個人情報保護規制の変更からマーケティングコストの増加、マクロ経済がマーケティング費用に与える影響にいたるまで、近年、マーケティングチャネルは激動の時代を迎えている。消費者のトップオブマインドを維持するブランドの取り組みにおいてマーケターが引き続き困難に直面しているなか、Glossy+リサーチではプログラマティックディスプレイ、インスタグラム、Amazon広告(Amazon Ads)など主要なマーケティングチャネルにおける戦略と課題を分析、このCMO戦略シリーズで主要なトレンドとベストプラクティスを明らかにする。
まず最初にGlossy+リサーチが着目するのは、ソーシャルメディアの利用状況と予算である。このシリーズの次のレポートでは、プラットフォームの仕様と異なるチャネルに焦点を当てる予定だ。
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マーケターの現在のデジタル戦略を綿密に描くため、Glossy+リサーチは3つの調査を実施、合計635人の回答者に、過去と今後の投資、マーケティングチャンネルの戦術と好み、ビジネスの課題について質問した。
また、Glossy+リサーチは、さまざまな業界のマーケティングエグゼクティブに対して、フォーカスグループと個別インタビューも実施している。
目次
・TikTokの成長に伴い、レガシープラットフォームは変化に直面する
・マーケターは各プラットフォームの予算編成やコンテンツに対するアプローチに違いがある
・ソーシャルプラットフォームのグループ分けを深く掘り下げる
TikTokの成長に伴い、レガシープラットフォームは変化に直面する
CMO戦略シリーズで検討した全チャネルのなかで利用率がもっとも高いのはソーシャルメディアで、調査回答者の97%が自社のマーケティングに利用していると答えている。
ソーシャルではMeta(メタ)傘下のインスタグラムとFacebookが主要なプレーヤーだ。どちらもMetaが所有するプラットフォームだが、両者は異なるオーディエンスを惹きつけている。スタティスタによると(Statista)、インスタグラムはオーディエンス層の70%近くが13歳から34歳と、若い世代にアピールしているのに対し、Facebookのユーザー層は67%近くが24歳から65歳、さらに11%が65歳以上となっている。どちらもソーシャルスペースでは古くから存在するプラットフォームというメリットがあり、またすぐに使えるマーケティングオプションをマーケターやインフルエンサーに提供することで成功を収めてきた。この即時利用可能なマーケティングオプションには、ショッピングと組み合わせることが可能なインスタグラムのインフィード広告のように、マーケターが選択できる標準化された広告オプションが一般的に含まれている。
一般に好まれるソーシャルプラットフォームとして、Facebookとインスタグラムが高評価を得ているにもかかわらず、Metaが所有するサービスから移行したいと考えているマーケターもいる。こうした感情はいまに始まったことではなく、Metaの内部告発によってマーケターがブランドの安全性に懸念を抱いたり、Appleのプライバシー変更がMetaの広告測定能力に影響を与えたりするたびに、このような傾向が生じているが、これらのプラットフォームに関する新たな問題もある。クリスタルレストラン(Krystal Restaurants)のCMO、ケイシー・テレル氏は、同社がMetaで障害に直面したと語る。
「私たちにとって最近のMetaの問題は、多くの変更があることだ」とテレル氏は述べた。「アカウントマネジメントの部分がある意味なくなってしまった。さらにFacebookは世代的な役割が異なるため、TikTokや他のプラットフォームへの移行を余儀なくされている」。
TikTokは、Glossyの調査ではソーシャルメディア・プラットフォームの3位だった。従来の競合他社にくらべるとマーケターがすぐに使えるツールは少ないが、TikTokはバイラルな瞬間を作り出すことができるため、マーケターにとってトップオブマインドのプラットフォームとなっている。当然ながらゼロサムゲームとは言いがたく、多くの企業がMetaに固執して投資を続けながら、同時にTikTokのような新鮮なプラットフォームにも進出して実験をしている。ヒュンダイ・モーター・アメリカ(Hyundai Motor America)のCMOアンジェラ・ゼペダ氏は、「より新しいプラットフォームを追加した」と述べている。「当社の消費者がまだすべてのプラットフォームを利用しているということがわかったので、(Metaから)移行するとは言わない。機会を逃したくないので支出を変更している」。
