脱炭素化 の目標達成を阻む、広告目当ての悪質メディアの存在

DIGIDAY

いまやサステナビリティは、多くのパブリッシャーが経営理念に掲げる主要な柱のひとつとなっている。そして広告主やエージェンシーがメディアバイイングの低炭素化を最重要課題と位置づけるなか、広告事業の温室効果ガス排出量を削減する経済的インセンティブも生まれている。

しかし、こうしたサステナビリティ重視のプレッシャーをすべてのパブリッシャーが感じているわけではなく、また必要な対策を講じているわけでもない。その代表格が、広告収入を目当てに作られた、いわゆるMFA(made-for-advertising)サイトである。

実際、ひと握りの特に悪質な業者がプログラマティック広告の販売方法を改めない限り、広告業界による炭素排出量の削減努力はいずれ頭打ちになるだろうと見る識者もいる。

多くのパブリッシャーはサプライパス最適化で脱炭素に取り組むが

プログラマティック広告の販売を主な収入源とする企業が、在庫を売るための手段であるオークションの回数を減らすことに抵抗感を抱くのはある意味当然だろう。そして現状では、セルサイドの脱炭素化努力の大半は、同一の広告在庫の販売ルートを整理する、いわゆるサプライパス最適化(SPO)を出発点としている。

インサイダー(Insider)、ハースト(Hearst)、ガーディアン(The Guardian)などのパブリッシャーは、プログラマティック広告の販売プロセスから、繰り返しや重複を排除する取り組みを始めている。

しかし、プログラマティック広告のサプライチェーンマネジメントを支援するジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者であるクリス・ケイン氏によると、このようなパブリッシャーたちが行うプログラマティック広告のオークションは、すでにMFAサイトよりもはるかに少なく、彼らのSPOが広告業界のサステナビリティの目標達成に寄与する余地は限られるという。

ケイン氏はさらにこう話す。「ガネット(Gannett)、デイリーメイル(Daily Mail)、ヴォックス(Vox)、ハースト、ペンスキー(Penske)らは、細かいことを言えばきりがないけれども、基本的にはごく普通のウェブポートフォリオだ。ところがMFAサイトとなると、もはや異常と言いうしかない。ユーザーセッション当たりのオークション取引数が100倍や220倍はざらにある」。

MFAは在庫も悪質で買うに値しない

ジャウンスメディアは上位50のウェブポートフォリオ(その多くがパブリッシャー)を分析し、ユーザーセッション当たりのプログラマティック広告のオークション数に基づいて指標化した。すると、上位11社は最低でも56.5倍、最大で220倍も平均を上回っていた。ケイン氏は具体的な社名を挙げることは控えたが、上位20社の多くはMFAサイトに分類されうるものだ。同氏によると、こうしたチャネルで使われるプログラマティック広告費は15%から20%程度に過ぎない一方、デジタル広告市場のビッドストリーム全体の半分以上を占めるという。

「ごく少数のパブリッシャーが、ばかげた量のオークションを行っている。しかも、こうしたパブリッシャーの広告在庫はおそろしく低品質で、ほとんどのブランドやエージェンシーが買いたくなるような代物ではない」と、ケイン氏は話す。「彼らの排出する二酸化炭素は、業界全体の排出量の半分近くにのぼる」。

もっとも悪質なパブリッシャーは自分たちの広告ビジネスが排出するCO2にまったくと言ってよいほど無頓着だ。こうしたパブリッシャーの在庫は買うべきでないと、バイヤーや広告主は勧告を受けている。

広告エージェンシーのCMIメディアグループ(CMI Media Group)でイノベーションの責任者を務めるクリス・ドーフラー氏もこう述べている。「私たちは買いつけ戦略のなかで微妙な差別化を図り、もっとも優良なパブリッシャーの努力に報いる道を模索している。中くらいのパブリッシャーは切り捨てないが、ほんとうに最低のパブリッシャーとは取引しない。彼らの在庫はとにかく劣悪で、そもそも買うに値しないからだ」。

広告予算を回さないことで直接的なメッセージを

二酸化炭素排出量の測定を支援するスコープ3(Scope3)は、広告のバイヤーたちに「この種の在庫に予算を回してはいけない」と説いている。買わないことで、二酸化炭素排出量は削減されるし、必ずしも品質の良くないコンテンツを大量に作成して配信するコンテンツファームに対して、「あなた方の事業はサステナビリティの観点から倫理にもとる」と直接的なメッセージを送ることにもなる。

画像について:グラフの出典はスコープ3の「2023年第1四半期における広告事業のサステナビリティの動向(The State of Sustainable Advertising Q1 2023)」

しかも、いまやジェネレーティブAIを使えば、かつてないほどの規模でコンテンツページを量産できる。その結果、これまでよりはるかに多くの広告在庫、ひょっとすると1日あたり数百ページという規模のウェブページが作成されるようになっている。

ガーディアンの報道によると、ニュースメディアの信頼性格付け機関であるニュースガード(NewsGuard)がこの5月に行った調査で、「チャットボット記者」を活用するコンテンツファームが50近くも作られていることが判明したという。つまり、毎日数百を超える記事が作成され、こうした記事のなかの広告枠が数え切れないほど多くのオープンオークションで販売されているということだ。

そして、このようなテクノロジーを運用すること自体、二酸化炭素排出の問題をはらんでいることは言うまでもない。

「バイヤーがビッドストリームから排除できる事業者は10社ほどある。それは簡単に解決できる問題だ。政治的には悪夢だが、現実的には非常に明快な解決策だ」とケイン氏は語った。

[原文:How made-for-advertising publishers are stopping the ad industry’s sustainability goals

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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