「アウトバンド営業依存を脱し、広告主のRFP対象者リストに名を連ねる」: ジ・アスレチック CCO セバスチャン・トミック氏

DIGIDAY

2022年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times、以下NYT)傘下に入ったスポーツ専門サイトのジ・アスレチック(The Athletic)は9月から広告事業を立ち上げ、FIFAワールドカップをはじめとするスポーツ大会のスポンサー広告予算を獲得すべく活動を開始した。

しかし、同社のCCO(chief commercial officer)であるセバスチャン・トミック氏はほどなく現実を知る。ワールドカップのような大会に巨額の予算をつぎこむ広告主企業のメディアプランはすでに確定しており、NYTによるジ・アスレチック買収提案の何年も前から支出先がほぼ決まっていたのだ。

トミック氏によれば、残されたチャンスに賭ける同社の営業部隊の取り組みは、今後に向けて広告事業を軌道に乗せるための基盤づくりだという。たしかに、2023年もNFLスーパーボウルやFIFA女子ワールドカップなど大規模な競技大会が控えており、さらには2026年のFIFAワールドカップ北米大会を視野に入れた準備が必要になりそうだ。

とはいえ、ジ・アスレチックは将来の広告キャンペーンからの収入だけを当てにしているわけではない。景気が減速傾向を示すなか、トミック氏率いるチームは広告主を積極的に募集するほか、当初は乗り気でなかったプログラマティック広告取引も自社サイトに掲載しはじめた。

トミック氏は2022年9月、DIGIDAYの取材に応えて次のように述べていた。「あらゆる可能性を探りたい。オープンマーケットのプログラマティック取引にはまだ着手していないが、参入するなら、それは会社として必要性があると判断したからだ」。

ジ・アスレチックの営業チームは現在12名。いまや、同社のプログラマティック広告は売上を徐々に伸ばし、NYT広告事業部門の協力も得て、当初の目標どおり、2025年には黒字化が実現できそうだという。

広告事業参入から3カ月。12月14日、トミック氏はワールドカップカタール大会準決勝のフランス対モロッコの試合開始から20分間を割いてDIGIDAYのインタビューに答えることに同意し、こう述べた。「もしフランスが勝ってアルゼンチンが待つ決勝に進出すれば、当社のビジネスにとっては追い風になる。エムバペとメッシのエース対決なら、ワールドカップを報道するメディアにとっては好材料だ」(このエース対決は実現し、メッシ率いるアルゼンチン代表の優勝でワールドカップカタール大会は幕を閉じた)。

以下はトミック氏とのインタビュー抜粋。長さと読みやすさを考慮して、若干の編集を加えてある。

◆ ◆ ◆

――FIFAワールドカップカタール大会開催のタイミングは、ジ・アスレチックの広告事業立ち上げにプラスに働いたか?

当社の広告事業始動は2022年9月末で、11月20日に開幕したワールドカップは、広告と報道の両面で、またとない機会を提供してくれた。我々が提供する広告枠の売り込みに役立ち、クライアントとの対話のきっかけになった。なかには、Googleとの提携による女子スポーツの報道強化のように、ワールドカップ関連の商談から発展して大型のパートナーシップ案件獲得につながったケースもある。

ジ・アスレチックのWebサイトでは、ワールドカップ特集掲載を機に、過去にスポンサー経験のあるエミレーツ(Emirates)や、放映権を獲得したパラマウントプラス(Paramount+)などの企業が広告を出稿した。世界中の注目が集まるサッカーの祭典だけに、当社の広告主第1号であるシャネル(Chanel)が戻ってきたり、アップルビーズ(Applebee’s)が加わったりと、サイトは有名ブランドの広告でにぎわった。

――どんなタイプの広告主をターゲットとしているか? シャネルやアップルビーズなどは、スポーツと関わりが深い企業とは思えないが。

当社がターゲットとする広告主は3つのカテゴリーに分かれる。1つめのカテゴリーは、以前からスポーツ大会の協賛に熱心な企業、つまりプロチームやリーグのスポンサー、ワールドカップの公式スポンサーだ。たとえばビザ(Visa)、現代自動車(Hyundai)、マクドナルド(McDonald’s)、コカ・コーラ(Coca-Cola)などで、これらのブランドを広告主として獲得すべく、全力をあげて取り組みたい。

