ブランドがアプリをもつ目的とは? D2C販売戦略に重要な役割 【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

6月上旬、シャーロットティルベリービューティ(Charlotte Tilbury Beauty)が、アプリのローンチとともに新たなデジタル戦略を発表、専用のeコマースアプリを作成する美容ブランドの仲間入りを果たした。いまだ数は少ないながらも、こうしたアプリをローンチする美容ブランドは増加している。

今回のアプリは、イプシー(Ipsy)、ビューティカウンター(Beautycounter)、E.l.fビューティ(E.l.f Beauty)、ミーレオーガニックス(Mielle Organics)ヘアケアといったブランドのアプリに加わる形で、6月上旬にローンチした。シャーロットティルベリーのチームは、このアプリを1年半かけて社内で構築しており、今後このアプリがブランドのD2C販売戦略を推進する上で重要な役割を果たすと予想している。他のブランドでは、コミュニティーの発展、データの取得、モバイルを好む消費者の利便性など、アプリを構築するユースケースはさまざまだ。

親会社であるプーチ(Puig)の2022年の決算報告によると、メイクアップの売上はシャーロットティルブリーとキャロライナヘレラ(Carolina Herrera)が牽引し、前年比52%増の約6億7300万ドル(約943.8億円)だった。そしてスキンケアは前年比20%増の3億5200万ドル(約493.6億円)で、シャーロットティルベリーのマジッククリーム(Magic Cream)がもっとも売れたスキンプロダクトとなった。プーチは2020年に買収したシャーロットティルベリーの売上や販売チャネルについて詳細を明らかにしていない。

「ジャーニーを通して顧客と手をつなぎ、顧客のための専門家になりたいという、シャーロットがつねに語ってきたことに基づいて(アプリに)アプローチしている」とシャーロットティルベリーのチーフグローステクノロジーオフィサーのコリン・スッキー氏は述べた。「(深い)レベルのパーソナライゼーションと教育を提供しているため、人々がこの体験で一日をスタートさせてほしいと思っている」。

カラーマッチング機能とARアプリケーション

ティルベリー自身の発言のスタイルで書かれたコピーや、文字通り彼女の声がサウンドバイトやボイスオーバーで登場するなど、ティルベリー本人がアプリの隅々にまで浸透している。ユーザーがアプリを開くとまずホームタブがあり、美容ニュース速報、さまざまな日付のマスタークラスのビューティカレンダー、セレブリティやスーパーモデルのメイクアップルック、コンプレクション製品のシェードマッチや肌分析といったサブセクションがある。また、他のチュートリアルやマスタークラスが表示される「学ぶ」というタブもあり、今後行われるセッションがイベント後に表示されるようになっている。メニューの中央にはショッピングタブ、その隣にはショッピングバスケットタブがある。また最後の「You」というタブには、パーソナライズされた製品、シェード、お気に入りのルックやチュートリアルが表示される。おそらくこのアプリで一番革新的な体験は、新しいカラーマッチング機能とARアプリケーションのふたつだろう。カラーマッチングは、リップ、アイ、チークなどのメイクアップ製品に対応している。6月13日に発売されたリップブラー(Lip Blur)でデビューしたカラーマッチングは、肌の色に基づいてその人に最適なカラー製品を提案するもので、今後数週間ですべてのリップ製品に拡大し、その後全カラー製品へと拡大する予定だ。もうひとつのツールはARアプリケーションで、ティルベリー自身の専門知識に基づいて、コンシーラーなど特定のコンプレクション製品をどこに塗ればよいかをユーザーに示す。

「(私たちは)シャーロットの芸術性を取り入れ、それを解読し、スキンケアと肌分析に関してはAIによるテクノロジーと結合させている」とスッキー氏は言う。「このアプリは、強力なテクノロジーとシャーロットティルベリーの世界への没入型コンテンツと提携し、(ティルベリーが)つねに信じてきたことを継承している」。

有機的な顧客獲得チャネル

一方、イプシーのチーフプロダクトオフィサーであるサラ・ローズ氏は、同社のサブスクライバーの大多数がすでに携帯電話を通じてイプシーと関わっているため、同社のウェブサイトを反映したネイティブアプリは自然な選択肢だったと述べている。2015年にローンチしたアプリは、潜在的な会員が検索結果でイプシーを見つけるため、アプリストア内での有機的な獲得ツールとしても機能している。関連する検索語の例や、有機的な獲得チャネルがサブスクライバーベースに対してどの程度実質的であるかについては、ローズ氏は言及を避けた。イプシーとその子会社であるボクシーチャーム(BoxyCharm)は、ボクシーチャームの2020年の買収時点で合計430万人のサブスクライバーを抱えている。

E.l.fビューティのチーフデジタルオフィサーであるエクタ・チョプラ氏は、ブランドの顧客がモバイルファーストを主体としている場合、アプリは正当化され得るという意見に同意している。E.l.fビューティは2018年に初めてショッパブルアプリを作成したが、これはチームがテストと体験からの学習に重点を置いていたため、すぐに使えるバージョンだった。ロイヤルティ会員がアプリでの買い物をどのように好むかというフィードバックとデータを収集した後、E.l.fビューティは別のベンダーを見つけてカスタムアプリを作成し、2022年8月にデビューさせている。

現在のE.l.fビューティのアプリでは、eコマースショッピングに加え、ロイヤルティポイントを請求するために小売パートナーのレシートをスキャンする機能やバーチャル試着、Paypal(ペイパル)やApple Payなどのデジタル決済ツールで商品を購入する機能などが備わっている。チョプラ氏によると、ロイヤルティ会員の95%がこのアプリで買い物をしている。E.l.fビューティのロイヤルティ会員は370万人だ。チョプラ氏はアプリのダウンロード数については言及を避けた。

アプリで消費者と1対1の関係を構築

チョプラ氏は、アプリのロードマップは、E.l.f.のコミュニティを収容する場所の構築によって商業の枠組みを超えていると言う。

「私たちの未来に向けたロードマップは、コミュニティを構築し、ロイヤルティメンバーが買い物や会話、エンゲージメントを楽しむ場にすること、そして当社にフィードバックを提供し、当社が特別なプロジェクトに関してメンバーと直接関わることができる場所にすることだ」と同氏は述べた。

たとえばE.l.fビューティのアプリで、ユーザーが特定の美容トピックについて議論するためのフォーラムを提供したり、特定のタイプの人々とつながってマイクロコミュニティを形成することなどが考えられる。また、Web3との統合という可能性もある。E.l.fビューティは、約3000人のトップロイヤルティ会員を対象に、メタバース内での新しい体験を試すことができるWeb3ロイヤルティプログラムをテストしている。E.l.fビューティは、より個性的な体験の創出とゼロパーティデータの取得のため、デジタル体験ベンダーのジェビット(Jebbit)と共同でアプリ内クイズや商品レコメンドの作成にも取り組んでいる。さらにセールスフォース(Salesforce)を利用して、TikTok Shopでの体験からデータを取得し、ネイティブアプリに統合している。

「アプリを持つことで消費者と1対1の関係を構築しているので、インターネットプライバシーに関するガバナンスの一部を回避する世界が開かれる」とチョプラ氏は述べている。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: When does it make sense for your brand to have an app?]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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