メディア企業によるFIFA ワールドカップ 収益化戦略の内幕:「マネタイズの多角化のためにも、稼げるだけ稼ぐ」

DIGIDAY

サッカーメディアのフットボールコ(Footballco)は、日のあるうちにせっせと干し草を作るように、あるいは好機逸すべからずの精神で2022年の大半を過ごしてきた。

その好機とは、ほかでもないFIFAワールドカップのことだ。広告予算が乏しくなりがちな不況下でも、広告主たちには「猫にまたたび」のような効果を発揮する。こういうビッグイベントのあるときは、その波を逃してはいけない。

広告は目的を達成するための手段

メディア事業者も例外ではなく、フットボールコのようなスポーツメディアであればなおさらだ。同社はサッカーニュース専門サイトの「ゴール(Goal)」に加え、オランダの「フットボールゾーン(Voetbalzone)」やイタリアの「カルチョメルカート(Calciomercato)」などのローカルメディアをいくつも運営しており、収入の90%以上を広告販売で稼ぎ出す。

「メディア業界にとっては厳しい時期だが、ワールドカップはいくらかの援護射撃にはなる」と、フアン・デルガドCEOは話す。「今年中に稼げるだけ稼ぎ、来年はアフィリエイト事業やサブスクリプション事業など、ほかの分野にも資金を投入して、補完的な収入源を確保し、この景気後退期を乗り切りたい」。

つまり、広告は目的を達成するための手段だ。その目的とは、より多角的なビジネスモデルを構築することだとデルガド氏は話す。最終的には広告販売以外の事業が全収入の3分の1以上(35%)を占めることが望ましいという。現状はアフィリエイト広告とサブスクリプション事業でほぼ8%というところだ。

デルガド氏はめざす未来をこう描く。「次のワールドカップが開催されるころには、ウェブとアプリで月間1億人のユニークユーザーを持ち、その基盤のうえに副次的な収入源とコミュニティを備えた事業に成長していたい」。

多角化の必要性

誤解のないようにいっておくが、フットボールコはとくに問題を抱えているわけではない。むしろその経営状態はどこからどう見ても健全そのものである。そもそも、同社はりっぱな黒字企業だ。デルガド氏によると、今年想定している収益はおよそ1億ドルで、そのうち約8%がコンテンツ支出だ。さらに、最近では買収の動きもある。2020年に米国のプライベートエクイティ企業であるTPGキャピタル(TPG Capital)がダゾーン(DAZN)からフットボールコを買収して以降、フットボールコは数年のあいだに3つのサッカーメディアを立て続けに買収した。

とくに現在の情勢を考えれば、たいしたものである。いずれにしても、メディアで金を稼ぐ最良の方法は昔もいまも多角化で、それはこのさきも変わらない。少なくとも、権利ビジネスでない限りはそうだ。多角化は金のかかる競争だ。しかもフットボールコの場合、同社の少数株主であるダゾーンとも競合することになる。

「事業の多角化はどうしても必要だ」とデルガド氏は話す。「そうしなければ、また不況に転じたとき、財政的に非常に危うい状況に陥るだろう」。

サブスクリプション事業も多角化戦略の一環で、まずは「ムンディアル(Mundial)」から着手。ムンディアルはフットボールコが今年初めに買収した雑誌で、買収当時、約2万5000人の購読者と顧客を持っていた。以降、この購読者または顧客のうち1万人近くに雑誌やグッズを販売してきた。フットボールコはこの事業の拡大を計画しており、具体的には雑誌、グッズ、体験型イベント、さらにはオンラインコミュニティへのアクセスなど、多層的なサブスクリプションサービスを開発したいとしている。

組み合わせを工夫すれば、これまでより高い金額でも有料会員への登録を検討してもらえるだろうとデルガド氏は考えている。

「サブスクリプションパッケージの中身を充実させて、読者がより高い価値を認めてくれれば、年額32ポンド(7ポンドの季刊誌ムンディアル4冊分を含む)を60ポンドに増額し、サブスクリプション事業のRPU(ユーザーあたりの売上額)を増やせるのではないか」とデルガド氏は話す。

