インフルエンサー がメディアエージェンシーの影の実力者に:「価値を証明するために四苦八苦する時代はとうに終わった」

DIGIDAY

インフルエンサーはいまやメディア業界における陰の実力者だ。

ソーシャルメディアであれ、ライブ配信プラットフォームであれ、コンテンツクリエイターはグルメ、スポーツ、スキンケア、ゲームなど、さまざまな分野で文化的なアンバサダーとして活躍している。なかには映画を制作し、商品のスポンサーを務め、ショップを開き、あるいは自身のブランドを立ち上げるインフルエンサーまで現れている。

そしてほとんどのエージェンシーはこうした新しいマーケティング手法への対応に積極的だ。

ボートハウスグループ(Boathouse Group)でソーシャル戦略とコンテンツの責任者を務めるジェフ・ゲイツ氏はこう話す。「どんなブランドキャンペーンでも、インフルエンサーマーケティングの要素は欠かせない。この新しいモデルに対応できないエージェンシーはライバルたちに後れを取る」。

拡大するインフルエンサー市場

ソーシャルネットワークを通じて何百万人もの人々に商品やメッセージをプッシュするには、いまやインフルエンサーの起用は不可欠だとみる投資家、ブランド、エージェンシーらの後押しを背景に、このビジネスはまさに爆発的な成長を遂げている。インフルエンサーマーケティングハブ(Influencer Marketing Hub)がインフルエンサーマーケティングの最新動向についてまとめた報告書によると、今年、インフルエンサーマーケティングに予算を割り当てたマーケターは75%を上回る。さらにその市場規模は2022年にはおよそ164億ドル(約2兆円)にまで成長すると見られている。

その心理を解き明かすのは難しくない。人は誰しも華やかな世界の仲間入りがしたい。少なくとも、そういう気分を味わいたい。誰をフォローするか、あるいは何をフォローするか。きれいに並べられた選択肢が示されると、人は自分で判断して決めるという、いわゆるコントロール感を強くする。心理学者の説くところでは、人には生まれつき、生存には自ら決定する力が必要だという考えが備わっているという。

「大昔からある話だ」と語るのは、インフルエンサーとブランドを支援するエージェンシーとしてブーストPR(Boost PR)を創設したキアラ・マッキニー氏だ。「誰しも仲間はずれは嫌だし、影響力は持ちたい」。

昨年刊行された学術誌の「コンピューターズ・イン・ヒューマン・ビヘイビア」によると、ソーシャルインフルエンサーからもっとも影響を受けやすいのは若年層のフォロワーで、インフルエンサーが太鼓判を押した商品を買いがちな人々だという。特に16歳から25歳の年齢層では、インフルエンサーに「尊敬やあこがれ」を抱き、自分も同じようになりたいと強く願う傾向が見られるようだ。

マッキニー氏はこう語る。「彼らはインフルエンサーに遊びや楽しみを求める一方で、本心では自分も彼らのようになりたいと思っている。(大都会で優雅に暮らすセレブな主婦をフィーチャーした)リアリティ番組の『ザ・リアル・ハウスワイヴズ』を見たがる心理と同じだ」。

エージェンシーの役割

インフルエンサーマーケティング向けのプラットフォームやサービスが急成長するなか、エージェンシーも市場の変化に対応しようとしている。インフルエンサーマーケティングハブの調べによると、2021年にインフルエンサーマーケティングプラットフォームが調達した資金は8億ドル(約1155億円)を上回る。実のところ、クリエイターの成長を加速させるには、エージェンシーの働きがこれまで以上に必要だという声もある。

ゲーミングプラットフォームのMech.comで最高執行責任者(COO)を務めるカイル・クレマー氏は、エージェンシーに期待する役割として、インフルエンサーのフォロワー数やエンゲージメントの検証、さらにはインフルエンサーが良質なコンテンツを提供し、Mech.comの首脳陣とうまく連携できるように調整することなどを挙げている。ちなみに、Mech.comの大口投資家にはボクサーでインフルエンサーのジェイク・ポール氏が名を連ねている。

「うそやごまかしがはびこる領域だけに、独立的に検証できる第三者の存在は極めて大きい。インフルエンサーに決められた納期までに良質なコンテンツを投稿させることは容易でない」と、クレマー氏は述べている。

MMIエージェンシー(MMI Agency)でコミュニケーションとインフルエンサー担当のシニアバイスプレジデントを務めるジェイ・パウエル氏は、「多くのエージェンシーにとってこのような連携はうまく機能する」と米DIGIDAYに語っている。エージェンシーが大規模なキャンペーンにクリエイターのコンテンツを組み込むケースは増える一方だ。

パウエル氏はさらにこう続けた。「インフルエンサーキャンペーンの価値を証明するために四苦八苦する時代はとうに終わった。いまやエージェンシーは、適切なパートナー選びに専従するチームを常設するようになっている」。

モディフライ(Modifly)のイライジャ・シュナイダーCEOによると、インフルエンサーマーケティングはクリエイティブ予算のなかで媒体費を超える予算項目になりつつあるという。モディフライはグリン(GRIN)のようなプラットフォームを活用して、自社のクライアントに適した数百人規模のインフルエンサーを選定している。シュナイダー氏によると、広告キャンペーンを展開する手法とよく似ているという。ブランドはコンテンツ配信ではなく、コンテンツ制作のためにインフルエンサーを起用する方向にシフトしているようだ。

