プログラマティック マーケットプレイスはなぜキュレーションされないのか:「新たな手法に挑むより、現状維持を選択する広告主が多いのでは」

DIGIDAY

「キュレーション」はいまや、デジタル広告業界で活動する多くの企業にとって「あって当たり前」のサービスとなった――ただし広告主においては認識が異なるようだ。

広告主企業は従来どおり、プログラマティック広告枠の大半を、総合的な(透明性が担保されていない場合が多い)単一のマーケットプレイスから買いつけている。しかし実のところ、その方法にこだわる必要はない。最近では、高品質の広告在庫を厳選して購入できる手段がいくらでもあるからだ。

主な業界動向として、プリファードマーケットプレイスやサプライチェーン最適化が普及しつつある。また、アドテクベンダーのなかには、不適格と思われるマーケットプレイスからの広告インプレッションを購入しない方針の企業も出てきた。

そうした取り組みが進めば、プログラマティックマーケットプレイスが複数の小規模サプライチェーンに分割され、マーケターは信頼のおけるパブリッシャーと、自社の目的に合う大規模な広告取引ができるようになるはずだ。ただし、それはまだ現実にはなっていない。

広告取引は高度化するも現状維持が続く

「オープンマーケットプレイスではプログラマティック広告取引の高度化など、いまだに新たな進展がある」と、メディアコンサルタント会社のTPAデジタル(TPA Digital)における英国地域責任者、ダン・ラーデン氏はいう。「端的にいえば、オープンマーケットプレイスでは、自社が買いつける広告枠について知識が十分にないか、関心が薄い広告主から多くの収益を獲得できる余地がまだ残っている」。

キュレーションされたマーケットプレイスの利用が進まない理由はさまざまだ。しごくもっともな理由としては「コストがかかる」、ほかには「導入した結果の責任を取りたくない」など。理由はひとえに、広告主がいまだにプログラマティック広告の複雑な仕組みに精通していないことに尽きる。

この点に関し、アドテク企業幹部たちの意見は一致しているようだ。

デジタルパフォーマンス専門エージェンシーであるロースト(ROAST)のペイドメディア部門責任者を務めるウィル・ジェニングス氏はこう述べている。「キュレーションされたマーケットプレイスが業界内で話題に上っているのは確かだが、当社のクライアントはプログラマティック広告の経験が浅い。業界全体としてはキュレーションへの移行という流れになるだろうが、当社のクライアント群においては中期的に、マーケティング手法に小さな変化がくり返し起こる程度だと我々はみている」。

つまり、これまで慣れ親しんできたアプローチを打破して新たな手法に挑むより、現状維持を選ぶという考え方だ――たとえ最良の選択でないとしても。

メディア支出を左右する「現状維持バイアス」

「この状況は、広告取引を主導する数多くの事業者の台頭を生んだ、かつての新興テクノロジーの負の遺産だといえる」と、メディアエージェンシーであるセブンスターズ(the7stars)のプログラマティック部門責任者、パトリック・シェパード氏は指摘する。「市場の成長にともなってさまざまな課題が浮上したが、プログラマティック広告取引がもたらす成果の裏で運用されているテクノロジーに関するマーケターたちの知識不足により、課題がさらに複雑になっている」。

未知のものや変化を受け入れない「現状維持バイアス」が、引き続き、広告主のメディア支出の動向を左右している。

プログラマティック広告コンサルタント会社のジャウンス・メディア(Jounce Media)創業者であるクリス・ケイン氏は、次のようなエピソードを紹介している。

「複数のメディアエージェンシーが、メッセージの直截性、消費者体験、コンテンツの隣接性、オーディエンスの関連性といった属性にもとづき、セグメント化した広告枠プールに対応するオークション手法を何カ月もかけて開発したらしい。ところが腹立たしいことに、せっかくそれだけの準備をしたのに、広告主企業のマーケターは自らの判断で、メディア予算の大部分を従来型のオープンオークションにつぎ込んでしまったという」。

テクノロジー活用の方向へ

この状況が近いうちに変わる兆しは見えない。しかし現時点で得られる情報だけでも、今後の展開予測の参考にはなりそうだ。広告の買い手であれ、売り手であれ、プログラマティック取引にかかわる企業の関係者にいま話を聞くと、異口同音にこう述べるだろう――オープンウェブ上の広告の見通しは明るいとはいえない。だからこそテクノロジーを活用して有望な分野を探求するのだ、と。

テクノロジーの活用自体はいまに始まったことではない。アドテクベンダーとエージェンシーは長年、オープンオークションの最大のメリットを引き出そうと努めてきた。しかし、プライベートマーケットプレイスを通じた取引は、広告主とパブリッシャー双方の当事者が徹底的に議論して諸条件を決めるにしても、拡張性に欠けるきらいがあった。

拡張性をもたらすのは、オープンマーケットプレイスにおいてプレミアム広告在庫を厳選してパッケージ化する手法だ。実のところ、業界は(ゆっくりとではあるが)この方向に進んでいる。

一部のメディアエージェンシーはクライアントの広告取引を支援すべく、キュレーションを活用したオープンマーケットプレイスでの広告インプレッション購入を可能にする、ツールの開発をアドテクベンダーに依頼している。めざすのは複雑なサプライチェーンや、格安だがプログラマティック広告の利点を帳消しにするような質の低い在庫を排除したマーケットプレイスだ。

メディアエージェンシーはSSOと組む

メディアエージェンシーは、自社で収集したデータと、各クライアントが達成したい広告効果の要件にもとづき、独自の方針に沿ったキュレーションを施したマーケットプレイス群を構築しようとしている。「キュレーションされたマーケットプレイスは、DSP、エージェンシー、アドエクスチェンジが、総合的な判断に基づき選りすぐった広告在庫を小さなセグメントに分類するという手法で成り立っている」と、アドテク・コンサルタント会社のアドプロフス(AdProfs)創業者ラッコ・ヴィダコヴィッチ氏は説明する。

なかでもメディアエージェンシーは、キュレーション分野でビジネスチャンスをつかもうという意欲十分だが、ほとんどの場合、SSPとパートナーシップを組んでいる。事情はいろいろあるだろうが、要は、適切なパートナー企業の力を借りたほうが、自社の計画の実現が容易になるからという理由が大きいと思われる。

「DSP最大手が契約を結んでいる相手はエージェンシーのアカウントチームが多く、メディアチームにとってはプログラマティック取引で差別化を図るのが難しい状況だ」と語るのは、マーケットプレイスのキュレーションに関与した経験のあるSSPの経営幹部だ。「一方、SSPの場合、とくに大手はメディアエージェンシーに協力的で、デバイスや商品開発を通じた差別化に力を貸そうという態度がみられる」。

かくして、プログラマティック取引におけるキュレーションされたマーケットプレイスへの移行は、出だしは少しつまずいたものの、ようやく(徐々にではあるが)勢いを増してきた。広告市場では、なんといってもエージェンシーのメディアバイイングの力がものをいい、企業の広告費の配分にも影響をおよぼす。この流れでいけば最終的には広告主も、キュレーションされたマーケットプレイスに注目せざるを得なくなるにちがいない。

[原文:The curation of programmatic marketplaces gathers pace across advertising – except with advertisers

Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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