世界上位1%の 超富裕層 向けの体験は「ハイパーパーソナライズ、厳選、プライベート」【ラグジュアリーブリーフィング05】

DIGIDAY

Glossy+ ラグジュアリーブリーフィングを紹介する。これは、成功を促進するためのグローバルラグジュアリーブランドの戦略を解き明かすメンバー向けの最新記事である。その第一歩として、ラグジュアリーの現状と未来についてのレポートを5つのパートに分け、5週間にわたって掲載する。各記事ではファッション・美容業界のラグジュアリーカテゴリーに焦点を当てて、ラグジュアリーマーケティング担当者、創業者、投資家、アナリストからなるフォーカスグループの洞察を取り上げる。また、サックス(Saks)と協力して、サックスのラグジュアリー消費者のパネルから独自の洞察をまとめた。

第5週はファーフェッチ(Farfetch)、ブルネロクチネリ(Brunello Cucinelli)、マイテレサ(Mytheresa)などの幹部からの洞察を交えて、ラグジュアリーエクスペリエンスについて取り上げる。ーーZofia Zwieglinska, fashion reporter

超富裕層1%向けのエクスペリエンスはハイパーパーソナライズ・厳選・プライベート

エクスペリエンスが新たなラグジュアリーになっている。アフターコロナの世界では、特に、購入客との関係に価値を加える厳選された素晴らしいエクスペリエンス、つまり顧客の期待を大きく上回るエクスペリエンスほど顧客を魅了するものはない。

現在、ブランドやマーケットプレイスは独自の体験を通して高額支出の顧客に価値を提供するためにあらゆる手段を講じている。エントリーレベルや中堅レベルの顧客が価格高騰や不安定な経済の影響を受ける傾向がある現状において、ラグジュアリーブランドやマーケットプレイスの多くは収益の大部分を上位顧客から獲得している。

通常、このような上位顧客は年間7桁(100万ドル、約1.4億円)を超える支出のある顧客として定義されており、このカテゴリーは成長し続けている。ラグジュアリーマーケットプレイスのファーフェッチでは顧客の上位1%が2022年の総商品価値の27%以上を生み出している。また、現在、ラグジュアリーマーケットプレイスのマイテレサの顧客の約3%が年間売上高の35%を牽引している。マイテレサは最近の決算発表で、3月31日までの3カ月間で上位顧客数が28%増加し、この顧客層の平均支出額が6.7%増加したと発表した。バーバリー(Burberry)やシャネル(Chanel)などのブランドは高額を費やしているラグジュアリー顧客に関する収益を明らかにしていないが、かなりの額であることは想像に難くない。

その結果、ブランドは、高額支出の顧客に提供するエクスペリエンスと、それ以外の顧客向けのものとを区別する新しい方法を吟味している。限定ブティックから特別なディナー、至れり尽くせりのコンシェルジュサービスまで、超富裕層に提供される体験はますます増えており、手の込んだものになっている。2021年、クワイエットラグジュアリーブランド、ブルネロクチネリは招待者限定のカーサクチネリ(Casa Cucinelli)を初オープンした。現在、プライベートショッピングロケーションを世界に7カ所抱えており、購入客との親密な関係を築くことに注力しているほか、イベントやディナーを開催している。また、グッチ(Gucci)は5月、転換戦略の一環としてツタに覆われた予約制サロンをロサンゼルスにオープンした。シャネルは、2023年、アジアの主要都市を皮切りに高額支出の顧客を対象にしたサービスに特化した独立の専用プライベートブティックをオープンする計画を発表している。

ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)のラグジュアリー部門責任者、サラ・ウィラーズドーフ氏は「ラグジュアリーエクスペリエンスを追跡しているが、当面のところこれはパーソナルグッズよりもはるかに高い割合で成長している」と述べている。

パンデミックが落ち着いてきて、特別なプライベートクライアント向けのファッションイベントが活況を呈している。ブランドが遠隔地でファッションショーを開催したり、プライベートクライアント向けのイベントや豪華ツアーに注力したりする傾向により、この状況はさらに加速している。フォーシーズンズホテル ニューヨークダウンタウン(Four Seasons Hotels New York Downtown)の総支配人、トーマス・カレーラス氏は「旅行に関してはこれまで経験したことのない旅が増えている。厳選旅行のなかには実に素晴らしいものがある」と語っている。

