女子アナの社外役員なぜ増えた? – 渡邉裕二

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ここ1〜2年、各企業で女性アナウンサーや女性芸能人を社外役員として迎えるムーブメントが起きている。

最近では、1968年にヴィレッジ・シンガーズが歌って大ヒットした「亜麻色の髪の乙女」を現代風にアレンジして歌い、人気となった歌手でタレントの島谷ひとみが、新型コロナウイルスの抗原検査サービスを手掛ける「ICheck(アイチェック)株式会社」の社外役員として取締役に選任された(8月)。

また、今年3月には、創業111年の老舗洋菓子メーカー「株式会社不二家」も女優の酒井美紀を取締役として迎え入れている。

歌手や女優だけではない。

証券取引会社「SBIホールディングス株式会社」は昨年6月の株主総会で、2019年に就任した元NHKアナの久保純子と入れ替わる形で元 TBSの竹内香苗アナを〝電撃抜擢〟。さらに化粧品製造の「株式会社コーセー」は元フジテレビアナウンサーで現在は弁護士やコメンテーターとして活動している菊間千乃、そして「日本郵政株式会社」でも、かつてNHK「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷裕子を取締役に選任した。

他にも、アパレルメーカーの最大手「株式会社オンワードホールディングス」は元NHKの草野満代を監査役に。伊藤忠グループ中核のエネルギー商社「伊藤忠エネクス株式会社」もNHKで初のアナウンス室長を務めた山根基世を取締役に選任。

さらに大リーガーだったイチローの夫人、福島弓子さん(元TBSアナ)の妹で名古屋CBCのアナウンサーだった福島敦子に至っては、不動産会社の「ヒューリック株式会社」、菓子メーカーの「カルビー株式会社」、鉄道・運輸の「名古屋鉄道株式会社」など3社の取締役を兼ねているし、フリーキャスターとして人気だった伊藤聡子も岐阜県岐阜市に本社を置く「株式会社十六銀行」、大手化学メーカーの「積水樹脂株式会社」の2社で取締役、情報システム、エレクトロニクス製品など多角的な事業を展開する「三谷産業株式会社」では監査役を務めている。

歌手や女優などの芸能人はともかく、女子アナに至っては今や引く手数多なのである。しかも、この流れが「来年以降さらに勢いづくのではないか」(女子アナウォッチャー)と言われている。

「知名度を利用したかった」

では、冒頭で記したが島谷ひとみを取締役に招き入れた「ICheck」の場合、抜擢の理由は何だったのか?

同社は昨年12月に設立された新興企業だが、コロナ禍でコロナウイルスの抗原・抗体検査キットをネットで販売するなどして業務を拡大、最近では全国各地の保健所や医療機関と連携して、国内では初の抗原検査とPCR検査を一体化させたキットのサービスを行っている他、11月10日からは新型コロナワクチン接種証明アプリ「ワクパス」のiOS版をリリース、接種者が特典を受けられるシステムを拡大している。

そのような展開の中で「島谷さんの知名度を利用したかった」と同社の金子賢一社長は言う。

もっとも、金子社長は会社設立前「エンターテインメントの仕事に携わっていた」そうだが、コロナウイルスの感染拡大で「ライブやスポーツなどが苦境に立たされていることが辛かった」と。そこで、

「仕事を失い苦しんでいるスタッフや関係者を何とか救えないかと、各方面に寄付を募っていたところ島谷さんと出会ったのです。どうしたら安全で安心なライブが出来るのかと考えている中で、島谷さんとは共鳴する部分が非常に多かった。

会社の設立後はアンバサダーを快く引き受けてくれ、私たちの広報活動を積極的に行ってくれました。そうした流れもあって今回、取締役をお願いしたわけです。今後も広報活動はもちろんですが、イベントにも参加して頂き、司会などもお願いしていきます」

と、その経緯を説明するが、では、今年3月に酒井美紀を取締役に選任した「不二家」の場合はどうか?

同社の広報室は、

「酒井さんは主婦でもあるので、その立場を生かして経営に助言を頂きたい」

と、無難な言い方をするが実際には、

「昨年、不二家のペコちゃん70周年でアンバサダーを務めたことからの流れだったのでしょう。酒井さんの起用は社内からも評判が良かったと聞きます。やはり芸能人起用の場合はイメージが重要ですからね。島谷さんもそうでしょうけど、企業としては、まずアンバサダーなどに起用することではかりに掛けているところもあるのだと思います。当然、株主への説明もありますから」(芸能関係者)

取締役の女性比率を上げるための策

しかし、企業が女性芸能人や女子アナを取締役や監査役にする背景には、日本の置かれている社会事情もある。

2015年、東京証券取引所は上場規定の中に「2人以上の社外取締役を選任する」ことを明記しました。さらに当時の安倍政権も上場企業における女性役員の割合を2020年までに10%にまで上げるよう打ち出した。

その安倍政権の目標に真っ先に反応したのが外食チェーンの「グルメ杵屋」だったのです。フリーの経済キャスターとして活躍していた江連裕子を女性としては初めて社外取締役として選任しました。

「大手企業が女子アナに目を向け始めたのは、この大胆な人事がキッカケだったとも言われています。そもそも、社外取締役というのは経営のチェックや防衛が目的となっていて、経営コンサルタントや弁護士、さらには警察庁、警視庁、あるいは官僚の天下り先とも揶揄されていたのですが、今や女子アナを起用することがトレンドというかブームになろうとしています。

社会情勢の変化が一番大きい理由だと思いますが、女性管理職を増やすことが企業にとって急務となっている中で、手っ取り早かったのが女性芸能人や女子アナだったとも言えるのです」(大手紙の経済記者)

「女性役員数アップ=女性芸能人、女子アナ」

と言うのも実に安易だと思うが、各企業は「女性の視点に立った経営戦略が重要だと思っている」と、これまた納得した様子なのだ。

「SBIホールディングスが竹内香苗アナを取締役に抜擢したのは、同社の北尾吉孝社長がナビゲーターを務めていたBSフジの番組『この国の行く末2』のキャスターを竹内アナが務めていたことがきっかけだと思います。

もっとも、番組以前から親交が深かったようで、北尾社長は竹内さんのメンタルの強さや性格などを評価していました。クボジュン(久保純子)も悪くはなかったとは思いますが…」(前出の経済記者)

起用の背景はともかく、多くの企業が求めているのは「知名度の高さ」はもちろんだが、それ以上に「高学歴で華のある女性」なんだとか。そのカテゴリーに見事に当てはまるのが「女子アナ」だったわけだが、企業にとっても女子アナの起用にはメリットがある。

「彼女たちの人脈は捨てがたいのです。番組を通してさまざまな企業にネットワークを持っていて、彼女たちを起用することで異業種との交流も可能になるし、日々の情報も入ってくる。もちろん広告塔にもなり得ます。

いずれにしも彼女たちは、それなりに社会常識もあり、何と言ってもコミュニケーション能力が優れていると思われているのです。そこが女子アナに限らず女性芸能人を起用する要件にもなっていると思います。さらに株主を説得するのも楽な部分があるようです」(前出の経済記者)

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