新たな力関係

多くの人がソーシャルアプリに膨大な時間を費やすようになり、インフルエンサーやそのフォロワーが商品の買い手になるポテンシャルは今後いっそう高まるだろう。メタから漏洩したデータによると、ユーザーがインスタグラムのリールで短編動画を見る時間は1日あたり1760万時間にのぼる。ライバルのTikTokに至っては1億9780万時間という途方もない時間数におよんでいる。

「特にZ世代を見ると、彼らがおこなう購入の意思決定の97%が、ソーシャルメディアを介したレコメンデーションに基づいている」。そう語るのは、インフルエンサーマーケティングプラットフォームのタガーメディア(Tagger Media)でCEOを務めるピート・ケネディ氏だ。「だからこそ、強い存在感を示す必要がある。ソーシャルメディアで大量の広告を打つ必要もあるだろう。しかしより重要なのは、適切なオーディエンスの目に触れることであり、消費者に大きな影響力を持つインフルエンサーを活用することだ」。

インフルエンサーマーケティングハブによると、ソーシャルコマースは2025年までにeコマース支出全体の17%を占めるとの予測があるうえ、2022年のソーシャルコマースの売上も推定で9580億ドル(約130兆)に達する。インフルエンサーが実現しうるこの規模が、彼らが豊富な資金力を持つテクノロジー企業やハリウッドに対抗する源泉でもある。

実際に、中国のライブコマース界で活躍するクリエイターのリー・ジャーチー(李佳祺)氏とウェイヤー(薇婭)氏は、昨年10月に開催した1回のイベントで、30億ドル(約4332億円)相当の商品を売りさばいた。この金額は、Amazonの1日の平均売上額のほぼ3倍に相当する。また、長年にわたり、ユーチューバーとして活動するミスタービースト(MrBeast)氏がバーチャルダイニングコンセプツ(Virtual Dining Concepts)と提携してバーガーショップを開店した際は、ニュージャージー州のモール内の店舗に1万人の群衆が押し寄せた。

インフルエンサーエージェンシーのコロッサルインフルエンスリミテッド(Colossal Influence Limited)で取締役を務めるクリスチャン・スタート氏はこう話す。「ミスタービーストは経営するミスタービーストバーガーズのひとつで、1軒のレストランが1日に販売したもっとも多くのハンバーガーの世界記録を更新した。彼自身がそのショップに姿を見せたからだ。ミスタービーストは、ハンバーガーチェーンのほかに、商品開発やチョコレートブランドのフィースタブルズ(Feastables)なども手がけているが、慈善活動に熱心なことでもよく知られている」。

一方、この分野の専門家によると、特に中小のブランドにとっては、小規模なインフルエンサーにも大きな価値があるという。実際、消費者の財布を開かせるのに何百万人ものフォロワーは必要ない。デジタルエージェンシーのオートインテキサス(Haute In Texas)でCEOを務めるアキーラ・メンデス-ヴァルデス氏も、「本物のフォロワーと良質のコンテンツで獲得する高いエンゲージメント率は、見た目は立派だが実は無意味な指標よりもよほど価値がある」と述べている。

同氏はこう続ける。「特に、特定地域のオーディエンスにリーチしたいブランドにとって、ターゲット市場を中心に1万5000人のフォロワーを持つインフルエンサーは、全国に10万人のフォロワーを持つインフルエンサーよりもはるかに大きな力を発揮する」。

インスタグラム+TikTokの方程式

ソーシャルアプリは影響力のあるインフルエンサーの育成に大きな役割を果たしてきた。テクノロジー大手は、独占的なコンテンツやユーザーを確保するために、インセンティブや資金提供プログラムを用意して、クリエイターをめぐる争奪戦を繰り広げている。いまやSNSのタイムラインは、家族や友人のコンテンツよりも、トレンド情報やインフルエンサーのコンテンツで占められている。

おかげでTikTokはもっとも成長著しいプラットフォームにのし上がり、全世界で10億人を超える月間アクティブユーザーを抱えるに至った。多くのクリエイターにとって、インスタグラムは物販事業、TikTokはフォロワー集めの場となっている。また、アルゴリズムがエンゲージメントの高い投稿を優先的に表示させるため、上位に表示されるチャンスは誰にでもある。

「TikTokはインフルエンサーの役割を大きく変えた。きれいな写真や商品の宣伝を並べるだけではもはや十分ではなくなったからだ」と、メンデス-ヴァルデス氏は述べている。

このようなプラットフォームの成長を背景に、多くの業界がそれぞれのマーケティングモデルを修正しつつある。そしてマクロとマイクロの区別なく、いまやインフルエンサーはブランドコンテンツとコマースのあり方に多大な影響を与えている。

「ブランドの露出レベルが一夜にして急上昇することもありうる。同時に、企業と消費者にもウィンウィンの関係がもたらされた」と、Mech.comのクレマー氏は述べている。

コントロールと生存の話に戻ると、ソーシャルメディアを自由に選べることで、コントロール感を得られるのは消費者だけではない。インフルエンサーたちも瞬時にしてセンセーションを巻き起こす絶大な力を手に入れた。スタート氏が指摘するように、「誰もが一夜にして有名人になれる時代が来た」のである。そこにはメリットもデメリットもあるが、究極的には、ソーシャルメディアのおかげで誰もがメディアに関する自己決定権を手に入れたといえるだろう。

[原文:Media Buying Briefing: How influencers became the new power brokers for media agencies

Antoinette Siu(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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