こうした旅行イベントは業界の標準になりつつあり、多くの場合パートナーシップが関与している。マイテレサは4月、ジミー チュウ(Jimmy Choo)と提携してをトップ購入客をヴェネツィアへ招待した。その旅行ではゴンドラツアーと高級ブランドアイスクリームを提供するジェラテリアでのプライベートエクスペリエンスがメインのプログラムが組まれた。招待客は夜はパラッゾゼノ(Palazzo Zeno)での親密なディナーを楽しんだ。翌日、マイテレサは、サンマルコ広場のカフェクアドリ(Caffe Quadri)でのランチとドリンクで招待客を驚かせた。マイテレサのプライベートクライアントイベントの中でもこれは比較的公にされたもののひとつであり、ソーシャルメディア拡散のためにコンテンツが撮影された。

もっとプライベートなイベントとして、マイテレサには、2022年、ランウェイでコレクションを発表した4日後にパリにあるスキャパレリ(Schiaparelli)のサロンで35人のプライベートディナーを主催したことがある。女性客らはシンガポールとロサンゼルスからパリへ飛び、サロンを見学し、ディナーを楽しみ、マイテレサのCEO、デルフィーヌ・ベリーニ氏と面会した。客の多くはファッション関係者ではなかったため、これは金では買えない実にユニークな体験となった。

「さまざまな人々にさまざまな体験を提供する必要がある」と、マイテレサの最高顧客体験責任者のイザベル・メイ氏は語る。「全員が同じ形式を望んでいるわけではないので、パーティやディナー、ランチなど異なるものを用意している。重要なのは、このようなエクスペリエンスを生み出す際に顧客とコミュニケーションを取る方法を多様化することだ」。

「顧客関係はロイヤリティと支出の増加を生み出す。一対一の体験とクライアンテリングを通じて、当社を引き立ててくれているトップクライアントに報いたいと考えている」とメイ氏は付け加える。

一方、サックスは1月にアスペンでインフルエンサーと厳選購入客を対象に、プログラムとスキーが含まれたイベントを主催した。サックスのCMO、エミリー・エスナー氏は次のように述べている。「金では買えない素晴らしい体験やアクセスにフォーカスした体験を通じてVIC(非常に重要な顧客)にサービスを提供することは確かに行っている」。

ほかのブランドは市場内での差別化に注力し、自社ブランドの世界とアイデンティティを中心にして1%超富裕層に対応する取り組みを構築している。イタリア、ウンブリア州ソロメオ村出身のデザイナー、ブルネロ・クチネリ氏は自分の故郷の体験を世界中に点在するプライベートなカーサクチネリの空間に取り入れることに注力している。

「ブルネロクチネリは常に行動を重視している」とブルネロクチネリ・ノースアメリカのプレジデント兼CEOのマッシモ・カロンナ氏は語っている。「これは私的な環境でクライアントと関与する方法であり、プライベートな方法で当社を知ってもらえる。まるで自宅に相手を招くような感じだ」。

グローバルなカーサクチネリの空間は、トップクライアントのための会議室やプライベートショッピングクローゼット、食事の場所となる。食品から家具に至るまでストアのあらゆる面がソロメオやイタリアの工芸品と関連している。カロンナ氏によると、焦点は購入からできる限り遠いところにあるという。代わりに注力しているのはエクスペリエンスだ。「イベントを行うのはいいが、個人的な1対1のエクスペリエンスが実現できるプライバシー要素を常に理解した上で行わなければならない」。

4月には、ニューヨークのクチネリのオフィスに隣接するカーサで2つのイベントが開催された。ソロメオ村からシェフが派遣され、プライベートな厳選環境で限定の少数の招待客にイタリアのその地方の料理が披露された。

「(顧客の中には)コレクションのアイテムを購入するだけではなく、当ブランドの文化をもっと知りたいという欲求がある」とカロンナ氏。「ブランドを纏うだけではなく、ブランドを体感したいと思い、創業者とその暮らしに高い関心がある」。クチネリはまた、同ブランドの仲間らをミラノとフィレンツェに招いて独自の体験を提供している。

ブルネロクチネリの伝統に対するそのような関心を考えれば、クチネリにとって信頼性を維持することは特に重要である。それゆえ、創業者は従業員600人をソロメオに招待した。村の魅力を体験してもらい、ソロメオとその文化についてプライベートクライアントに伝えられるようにするためである。

