フォーブス とデイリー・ビーストが取り組んだ「収益源の統合」の全貌:DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT USレポート

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パブリッシャー各社は長年、縦割り的な事業運営からの脱却を図ってきた。だが、すべてのパブリッシャーが有意義な変化につながる再編戦略を効果的に実行できているわけではない。

ファーストパーティデータの提供に関する拡充の重要性が高まるなか、一部パブリッシャーではそのデータを社内で活用していく方法を見いだし始めている。

2023年3月最終週にコロラド州ベイルで開催されたDIGIDAY PUBLISHING SUMMIT(以下DPS)で、レベニューチームの再編による採算効率の向上について、フォーブス(Forbes)とデイリー・ビースト(The Daily Beast)が舞台裏を明かした。

チーム間のコミュニケーションが重要

フォーブスが組織再編に着手したのは2022年末。最高プロダクト責任者のニーナ・グールド氏の指揮の下、いくつかの収益源となるチームが移動されたときからだ。

現在は商品開発・デザインから、eコマース、プログラマティック、直接広告販売までのすべてを統括するグールド氏は、DPSで「プロダクトチーム」という名前は少し正確ではないかもしれないと話した。グールド氏直属の同チームが担当するデータインサイトは、社内のさまざまな部門を支えている。社内各部門がそれぞれの目標達成にいかにファーストパーティデータを活用できるか、アイデアを提供するのもプロダクトチームの仕事だ。

グールド氏は次のように話した。「組織再編と、私のチームが進化を続ける原動力は、縦割り的な体制を打ち破ることにもある。単に人と人との物理的な距離だけの話ではない。会社に対して全体的な視野を持つことを助ける、という話だ。そこにチャンスが生まれる」。

組織再編以前は、フォーブスで広告やeコマースを展開するブランドのマーケティング予算は、それぞれの部分を別のチームが管理していた。たとえばアフィリエイトマーケティングのチームにはeコマースの統合にかける予算がなくても、同じクライアントの別チームではプログラマティックの予算が余っている、という状況が発生していたのだ。

「eコマースチームがプログラマティックチームの誰に話を持って行けばよいのかを把握しているだけでなく、実際に連携し、一緒にブレインストーミングを行って、クライアントの帳簿を見て情報交換していれば……お互いに話をするだけでも、もう一方のチームがどのようなことに取り組んでいるのかを話を聞くだけも、かなりのオポチュニティを生み出すことができる」とグールド氏は語った。

組織再編してからの日が浅いため、このようなシナリオから生み出された収益はまだそれほどないとしつつ、グールド氏はチーム間のコミュニケーションがあることが最も重要だと話した。

購読に向かうファネルを埋める

デイリー・ビーストも数年前、縦割りになっていたチーム間の壁を崩そうと同様の組織再編を開始した。同社レベニューオペレーション担当シニアバイスプレジデントのケイティ・ピリッチ氏は、2023年3月29日水曜日のDPSのセッションで、すべてのチームの焦点をLTVに絞るのではなく、そのときどきに顧客が持つ価値を把握したほうが全収益源から徹底的に収益を獲得できる、と語った。

組織再編によってできる最終的な体制の狙いは、「既知の読者」群、つまり「一意の識別子が割り当てられた消費者」を生み出して、コンテンツに対する各人の動きに基づいてビーストのチームが最適な収益化を図れるようにすることだ。

というのも、足しげく通ってくれる未知のユーザーと比べても有料読者はその18倍の価値があり、有料読者こそが「ファネルの究極の理想ではあるが、全員が全員有料サービスを利用することはありえないと承知している」からだ、とピリッチ氏は説明する。

このため、ピリッチ氏が重点的に取り組んでいるのは「大いなる中間層」の収益化だ。ピリッチ氏のチームは何が何でも有料購読者を獲得することを目指しているわけではない。

「ある分野に特化したニュースレター、アプリのダウンロードなど、ほかにコンバージョンに持って行きたいプロダクトはある。新しいユーザー集団の枠組みをつくることで、消費者の現在の価値を、今後その消費者がファネルを下に移動していった場合のLTVと比較できる」とピリッチ氏は話す。

はっきりと有料化されるペイウォールではなく、主に登録ウォールを通して実施されるこの戦略は、開始されてから1年ほどたつ。だが、いったん設置してしまえばあとは放置していても大丈夫、という段階にはまだ程遠い。

オペレーション上の課題

デイリー・ビーストで新しいオペレーション体制の下でレベニューチームを一つにまとめるのに役立った指標が、ARPU(Average Revenue Per User、ユーザー1人あたりの平均売上金額)だ。ARPUは各収益源について最低四半期に1度計算され、各チームのステークホルダーが集まって何がARPUの伸びに貢献しているのかまたは伸びを阻んでいるのかを話し合う。

このような話し合いでは、サイト全体のインベントリーを検討し、広告に関してはインプレッションの観点からの成績、購読についてはコンバージョンの観点からの成績を見て、成績が低いほうのチームはもう一方のチームにインベントリーを渡すことができる。

「サイトでは最後の1セントまで大切にしなければならないし、最適化を通して全体の業績を上げていくことができる」とピリッチ氏は話した。

フォーブスの社内再編は、グールド氏によれば「タイミングが悪かった」そうだ。第4四半期の「正念場」であったと同時に、他のメディア企業がレイオフなどのコスト削減を行っていたところで、異動されることになったスタッフが懸念や不安を感じる可能性があった。

「私の最も重要な仕事は、配下のチームに新しく配属された人たちに自分の居場所があると感じてもらえるようにすることであり、自分がなぜここにいるのか、なぜそれが重要なのかを理解してもらうことだった。だが同時に、異動で何かを失ったのではなく、中核にあるプロダクト部門に配属されることでチャンスが大幅に増えたのだというふうに考え方を切り替えてもらうことも必要だった」とグールド氏は話す。

PVの最大化ではなくLTVを重視

グールド氏がチームの意識を変えるためにもう一つ心がけたのは、「一見ばらばらに見えるすべてを一つにまとめる」ことのできる、中心的なテーマを見つけることだった。それは、ページビュー当たりの価値を最大化するのではなく、既知・未知を問わず、すべての読者のLTVを重視することだった。

「考えてみれば、1回限りのページビューから収益をあげようとすれば当然、チームの縄張り意識が高まって互いに競争するようになる」とグールド氏はいう。

たとえば、ページに購読勧誘か広告を載せて一発勝負に賭けるしかない、という意識が生まれても、両方のチームに場所を割り当て、読者の注目やお金を集めるだけのスペースはない。

そのかわり、最初のページビューをパブリッシャーと読者との間の「長い対話の最初の一言」としてとらえなければならない、とグールド氏は説明する。うまくいけば、その対話の終盤には読者がフォーブスに愛着を持つようになり、何かしらにお金を落としていくことになるのだ。

[原文:How Forbes and The Daily Beast are consolidating diverse revenue streams to create the highest value audience

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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