控えめにやるか、大々的にやるかのどちらかだ。中途半端だと、目立たなくなってしまう」と話す。

フューチャーは今回、大規模イベントを主催しないため、CEOは浮いた時間をできるだけ「ブランドやエージェンシー各社の代表との会合に使いたい」として、コーヒーを飲みながらの30分のミーティングを5件ほど入れる予定だ。また、招待されたカクテルパーティ全部に出席の返事をしているが、「これは酒を大量にただ飲みするためではない」と、スタインバーグ氏はいう。1回のパーティで20分から30分、クライアント企業やパートナー候補のエージェンシーの幹部と話をしてから次のパーティへ移動するといった具合に、時間を有効活用しようというわけだ。

一方でワールドオブグッドブランド(World of Good Brands:以下WGB)は、会社代表としてカンヌライオンズに派遣するチームを、リンジー・エイブラモCEO、クライアントサービス責任者、エクスペリエンシャル・イノベーション責任者の3人に絞った。なお、WGBはグラハムホールディングス(Graham Holdings)傘下の新興メディア企業で、同ホールディングスに買収されたリーフグループ(Leaf Group)を再編して2023年5月に設立された。

「私は通常、カンヌライオンズのような場では少人数で動くことにしている。滞在中の時間を有効活用して、事業の収益化につなげるという重大な責任があるからだ」とエイブラモ氏はいい、カンヌ滞在中の3日間、毎日、朝食、昼食、夕食時に設定されているクライアントとのミーティングへの出席が最重要だと付け加えた。残る2人の幹部も同様に、1日に5件から8件のミーティングを予定している。

パブリッシャー主催のイベント

一方で、このような「少人数で効率重視」の方式とはやや異なる体制でカンヌライオンズにのぞむのが、アクシオス(Axios)とコンデナスト(Condé Nast)だ。アクシオスの場合、クライアントとのミーティングの出席者はビジネス収益チームの4人のみだが、主催する大規模イベント運営のために編集者を含む追加スタッフ(総人数は非公開)を派遣する。コンデナストはCEOのロジャー・リンチ氏以下、合計10人がカンヌに出張するが、そのうち半数はビジネス収益チームのスタッフだという。

アクシオス、コンデナスト、WGBの3社とも、2023年のカンヌライオンズでは対面のイベントを予定している。

アクシオス主催のパネルディスカッションは、スタグウェル(Stagwell)協賛のスポートビーチ(Stagwell Sport Beach)でおこなわれる。アクシオスのクライアントパートナーシップ/購読サービス担当シニアバイスプレジデントのジャクリーン・キャメロン氏によれば、同社にはこのイベントのスポンサー収入が入る見込みだ(金額は非開示)。

アクシオスには、社名を冠したイベントで存在感を示す以外にも、個別ミーティング開催という目的がある。キャメロン氏とそのチームは、ビーチ会場のスペースをクライアントとの打ち合わせに活用するという。

コンデナストの広報担当者によると、同社がユニバーサル・ミュージック・グループ(Universal Music Group)と提携して主催する「親密な雰囲気のディナー」にて、ミュージシャンのジョン・バティステによる演奏が予定されているという。

形式ばらない話し合いができる場

WGBのエイブラモ氏がカンヌライオンズのイベントで指揮をとるのは今年が初めてだが、同氏は自ら進んで挑戦している。新生WGBが運営するサイト、とくに最大のブランドであるウェルアンドグッド(Well + Good)を広告主各社に売り込むには、盛大な宣伝が欠かせないからだ。

「私は常々、カンヌライオンズに『ウエルネス』の要素が欠けていると感じていた」とエイブラモ氏はいう。「以前はよく、街や会場の喧騒から逃れて休息がとれる時間を確保しようと、クライアントをスパに連れて行ったり、クロワゼット大通りの賑わいを避けて坂の上まで登り、眼下で繰り広げられる大騒ぎを見下ろしながら極上のディナーを楽しんだりしていた」。

2023年は、ウェルアンドグッドのサイト内の「ウエルネストレンド(Wellness Trends)」特集の実践編として、ウエルネスに配慮した体験プログラムがカンヌライオンズに登場する。会場はフィーメイルクオティエント(Female Quotient)協賛のイクオリティラウンジ(Equality Lounge)で、カンヌで起こりがちな、飲みすぎ、日焼け、睡眠不足からの回復を助けるべく、水分補給療法やビタミンB12注射、CBDスキンケアなどのサービスを提供する。

エイブラモ氏とそのチームは、参加者がサービスを受けているあいだの時間を商談に活用できる。会場のラウンジは、たまたま立ち寄ったブランド各社のマーケターやエージェンシー幹部との形式ばらない話し合いや、ウェルアンドグッドのブランドを訴求したい相手向けのプレゼンテーションの場となりそうだ。

ビジネスチャンスにつなげる

WGBは設立間もないメディア企業だけに、マーケターやエージェンシーとのミーティングではまず自社の紹介が中心になる。しかしエイブラモ氏は、単なる紹介に終わらせず、早い段階で本格的な商談に発展させたい考えだ。

「2023年下期、とくに第4四半期には相当数の商談が具体化してくるため、来たる2024年に向けて、見込み顧客との関係構築のみにとどまらない成果を狙いたい」と同氏は意気込む。

アクシオスのキャメロン氏も自身が率いるチームとともに、カンヌライオンズ期間中は商談の発展に期待している。毎月のようにキャンペーンを企画、実行している広告主の現状を考えれば、2023年も新たなパートナーシップ開拓の見込みがあるという。

「カンヌでの対話を通じて私が目指すのはまず、クライアントが解決しようとしている問題を深く理解することだ。そこから一定のパターンを見い出し、知見として本社に持ち帰って担当チームに共有したい」とキャメロン氏は語る。

一方、フューチャーのスタインバーグ氏は、カンヌ滞在中に収集した情報をもとに50から100項目のアクションアイテムをまとめ、帰国し次第、営業チームのタスクとして割り当てるつもりだという。ただし、50回から100回もの議論が必要というわけではない。今回はエージェンシー幹部に的を絞っているため、1回のミーティングにつき数社のクライアント向けキャンペーン施策を取り上げることができる。

「契約の成立が1カ月先、2カ月先になるか、6カ月先か来年かはわからないが、リードは多ければ多いほど成果につながるチャンスが広がる。カンヌライオンズへの参加は、リード開拓のためでもある」とスタインバーグ氏はいう。

クライアントと直接的な関係を作る

パブリッシャーのなかには、カンヌライオンズの場でブランド各社と直接やりとりする方法を選ぶ企業もある。長期的な関係の確立を期して、2024年の案件の契約交渉に入ろうという意向だ。

「エージェンシー抜きでやるつもりはない。大型契約獲得に向けた交渉には、まずクライアントと直接の関係を築いておいて、それからエージェンシーに介入してもらうほうがいい」と、某デジタルメディア企業の収益責任者は述べる。

匿名を条件に取材に応じたこの収益責任者は、過去1年を振り返って、次のように語った。「大半のブランド広告主が契約案件を絞り込み、すでに付き合いのあるパブリッシャーとの大型取引を優先する傾向にある。カンヌライオンズで当社の収益チームが出席するミーティングで扱うトピックは、大規模イベントや第4四半期のクリスマス商戦向けキャンペーンが中心になるが、これはブランド広告主との2024年の取引確約に向けて議論を促すのが主な目的だ」。

[原文:Media Briefing: Publishers’ guide to Cannes

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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