「CVC事業を通じて、マルチブランド戦略を強化したい」:ポーラ・オルビスホールディングス 岸 裕一郎氏

DIGIDAY

創業92年の老舗メーカーは、なぜ国内でいちはやくCVC事業をスタートしたのか。

米国ではここ数年、ユニリーバ(Unilever)によるダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)買収のような、大手メーカーがD2C企業を傘下に収める例が複数見られている。同様の取り組みを国内で実践しているのが、ポーラ・オルビスホールディングス(POLA ORBIS HOLDINGS)だ。同社は、2018年にCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げ、D2C企業への投資や買収を行っている。

「人々のニーズが多様化する昨今、D2Cブランドのような、小さくても『個性的で尖った』ブランドを複数保有する体制を当社は目指している。CVC事業を通じてこれを実現したい」。こう語るのは、ポーラ・オルビスホールディングスで、総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当を務める岸裕一郎氏だ。同氏は、2018年に設立されたポーラ・オルビスホールディングスのCVC、ポーラ・オルビスキャピタル(POLA ORBIS CAPITAL)の起案者であり、現在も運用担当者として事業を推進している。

岸氏は、DIGIDAY[日本版]とGlossy Japanが、2021年7月16日に主催した「D2C STRATEGIES FORUM」において、「ポーラはなぜ『CVC』を推進するのか?:老舗メーカーが挑む、ブランドビジネスの新機軸」と題したセッションに登壇。以下にセッションの一部を紹介する。なお、読みやすさを考え、多少編集を加えてある。

ポーラ・オルビスホールディングスの岸氏

――ポーラ・オルビスキャピタルの現状は?

ポーラ・オルビスキャピタルは、私が社内ベンチャー制度を活用して起案し、2018年2月にスタートした。現在は累計16社に対して、それぞれ一億円以下の規模で投資を行っている。

対象領域はD2Cをはじめ、ビューティテック、リテールテックといったテクノロジースタートアップも含まれる。D2C分野への投資は予算全体の40%〜50%ほどだ。

具体的な投資実績を挙げると、D2C企業ではコスメブランドを展開するDINETTE(ディネット)や、パーソナライズビューティケアブランドを展開するトリコなどがある。なおトリコは、先日ポーラ・オルビスホールディングス傘下に加わった。

――D2C企業への投資を行う理由は?

海外では、P&Gやユニリーバ(Unilever)いったプレイヤーが、CVCを構え、非常に緻密な戦略のもとD2C企業への投資や買収を進めていると推察している。たとえば彼らは、自社ブランドと競合するようなブランドであっても、買収の可能性を踏まえて投資を行っているケースも見受けられる。

現在、ポーラ・オルビスホールディングスは、ポーラ(POLA)とオルビス(ORBIS)を基幹ブランドとしている。しかし、人々のニーズが日々多様化していくなか、今後はメガブランドのみを軸にするのではなく、小さくても「個性的で尖った」ブランドを複数保有する、マルチブランド戦略の強化が必要だと考えている。これは、まさにグローバルではP&Gやユニリーバが実戦していると感じており、CVCを通じて我々が実現したいことのひとつでもある。

――投資を行う際に、重視するポイントを教えて欲しい

D2Cのなかでも、ビューティ/ウェルネス、ファッション/アパレル、フードの3領域を注力セクターとして定めている。加えて、海外市場で伸びるポテンシャルがある領域については、より一層注力している。国内の消費がますます縮小していくなか、これは重要な視点だと考える。また、日本の消費財は未だに世界的にも非常に品質が高く、グローバルで戦える領域の1つだと考えている。

上記2点が大まかなところだが、これ以外にも細かなテーマを5つほど設けている。1つ目が、既存の産業構造に課題のある領域であること。たとえばアパレルであれば、廃棄を巡る課題が挙げられる。

2つ目は、UI・UXに変化を加えることで、成長する可能性があること。サプリメントやコスメがこれに該当する。というのもこうした領域は日本において、UI・UXが長らく変化していなかった。デジタルネイティブなD2C企業がこうした状況を変えていくことで、新たな可能性が生まれるのではないか。

そして3つ目が、アジアや日本の強みが活きる領域やプロダクトを携えていること。これは、グローバル市場を見据えるうえで重要なポイントだ。

4つ目は、ブルーオーシャンな領域であること。国内事例ではメンズビューティーブランドを展開するバルクオム(BULK HOMME)などは、まさにこれに該当するだろう。メンズビューティーはまだプレイヤーも少ない。今後ますます成長していくだろう。

5つ目が、個人をエンパワーメントする領域であること。インフルエンサーと呼ばれる人々の活躍を見ればわかるとおり、昨今「個」の力は確実に強まっている。

――いま、新たに注目している領域・ビジネスは?

大きく6つある。1つ目はフレグランスだ。最近は、ジョーマローン(jo malone)やディプティック(Diptyque)といったブランドが、フレグランス製品で単体で店舗を構えるという事例も出てきており、コスメ等でも香りにこだわったブランドが伸びている印象がある。

2つ目は、ハードウェア+サブスクリプションの領域だ。ペロトン(Peloton)などがこれに該当する。これまで国内のスタートアップ界隈では、ハードウェアを展開することがなかなか難しい側面があった。しかしグローバルでは、このところハードウェアを展開するスタートアップの成功事例が多数出てきており、非常に注目している。

3つ目はスイーツ。日本人にとって、スイーツは非常に身近な存在だ。家から少し歩けば、近所にコンビニやスーパーがある。その分競合も多いが、まだまだ可能性を感じている。

4つ目が美容機器だ。日本の美容機器はかなりポテンシャルが高いと個人的にも思っている。中国といった海外市場でも伸びていくのではないか。

5つ目が飲料。国内市場においては、長らく大手が存在感を誇っている領域で、あまり構造が変わっていない。そこに変革の余地があると考えている。

そして6つ目が、D2C支援事業だ。昨今、数多くのD2C企業が出現しており、と同時にその裏側を支えるインフラへの需要も高まっている。

Written by 村上莞
Transcription by 小玉 明依
Photo by 堤賢悟

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