このような特別なイベントに関してもっとも重要なのは、同じ考えを持つ興味深い人々と出会い、貴重で新しい経験をすることが参加する顧客から望まれているという点でカロンナ氏とメイ氏の意見は一致している。ブランドらはプライベートクライアント担当マネージャーと協力して、ホストやほかのパートナーらを厳選してこれを実現している。「どの顧客にも共通点がある、それは時間がないということだ」とメイ氏。「どこかで何かを体験したり、他人とディナーを楽しむことには、彼らにとって付加価値がなければならない」。

数字で見る:ラグジュアリー顧客が最優先するのは旅行とエクスペリエンス

サックス・コンシューマーインサイト(Saks Consumer Insights)協力

2023年4月、Glossyはサックスと提携して、3944人の高級消費者を対象に現在の購入習慣について調査した。今回は、彼らの購入習慣がどのように変化したか、また、ラグジュアリー旅行とエクスペリエンスにどの程度投資しているかについて取り上げる。

回答者の約3分の2が今後12カ月間で旅行にもっとも多額を費やす可能性が高いと答えた。次いで美容製品(37%)、地元での体験・エンターテイメント(37%)が続いた。パンデミックの規制が緩和され、リベンジ旅行が増加するなか、ラグジュアリー顧客からは対面でのつながりや没入型の体験が求められている。

「ラグジュアリー消費者は体験と物理的な購入をトレードオフする傾向が必ずしもあるわけではない。彼らは両方を行っていることが多いので、当社にとって旅行は概ね良いことだ」とサックスのCMO、のエミリー・エスナー氏は述べている。

顧客は通常よりも多く支出する予定はないようだが、エクスペリエンス、商品、旅行への投資がもたらす価値への関心は高まっている。回答者のほぼ半数が過去12カ月と比較して今後12カ月に同じ金額を支出すると回答した。ラグジュアリーへの支出が若干増えると回答したのは23%、若干減ると回答したのは16%だった。

支出を増やしている人々はラグジュアリーブランドや小売業者が提供している新たな利便性に反応しているのかもしれない。「これはほとんどワンストップショッピングのようだ。我々がラグジュアリーカテゴリーのあらゆるものを顧客に提供できれば、それは大きなメリットだ」と述べているのはファーフェッチの顧客サービス・プライベートコンシェルジュ担当バイスプレジデント、ベティ・ファン氏だ。「供給範囲を拡大してラグジュアリーブランドとの関係を強化するにつれて、多くの顧客が当社を利用し続けているのがわかっている。なぜなら、顧客は(サービスが)非常にシームレスなのを知っているからだ」。

ラグジュアリーエクスペリエンスの現状と未来

関係者に聞いた、現状と未来

主なトレンドは、親密なエクスペリエンス

多くの場合、デジタル体験は使われていない。だが、クライエンテリングは例外だ。ブランドはWhatsappなどのチャネルを通じて世界中の顧客とやり取りしているため、デジタルインタラクションが依然大部分を占めている。現在、エクスペリエンスやイベントは、主にブランドの創業者やリーダーとの親密なつながりにフォーカスされている。

1%の超富裕層とって金は問題ではない。イベントは、驚きと喜びに満ちたユニークな要素があり、ブランドへの比類ないアクセスを提供するものでなければならない。ベンチャーキャピタル会社、イマジナリーベンチャーズ(Imaginary Ventures)の共同創業者兼マネージングパートナーのニック・ブラウン氏は次のように述べている。「多くの配慮がなされている。少ない回数で優れたエクスペリエンス、少数で秀逸な製品。そのなかには目的地、つまり旅行イベントがある。重要だと感じられるものと旅行とをどのように関連づけるかが重要だ」。

ラグジュアリーブランド・小売業者のイベントには、ポロなどのスポーツ、アートバーゼルのような美術展、グルメ体験などが含まれることが多い。ファーフェッチは、3月、ニューヨーク市のラ・レジデンス(La Résidence)において、シェフのヤン・ヌーリー氏とともにプライベートクライアント25人を招いて親密なダイニング体験を開催した。これは、この会場での同社の初イベントだった。ファーフェッチのプライベートクライアント・ラグジュアリーエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデント、ティエリー・ピション氏は「当社には、非常に熱心で重要なプライベートクライアントの顧客ベースがあり、よりパーソナライズした方法でサービスを提供している。また、主要地域の多くにプライベートクライアント向けのスタイリストを常駐させており、顧客の文化的な価値観やニュアンスを理解することによって極めて厳選したエクスペリエンスを提供することができる」と述べている。そして、このような厳選エクスペリエンスの多くは少数の限定招待客のためのものである。