「何かを削除するのではなく、さらに追加するということだ。当社はまだMetaを利用しており、TikTokと差別化を図るためにコンテンツを洗練させている」とゼペダ氏は付け加えた。TikTokの出現でソーシャルメディア情勢が変化しているにもかかわらず、Metaは主要なプレーヤーの地位にとどまる可能性が高い。
他の上位ソーシャルプラットフォームにははるかに及ばないが、Google傘下のYouTubeがTikTokに次ぐ4位となり、回答者の62%がYouTubeを利用していると答えた。この動画ストリーミングプラットフォームは、ソーシャル・プラットフォームとしてだけでなく、広告付きストリーミング・プラットフォームとしてもブランドの間で人気があり、マーケターにとってふたつの役割を担っている。
ソーシャルメディアの観点では、YouTubeは最近、コンテンツクリエイター向けに短編の縦型動画オプションであるショート(Shorts)をローンチしている。このタイプのコンテンツは、YouTubeの長編動画よりもモバイルフレンドリーで、TikTokやインスタグラムに対抗するために設計されている。TikTokの簡潔なフォーマットを模倣しようとするプラットフォームが増えるにつれて、マーケターにとって他のプラットフォームへのコンテンツ配信を拡大する機会がさらに増えるかもしれない。
回答者の約3分の1(35%)が利用していると答えたTwitterや、回答者の30%が利用しているPinterest(ピンタレスト)など、マーケターの利用率が低いプラットフォームは、ブランドマーケティングよりもユーザー同士のエンゲージメントに重点を置いている。これらのプラットフォームは、Twitterがカスタマーサービスに、Pinterestがインスピレーションや商品発見に使用されるなど、依然としてブランドにとって重要な役割を担っているが、マーケターはパフォーマンスマーケティングにはそれほど頻繁に使用しないかもしれない。
マーケターは各プラットフォームの予算編成やコンテンツに対するアプローチに違いがある
ソーシャルチャネル内だけでもプラットフォームごとに異なるコンテンツ要件があり、ソーシャルメディア・マーケティングの重要性が高まるにつれ、マーケターにとっての課題が大きくなっている。ヒュンダイのゼペダ氏は、マーケターは、さまざまなプラットフォーム向けに異なるコンテンツを作成しなければならない経費を考慮する必要があると述べた。「最大の課題は、各プラットフォームに固有のコンテンツ視点があることだ。制作に必要な予算は確保できるが、すべてのプラットフォームのコンテンツを制作しなければならない。ほかの場所で制作したものを、あらゆるプラットフォームにただ投入することはできない」。
しかし予算が少ない企業の場合、すべてのソーシャルメディア・プラットフォームに合わせたコンテンツを制作するという選択肢はなく、もっと戦略的に選択する必要性があるかもしれない。たとえばD2Cのジュエリー会社であるヴァーラス(Verlas)は、Metaからの移行を決めた後、Pinterest広告に力を注いでいる。ヴァーラスの共同創業者であるニディ・ダンゲヤック氏は「Pinterestをあきらめる準備はできていたが、Metaの変更を踏まえてチャネルの多様化に焦点を移行した際、もう一度テストしてみることにした」と語る。
同社はPinterestの方が投資対効果が高いことを発見したが、ダンゲヤック氏は、新しい広告チャネル一式を把握するには、大規模なテストと迅速な方向転換が必要だと指摘した。「私たちはテストを行って、スケールアップをするか、うまくいかなければできるだけ早く、ときには2日以内に中止している」。
プラットフォームを前年比で評価すると、2022年と2023年の両年でインスタグラムとFacebookが予算配分の大半を獲得したことがGlossyのリサーチで判明した。さらに、TikTokは2023年にマーケティング予算配分でYouTubeを上回った。より成熟したYouTubeにくらべてTikTokは歴史は浅いものの、マーケターの間で急速に人気を博している。
全体として、予算配分の上位を占めたインスタグラム、Facebook、YouTubeは、当然ながら広告がかなり一般的に表示されるフィードが存在するプラットフォームだった。唯一の例外がTikTokである。だが、その成功にもかかわらず、中国のバイトダンス(ByteDance)が所有するTikTokは、最近米国議会において米国内での使用禁止と規制の可能性に関する公聴会が開かれ、依然として不確実な状況に置かれている。TikTokが進化を続け、規制が具体化するにつれ、マーケターはこのプラットフォームに関する柔軟な計画を立て、それに応じてブランドリスクを測定する必要がある。
