D2Cブランド界隈の定説「いずれは卸売に進出を」はアリか?:タイミングとリスクを検証

DIGIDAY

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この数年間にわたり、D2C分野の新興企業のあいだでは、「どの新興企業も、いずれは卸売に進出する必要がある」というのが、もっとも多く持ち出されている定説となっている。しかし、多くの創業者にとって、このような会話は、卸売とD2Cの拡大を両立させることがいかに難しいかを過小評価していることが多かった。

米モダンリテールが4月11〜13日に開催したモダンリテールコマースサミット(Commerce Summit)で、もっとも多く話し合われた話題のひとつは、デジタルネイティブな新興企業として卸売に進出する方法、そして、小規模な新興企業が複数の卸売チャネルを管理するために必要な時間と資金をどのように捻出するかだった。

一部の創業者は、卸売がD2Cとはまったく異なる世界だと表現している。購入の流れも、投資の水準もまったく異なるものが必要となる。多くの創業者は、大手小売業者で販売を行うために必要な事務手続き、技術的なアップグレード、マーケティングの投資を続けるために苦労してきた。さらに、創業者のなかには、大手小売業者が最近になって若いブランドの商品を取り扱うことに好意的となってきたものの、新興企業の商品が陳列棚で販売され続けるための十分な支援を受けていないと感じている人もいるという。

卸売に早期進出する利点とリスク

D2Cブランドを複数保有するウィンブランズグループ(Win Brands Group)の共同創業者でCEOを務めるカイル・ウィドリック氏は壇上で次のように述べた。「創業者に求められるものは極めて多くなってきた。D2Cでも、Amazonでも、卸売でも、優れた手腕を発揮する必要があり、これを的確に行うには多くの専門技術が必要だ」。

イベントの参加者らがそれぞれの参加目的や課題を共有する時間「タウンホール」において、創業者たちは、サンプリングイベントからリテールメディアの推進まで、あらゆるマーケティングキャンペーンに何万ドルもの支出を求める圧力を、小売業者から感じると話していた。この問題について多くの参加者が合意した解決策は、たとえば新商品の販売を開始するときなど、自分たちにとって重要な時にのみ、大規模なマーケティングキャンペーンに投資するようにしよう、というものだった。

このように、卸売販売の成長が急がれているのは、ほとんどのブランドはやがてD2Cの成長だけでは頭打ちになるという認識に後押しされているためだ。もっとも大規模なベンチャーの支援を受けたD2C企業のいくつかは、卸売への展開が遅すぎたことからトラブルに巻き込まれた。たとえばオールバーズ(Allbirds)は、同社が2021年に上場した直後、卸売業への進出が最優先事項であったと語った。しかし同社は、3月に行われた第4四半期の決算発表において、さまざまな事業をバランスよく拡大させるために苦労した結果、収益が前年同期比で13%減少したと報じた。

そのため、創業者たちは競合他社に陳列棚を奪われるリスクを負う前に、早期に卸売業に進出した方がよいと考えるようになっている。しかし、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)でのローンチが早すぎると、大口の注文を管理するための適切なキャッシュフローや、小売店への進出を適切にマーケティングするためのリソースがない場合、自滅してしまうリスクもある。

「ブランドに起こり得る最悪の結果は、求めていた大量の卸売注文を受け、販売店に売られたにもかかわらず、消費者に売れないことだ」と、ウィドリック氏は語る。

卸売に向けた正しい準備

このため、卸売のプレゼンスを拡大したいブランドにとって、最初のもっとも重要な手順は、正しい準備を行うことだ。パターンブランズ(Pattern Brand)の共同創業者で最高ビジネス責任者を務めるスーズ・ダウリング氏は、卸売の取引に取り組む前に知っておくべきだったことのひとつが、「オペレーションや物流チーム、財務チームの管理作業がどれだけ増えるか」だったと述べている。

ブランドは、ブティックとの取引でさえ、いくつもの請求書をさばいたり、次の注文の追跡番号をブティックに送付したりする必要があるため、運営上の困難となり得ると、同氏は述べる。「このことをよく認識し、先回りした対応ができるか、極めて明白なプランを保有するべきだ」と、同氏は述べる。

自然デオドラントブランドのキュリー(Curie)の創業者でCEOを務めるセアラ・モレ氏は、8月に数千もの店舗で販売されるという、初の大規模な実店舗展開に向け、準備を進めている。その準備のため、モレ氏は、ブランドへの認知をより高めようと、同社のマーケティング配分の変更を検討しているという。これは、Facebookから、ビルボードやテレビのようなより大衆的なチャンネルへと支出をシフトすることを意味するかもしれない。

キュリーは、この実店舗での販売に合わせて、在庫を増やすための投資も必要になるだろう。現在同社は約4週間分の在庫を保有しているが、今後はこれを3~4カ月分に増やす必要があるかもしれない。モレ氏によると、同社はそのための予算の捻出方法を検討し、コスト削減の可能性を探るために、ベンダーと交渉中だという。

モレ氏は、同社が卸売に重点を置いているため、「今四半期はD2Cでの成長が見られないかもしれないが、それでも構わない」という事実をチームが受け止められるよう準備していると明かした。「なぜなら、人々はキュリーの商品を買い求めるのなら、どこで買うのかは気にしないからだ」と、同氏は述べている。

手を引くタイミングの見極めも

ウィンブランズグループのウィドリック氏は、創業者にとって、卸売契約から手を引く適切なタイミングを判断することも、重要だと語る。たとえば、ブランドが店舗で適切な棚割りを得られなかった場合、卸売の契約は最初から失敗が見えている。

創業者は、「ウォルマートから連絡があって、当社の商品を欲しいというのなら、契約するべきだろう」という考えに陥ってしまうこともあると、同氏は述べる。「しかし、全体としてブランドのためにならない注文は拒否する必要がある」。

[原文:DTC Briefing: Balancing DTC and wholesale is the next big challenge for startups]

著者:Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Gravity owned by Win Brands Group

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