2つめのカテゴリーは、高所得者層の男性を中心とするオーディエンスへのリーチ拡大を図る企業だ。ゴルフトーナメント関連会社、男性向けライフスタイル専門パブリッシャー、時計、自動車、アパレルメーカーなどが含まれるが、これらのブランドは特定チームの協賛はせずとも、スポーツと関わりつづけたいという意向がある。

そして3つめのカテゴリーが、一般スポーツファン向けマーケティングを試みる広告主で、主なターゲットは富裕層の男性にかぎらない。このカテゴリーに入る広告主の代表格はパラマウントプラスで、チームの公式スポンサーではないがスポーツとの関わりを好み、幅広い消費者にアピールしようとしている。

――注目度の高いスポーツ大会が目白押しの状況下、どうやって広告主にジ・アスレチックを売り込んでいるか?

広告販売活動はいま、当社から見込み顧客にアプローチするアウトバウンド営業が100%だ。ジ・アスレチックはこれまで広告分野の実績がなく、広告主によるRFP(提案依頼書)の提出要請対象者リストにも入っていないため、市場における認知度を自ら高める努力をしなければならない。

そこで、先に述べた3つのカテゴリーに属するブランドへの働きかけが重要になる。各カテゴリーで広告支出の多い企業を洗い出してリストを作成し、営業部隊が責任をもって全社を対象に売り込みをかけている。コンタクト先は相当数に上るが、幸いなことに我々にはそれに対応できる十分なリソースがある。

――営業チームの規模は?

営業部は、年末時点で12名体制になる予定だ。また、NYTの広告販売部と連携して活動しており、良好なパートナー関係を築いている。目標は、アウトバンド営業に100%頼っている状態を2023年末までに脱して、広告主のRFP対象者リストに名を連ねることだ。

――広告主とのあいだでいま進行中の商談は、2023年上期に集中する大規模スポーツ大会関連のビジネスチャンスにつながるか?

興味深いのは、ブランド各社が大規模スポーツ大会に向けて、早い段階で計画を策定していることだ。たとえばワールドカップの大型スポンサーのなかには、大会の2、3年前からメディアプランを固めているブランドもある。

我々が企業に広告掲載の意向を打診すると、こんなふうにいわれる。「今年のワールドカップ案件はもう、支出先がほぼ決まっている。余った予算をそちらの広告枠に回せるか検討してもいいが、それより、23年の女子ワールドカップか、26年のワールドカップ北米大会のメディアプランについて話そうじゃないか」。

我々はいま、2023年に開催されるスポーツ大会の日程を見すえ、総力をあげて営業活動中だ。先に述べた3つのターゲットセグメントへの注力に加えて、魅力的な本編記事の2面作戦で広告主に訴求している。

年末までには、3年から5年におよぶ大型パートナーシップ契約の締結にこぎつけたい。可能性としては、スポーツ分野の大手スポンサー企業を取り込み、スタジアムの命名権のような扱いで、報道コンテンツの一部に特定ブランド名を冠した記事を配信したり、大リーグやナショナルホッケーリーグ報道の公式スポンサーの地位を提供したりといった取り決めが考えられる。

――オープンマーケットのプログラマティック広告は立ち上げ当初の事業計画には含まれないと述べていたが、それ以来、計画に追加や変更はあったか?

当社は、創業時から広告なしで運営していたプラットフォームに初めて広告を掲載することになるため、当初は直販に注力していた。広告の質がきわめて重要であることから、慎重に対応したかった。そこで試験的に、徹底した管理のもと、プログラマティック広告運用を取り入れた。プログラマティック広告は当社の事業戦略の中核には位置づけられないが、収益源のひとつにはなるだろう。

質の高い直販広告とプログラマティック広告のバランスの取り方などについては、親会社のNYTが基礎となる枠組みを示してくれた。NYTから学んだ事業戦略を遂行して成果が上がれば、直販広告を重点的に推進してプログラマティック広告の割合をおさえられるが、その方向に向かうよう期待している。

――オープンマーケットでの取引と、プライベート取引の両方をテストしているのか?

いろいろと試している。オープンマーケットプレイスにも参加しているが、しっかりとコントロールをきかせながらの運用になるため、大規模な広告取引は難しい。また、プライベートマーケットプレイスにも大いに関心がある。

[原文:Media Briefing: How The Athletic used the World Cup as a kick off for its advertising business

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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