本当に大きなビジネスチャンスは「普通」のサッカーファンに

成功すれば、これをひな型としてほかのタイトルにも応用できる。次は女子サッカーメディアの「インディヴィサ(Indivisa)」。続けて、ユース向けの「NXGN」を通じグラスルーツ層にもアピールする。とくに後者は、うまくいけば大きな利益を生む領域だとデルガド氏は期待を寄せる。

「我々のコンテンツは常にエリートプロの視点から発信される。しかし本当に大きなビジネスチャンスは、日曜日の午後にボールを蹴る人すべてにリーチすることにある」と同氏は語る。「シューズを買う人、練習を受けたい人、栄養について知りたい人など、潜在的には数百万におよぶ人々だ」。

サブスクリプション事業は安上がりではない。読者収入モデルを構築する際は、アドテクからアナリティクスまで、さまざまな初期費用(そして隠れコスト)を考慮する必要がある。

とはいえ、成長は事業の酸素だ。そしてその供給元はふんだんにある。たとえば、ムンディアルの存在意義である古き良き時代のサッカーなど、専門的なトピックを扱ういくつもの小さなコミュニティも、フットボールコに定期的な収入をもたらしてくれるだろう。

今年2月にムンディアルを買収した当時、その読者数は2万5000人だった。しかしデルガド氏は「はじめから数百万単位の有料会員獲得を見込んでいるわけではない。まずは数十万人規模の獲得をめざす考えだ」と述べている。なお、現在の購読者数については公表を控えた。

ワールドカップ広告をテコに

もちろん、フットボールコにとって広告が悪いわけではない。だが、広告事業は環境に翻弄されやすく、アルゴリズムのちょっとした変更や景気の浮き沈みによって、広告予算は簡単に変動する。補助的な収入源の確保はきわめて合理的なのだ。

だからこそ、いまも事業の多角化を模索するメディア企業にとって、今回のワールドカップは重要な転機となる。

「2018年のワールドカップでは欧州の広告主が莫大な額の広告費を使ったが、中東から支出される今大会の広告予算は前回とは比較にならないほど大きい」とデルガド氏は指摘する。「ワールドカップとホリデーシーズンが時期的に重なるが、そのことで広告が受ける影響は、今大会の開催地とスポンサー企業の国籍によって(ある程度)軽減されている」。

デルガド氏と同氏率いるチームは、この勢いを来年の活動につなげるうえで、鍵となるのは動画だろうとみている。イングランド代表のジョン・ストーンズ選手やデクラン・ライス選手を起用したオリジナルの「ボックストゥボックス」シリーズや、カリム・ベンゼマ選手を起用したドバイ経済観光庁のキャンペーンなど、選手メインのコンテンツはとくにそうだという。

今後生き残るための戦略は

こうした活動の大半は、有機的成長を促すことを目的としている。しかし、どんな事業でも有機的成長だけで生き残るのは難しい。パブリッシャーも例外ではない。フットボールコが再び買収に乗り出すことを計画しているのもそのためだ。ゆくゆくは、欧州での事業を補強して、買収を通じてラテンアメリカに進出したいとデルガド氏は考えている。

スポーツマーケティングに詳しく、スタジアム・ライブ・ストゥディオス(Stadium Live Studios)のマーケティング責任者を務めるマット・ビロドー氏はこう話す。「スポーツビジネスを営む企業は、若いオーディエンスが単なるスポーツファンではないことを認識し、オーディエンスとともにブランド体験を作り出すインフラを整備する必要がある。これができれば、従来の広告収入だけに頼る企業に比べて、新たな収益を生み出せる可能性ははるかに大きくなる。若いオーディエンスは自分たちが慣れ親しんだ(ソーシャルやゲームなどの)メディアで、ブランドと本物の交流をしたいと望んでいる。ブランデッドエクスペリエンスは、ブランドとスポーツファンのあいだに双方向の対話を開くものだ」。

[原文:Inside one media company’s strategy to monetize the Fifa World Cup

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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