効率と サステナビリティ の二兎を追うスタートアップの戦略:「ペイドソーシャルの実績は驚異的だ」

DIGIDAY

都市部の移動手段にはそれぞれ特有の利便性や障害がある。電動キックボードと電動自転車のシェアリングサービスを展開する新興企業のライム(Lime)にとって、目下の狙いは都会の住人の心をくすぐることだ。

問題解決に貢献する新キャンペーン

ライムは自社の電動キックボードや電動自転車の普及促進を図るため、さまざまな方法で地域市場へのアピールを試みている。一番の狙いは、都会の人々に新しい移動手段を提案し、ライムの製品が彼らの日常生活に適していることを理解してもらうことだ。

今週、ベルリン、サンフランシスコ、ワシントンD.C.で開始する新たなキャンペーンでは、予測不能な通勤通学中の人々に照準を合わせ、デジタルビルボードとSpotify広告を中心に展開する。車や電車が使えない場所、渋滞や遅延、駐車場を回避できる場面で消費者にリーチすることが目的だ。

「このような大都市で、ライムが問題解決に貢献できる機会は少なくない」と、同社のブランドマーケティングを統括するクリスチャン・ナヴァロ氏は話す。「ワシントンD.C.のアダムスモーガン地区で駐車場を探すのはたいへんだ。サンフランシスコのエンバカデロでは交通渋滞に巻き込まれるかもしれない。ライムには都市部の暮らしを改善するという存在理由が確かにある」。

サステナビリティも重要なテーマに

もちろん、サステナビリティも重要なテーマのひとつだ。たとえば、サンフランシスコで展開した広告は「気候不安」に触れている。また4月には、ガソリンを大量に消費する車の利用を一定期間控えると約束した人に特典を提供する「車とお別れ」キャンペーンもおこなっている。ライムはキャンペーンの応募者数を公表していない。一方、燃料価格の高騰が車離れとキックボードへの乗り換えを促したとの報道もある。

今回のキャンペーンは、ライムがさまざまな側面で事業拡大を図るなかで実施されたものでもある。昨年は、株式公開の試みの一環として5億2300万ドル(約761億円)を調達するとともに、一部の都市でモペット(ペダル付きの原動機付自転車)の提供を開始した。今年初めに撤退を余儀なくされたが、一時はニューヨークでも利用されていた。

ライムがローカルマーケティングに注力するのはこれが初めてではない。2019年には、各都市のエージェンシーと連携して地域広告を展開した。一方、規制の問題で苦戦を余儀なくされる地域もある。たとえば、ミネソタ州のセントポールでは、最近になって電動キックボードの公道での利用再開は認められたが、電動自転車は禁止のままだ(ライムは韓国でも規制問題などを理由に営業を停止している)。

ライムでは、消費者向けのマーケティングに加え、安全性や駐車場の問題に焦点を当てた、政策立案者向けのキャンペーンにも注力している。

ライムは広告費を公表していない。しかし、今年これまでの実績を見る限り、競合他社の広告支出は一様ではない。調査会社のパスマティクス(Pathmatics)もライムの広告支出に関するデータは持っていないが、競合のバードライズ(Bird Rides)が今年これまでに支出した広告費は66万8000ドル(約9727万円)で、2021年の36万9000ドル(約5373万円)から大きく増えている。対照的に、リフト(Lyft)がさきごろ傘下のシティバイク(Citibike)のマーケティングに投じた費用はわずかに1万6800ドル(約244万円)で、昨年は1万9400ドル(約282万円)だった。

ナヴァロ氏はどの広告チャネルがもっとも成績が良いかについて明らかにしなかったが、これまでのところ、ペイドソーシャルによる新規会員の獲得実績は「驚異的だ」と述べている。ライムでは、新規の利用者を集めるために、登録時に新規入会特典を提供している。しかし、ナヴァロ氏によると、今回のキャンペーンの最重要目標はブランド認知の向上だという。なお、同氏は直近の新規登録者数については公表を控えるとした。

各都市の伝統文化に触れる戦略

ナヴァロ氏はフィットネスサイクリングのソウルサイクル(Soul Cycle)とSpotifyのマーケティング部門を経て、この5月にライムに入社した。Spotifyでは(個々のユーザーがその年によく聴いた楽曲を集めた)「まとめリスト(Wrapped)」の作成に携わった。音楽を聴く、フィットネスバイクに乗る、自転車やスクーターをレンタルするなど、人に何かしらの習慣化を促すには、文脈が重要だとナヴァロ氏は話す。

今回のキャンペーンでは、地域密着型の戦略として、各都市の伝統文化に触れている。たとえば、ベルリンで展開した広告では同市のクラブカルチャーを取り上げており、ライムに乗ってキットカットクラブ(有名なフェティッシュクラブ)に行こうといった内容のビルボードが掲出された。

ナヴァロ氏によると、ドイツ語の広告コピーの内容は「ちょっと不浄な妄想は許せても、不浄な空気は許せないという人、ライムに乗り換えよう」といったところ。「これが我々の考える地域密着だ。私にとっての課題は、こういうちょっと先鋭的な要素をどう盛り込むかということだ。このカテゴリーはこういった思考を受け入れる下地ができている」。

拡大を続けるマイクロモビリティ

自転車乗り予備軍をマイクロモビリティの時流に乗せることを模索する企業はライムに限らない。たとえば4月には、いくつかの主要都市で電動キックボードのシェアリングサービスを運営し、シティバイクを所有するリフトが自転車愛好家の多様性にフォーカスしたキャンペーンを実施している。また6月には、電動キックボードを製造販売するレイザー(Razor)がキックボードと自転車向けの初のブランドキャンペーンを展開した。

電動自転車や電動キックボードへのアクセスは拡大を続けている。米国運輸省によると、7月現在、米国内でドックレス(乗り捨て)型の自転車シェアリングシステムを運用している都市は35都市、電動キックボードは158都市となっている。2020年には、電動自転車はわずかに19都市、電動キックボードは93都市だったが、2021年にはそれぞれ34都市と136都市に拡大した。

マイクロモビリティの全体的な利用者数も、コロナ禍による減少を経た後、各都市で上昇傾向に転じている。たとえば、ワシントンD.C.の場合、バイクシェアによる総移動件数は、2020年7月が25万件、2021年7月が33万5000件、さらに2022年7月が43万2000件だった。また、西海岸のサンフランシスコでは、それぞれ34万件、46万2000件、53万3000件だった。

モーニングコンサルト(Morning Consult)が最近発行した報告書によると、製品を開発するテクノロジー企業と製品を購入する消費者の双方で、サステナビリティへの当事者意識が高まっている。「この傾向はキックボード市場にも当てはまる」と、同社の技術アナリスト、ジョーダン・マーラット氏は述べている。

「テスラのようなブランドはEV(電気自動車)の申し子だ」とマーラット氏は話す。「彼らは自動車メーカーというより、テクノロジー企業と目されている。キックボードもある意味同様で、短距離移動のサステナブルな代替手段と位置づけられている」。

[原文:Lime’s new ad campaign puts efficiency on par with sustainability

Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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