Glossyの2023年のソーシャルメディア・プラットフォームの内訳では、Twitter、レディット(Reddit)、Snapchat(スナップチャット)はマーケターの予算配分の下位に落ち込んでいる。注目すべきは、これらの3つのプラットフォームは、より質の高いインフルエンサーやプロのコンテンツを提供する場ではなく、ユーザーが消費者同士で交流できるようになっている点だ。そのため、これらのプラットフォームの環境は特に広告コンテンツに貢献するものではない。むしろブランドは、レディットの「Ask Me Anything(何でも聞いて)」というフォーマットのように、消費者を教育したり、参加させたりする機会としてこれらのプラットフォームを利用するのが一般的だ。こうした戦術は結果として、プラットフォーム上でのユーザーとのカジュアルな(時には不遜な)会話につながることが多い。たとえばウェンディーズ(Wendy’s)のTwitterアカウントは、顧客や他のブランドをからかうことで有名だ。
これらのプラットフォームではパフォーマンス・マーケティングが重視されないため、予算配分は低い。しかし予算が少ないからといって、必ずしもプラットフォーム上でのプレゼンスも同じように低くなるとは限らない。そのためブランドは、消費者に売り込むためのプラットフォームとしてではなく、消費者の気持ちに耳を傾けたり、会話に有機的に参加するための場として利用する方がよいだろう。
Pinterestも2023年の予算配分では下位に位置しており、消費者生成コンテンツに重点を置いているにもかかわらず、実際にはマーケティングのための有料ツールを提供している。インスタグラムのような上位のプラットフォームと比較すると戦略が異なり、ブランドが所有するPinterestのボードは、通常ユーザーが生成したコンテンツをリポストし、マーケターは有機的な方法で消費者をターゲットにすることができる。
マーケターの予算が少ないプラットフォームのなかで特にTwitterは、2022年にイーロン・マスク氏が買収して以降、大きな変化が見られている。マスク氏のポリシー更新とプラットフォームの評判への影響は、ブランドの安全性への懸念からいくつかのブランドが撤退する要因となっている。最近、マスク氏は広告主に対する同サイトへの支出要件の変更を発表し、マーケターは少なくとも月に1000ドル(約14万円)をTwitterに費やすか、広告を引き続き掲載するには認証の費用を支払う必要があるとした。TikTokが直面している規制の懸念と同様に、Twitterで起きている変化は、マーケターに同プラットフォームとのビジネスの方法を調整し、マーケティング戦術としてのTwitterへの依存をさらに低減するよう強いられる可能性がある。
マーケターが各プラットフォームに割く予算の割合を具体的にみると、ブランドの回答者の大多数である46%は、TikTokにマーケティング予算を割かない方向に傾いており、回答者の24%が予算の一部またはごくわずかをTikTokに費やしているとGlossyに語っている。TikTokの人気が高まる一方で、このチャネルへのマーケティング支出はまだ比較的低い。確かにTikTokの広告費は、他のプラットフォームほど必要とされていないかもしれない。このプラットフォームは、ブランドにとってバイラルな有機的な瞬間を作り出すことに重点を置いており、他のソーシャルプレイヤーのような定額課金制ではない。だが、多くのマーケターは、その予測可能性を可能性と引き換えている。
クリスタルレストランのテレル氏は、ブランドにとってペイドメディアと有機的なソーシャルとのバランスをとることが重要だと話す。「ペイドメディアがいまも一番だと考えているが、有機的であることは非常に重要だ」とテレル氏は言う。「どのチャンネルにいる必要があるかだけでなく、人々が現実の生活で互いに会話していることをつねに念頭に置くことだ。ソーシャルにアップされたからといって、すべての人がそれを知るわけではない。ブランドはソーシャルから出て、実際の会話に参加して関係を持たなくてはならない」。