5月に行われたカンヌ映画祭の期間中、ファーフェッチはネットワークUSA(Network USA)と提携。受賞歴のあるヨット「ウェルズリー」号に顧客を招いてプライベートのサンセットディナーとカクテルパーティを開催した。

データと専門知識が王者

エクスペリエンスとイベントへの招待に対するアプローチは異なっているものの、常にそれは意図的である。

特にイベントがブランドパートナーシップの場合、ファーフェッチやマイテレサのように購入パターンや過去のイベントからの特別なデータを用いて招待客の選択を決定する企業もある。ピション氏は「当社はパートナーにもっとも上質で熱心なラグジュアリーオーディエンスを引き合わせる」と語っている。

「当社が超富裕層の顧客を抱えていることはブランドからすでに理解されている」とファーフェッチのファン氏は述べている。「刷新を狙うブランドにとって、一般的なリーチの外にいる少数の顧客を特定することは、当社のスタイリングチームやファッションコンシェルジュと協力することで容易になるかもしれない。特に新規市場においては」。ファーフェッチは、ブランド復活を狙っているあるスイスの時計会社と提携し、先日、パテック フィリップ(Patek Phillipe)やリシャール ミル(Richard Mille)の時計を複数購入したことのある顧客やユニークなジュエリーを購入したことのある顧客を米国でのイベントに招待した。

データを活用したアプローチによって、将来の明確なターゲティングと売上への直接的な関連性が可能になる。昨年、ファーフェッチはヴァレンティノ(Valentino)の2022年秋のピンク PP コレクションのローンチを支援し、プライベートクライアントにそのコレクションや限定商品への早期アクセスを提供した。これにより、ファーフェッチを通じたヴァレンティノの業績が向上、プライベートクライアントエンゲージメントが 80%以上増加し、平均注文額は約2500ドル(約35万円)だった。

一方、ブルネロクチネリは、イベントの招待客リストを決めるために顧客とその好みについて学ぶことは店舗スタッフとクライベートクライアント担当マネージャーに任せている。カロンナ氏は次のように述べている。「当社のスペースやマネージャー、ブランドアンバサダーを通して適切な顧客を選んでいる。顧客が当社に費やす金額は気にしていない。多くの企業がVIPやVICを気にかけているが、(顧客が支出する)金額だけではなく、顧客が当社に与えた影響や、長期的な関係を考えているかどうかということも重要だ」。

現在、ジミー チュウ、ティファニー(Tiffany&Co)、ファーフェッチはこのような顧客関係を担当するプライベートクライアントマネージャーを募集中である。

曖昧になりつつあるコンシェルジュとラグジュアリーエクスペリエンスの境界

ブランドや小売業者がパーソナルクライアントとのつながりを築くための新たな機会が生まれつつある。たとえば、ファーフェッチは最近、家の装飾から結婚式の演出まであらゆるものについてアドバイスを提供するようになっている。また、限られたプライベートクライアントのためにコンシェルジュサービスも提供している。

「フルサービスを提供できるよう、トップクライアントのために対応している」とファン氏。「(たとえば)いまは、ニューヨークでの盛大な結婚式の準備のためにあるスポーツ選手と協働している。結婚式は9月だが、現在計画しているところなのだ。したがって、短期間で、花嫁のウェデイングドレスとリハーサルドレスのほかにも、新郎のオーダーメイドの服や、花嫁付添人10人、花婿付添人10人、リングベアラー、フラワーガールらの衣装も担当することになった」。

ファーフェッチは、顧客のギフティングやイベント向けに顧客の期待に沿った独自のアイテムの調達も行っている。ファン氏は次のように述べている。「ファーフェッチにはアスリート関係に特化した部門がある。ワールドカップに先立ってチーム全員にカルティエ(Cartier)の時計を贈ったサッカー選手を担当した。そのような形でクライアントに対応できるように引き続き尽力している。これは、なかなか手に入らないような商品をファーフェッチの内外で探すという1回限りのリクエストよりも大規模だ。クライエンテリングは拡大しており、ほかのサービスも提供するようになっている」。

[原文:Luxury Briefing: Experiences for the 1% are hyper-personalized, curated and private

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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