かたやインスタグラムに費やされるマーケティング予算の割合は依然としてもっとも高く、同プラットフォームのマーケティング費用は2022年第1四半期から2023年第1四半期にかけて前年同期比で増加する一方である。前年同期比の支出額に基づくと、インスタグラムにはソーシャル予算のもっとも高い平均が割り当てられており、2022年第1四半期以降、13%がまったく支出していないか、少額を支出したのに対し、平均で20%が中程度から非常に大きな予算を支出している。Glossyの以前の予算に関する質問でも、予算の大部分(83%)が同じくインスタグラムに流れていることが指摘されている。だが、TikTokが広告サービスを成熟させ、影響力を発揮し続けていくと、この優位性は損なわれる可能性がある。
回答者全員がTikTokの可能性を肯定的に感じているわけでない。TikTokが成功するマーケティングプラットフォームだと確信しているかどうか尋ねたところ、ブランドの回答者はインスタグラムについて尋ねたときにくらべて楽観的でなかった。TikTokに「やや自信がある」「自信がある」「非常に自信がある」と答えた回答者の割合は、2022年第3四半期から2023年第1四半期にかけて、約56%から52%へとわずかに減少している。ユーザーの人気は非常に高いにもかかわらず、ブランドの信頼度がわずかに低下したことは、マーケティングツールとしての同プラットフォームには課題があることを示唆しているのかもしれない。同プラットフォームで何がバイラルになるのか予測できないことに加え、米国でTikTokが禁止される可能性もあることから、ブランドにとって安定した場所としてのTikTokに対するマーケターの信頼が揺らぎ始めている。
一方インスタグラムでは、同時期にマーケターの信頼度が約38%から46%へと上昇した。前述したように、一部のマーケターはMetaのプラットフォームからの移行を検討するか、少なくともそうした考えに賛同しているが、多くの広告主は依然としてMetaが所有するプロパティに信頼を寄せており、インスタグラムは一貫した業績を維持している。インスタグラムがトップクラスのマーケティングツールとしての地位を失うまでには競合他社はかなりの努力をする必要がありそうだ。TikTokやレディットのように、マーケティングコンテンツが表示される場所をコントロールできないことでブランドの安全性に関わるリスクがあるプラットフォームや、YouTubeのように動画コンテンツの提供に限定された特殊なプラットフォームと比較すると、インスタグラムは継続してマーケターに幅広いツールと一貫したユーザーベースを提供している。
ソーシャルプラットフォームのグループ分けを深く掘り下げる
さまざまなソーシャルプラットフォームに関するマーケターの戦略をさらに分析するため、Glossy+リサーチでは、予算、利用率、よく使われる指標やその他の要因といった調査結果からの共通点に基づいて、プラットフォームを3つのカテゴリーに分類した。次回のレポートでは、各グループを深く掘り下げ、その利点や欠点、マーケターの戦術における位置づけを決定するその他の側面などを検証していく。以下は、そのグループである。
・すぐに利用できる(OOTB):インスタグラム、Facebook、YouTubeがこのカテゴリーに属する。このグループを構成するプラットフォームには、マーケターが消費者をターゲットにして交流するために選択できる広告オプションの長いリストが存在する。具体的には、これらのプラットフォームは確立されたパフォーマンス・マーケティングチャネルである。
・判断するには時期尚早(例:TikTok):TikTokがこのカテゴリーで唯一の存在である。TikTokは実際にはマーケター向けのツールを提供しているが、このプラットフォームのメリットのほとんどは、有機的なバイラルの瞬間を生成する能力によるものだ。しかしそのようなバイラルモーメントは、通常は計画的でなく予測不可能である。多くのブランドやインフルエンサーがこのプラットフォームに投稿しているため、カジュアルで編集されていないコンテンツが、プロが作成したコンテンツと同じくらいのインパクトを与えることがよくある。
・ユーザー主導型:Pinterest、Snapchat、Twitter、レディットがこのグループに属する。これらのプラットフォームは、マーケター向けのサービスもあるとはいえ、ユーザーが気軽に投稿し、互いに交流するのにより適しているサイトである。ユーザー生成コンテンツを中心としたプラットフォームであるため、ブランドコンテンツが場違いな存在に感じられる可能性がある。
[原文:CMO Strategies: How marketers’ social platform budgets stack up — from Instagram to TikTok]
LI LU(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)