TVとストリーミングは、この酷暑をどう乗り切ったか?:2022年、動画市場の夏を総括

DIGIDAY

もはや「サマースローダウン」なるものは存在しない。TVとストリーミング、デジタル動画に関しては、確実にそうだ。

Netflixの広告構想、伸び悩むストリーミングのサブスクライバー数、景気の逆風が業界の展望に及ぼすであろう影響……今年の夏が始まったばかりの頃、そこに浮かび上がってきたのは、これらについての問いの数々だった。同時にそこには、毎年恒例のアップフロント交渉に向けたTV広告業界における測定方法変更に関する不透明感や、ショートフォーム動画プラットフォームは、一体いつになったらパブリッシャー、クリエイターと売上を分け合うようになるのかをめぐる永遠の難問もあった。

そして、夏至が過ぎた頃になると、一部の問いに答えが出される一方で、秋と第4四半期に向けた新たな問いも生まれた。夏季休暇を取れた人もいるだろう。ひたすら仕事に追われる夏を過ごした人もいるだろう。この記事では、そんな人たちへ向けて、TVとストリーミング、デジタル動画にとっての今年の夏の総括をお届けしたい。

2022年、夏の重要ポイント

  • 視聴者を奪うストリーミング。ただし、サブスクリプションの成長にかげりも
  • Netflixが開発する広告サービス
  • 財布のひもを締める番組制作会社
  • 財布のひもを緩めるショートフォーム動画プラットフォーム
  • 勢い弱まるTV広告測定の全面見直し

視聴者を奪うストリーミング。ただし、サブスクリプションの成長にかげりも

ストリーミングに復活の兆しが見えてきた。ストリーミングに関しては、2021年にサブスクライバー数の増加が鈍化すると、試聴時間の占有率も低迷を余儀なくされた。その後、トップストリーマーとして市場を先導するNetflixが、2022年の第1四半期、さらには第2四半期にもサブスクライバー数の減少を報告した。これを受けて、もはやストリーミングの成長は限界に達してしまったのではないかとの懸念が広がった。

本当にそうなのだろうか? 少なくとも、今のところはそんなことはなさそうだ。夏が到来し、従来型のTVはオフシーズンに入った。そして7月、ニールセン(Nielsen)のレポート「ゲージ(The Gauge)」によれば、ストリーミングの試聴時間占有率が、ついにケーブルTVのそれを追い越した。対ブロードキャストTVでは、すでに以前からストリーミングが数字でそれを上回っていた。公平を期すために言っておくと、ストリーミングには追い風が吹いていたことも確かだ。Netflixは7月、大ヒットシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の新エピソードを公開している。

とはいえ、サブスクリプションベースのストリーマーはさまざまな困難に直面している。とりわけNetflixにとっては、サブスクライバー数に関しては、同社にとって今年の夏は、忘れられない夏になった。Netflixは7月、サブスクライバー数の約100万人の減少を報告した。ディズニープラス(Disney+)ピーコック(Peacock)の米国内におけるサブスクライバー数も伸び悩んだ。

当然のことながら、秋の話題の中心は、サブスクライバーの獲得に向けた各社の新たな取り組みが占めることになりそうだ。Netflixとディズニープラスは広告付きプランをラインアップに加える準備を進めており、パラマウントプラス(Paramount+)もウォルマート(Walmart)とのバンドルサービスの提供を開始する。

Netflixが開発する広告サービス

広告付きプランに関するどんなニュースが出てくるのかはっきりしない時期もあったが、Netflixの夏は悪いニュースばかりではなかった。早い段階から、Netflixが広告販売とアドテクのパートナー候補を品定めしているとのニュースが出回っていた。その候補のなかにはGoogleやNBCユニバーサル(NBCUniversal)も含まれていたが、7月中旬にNetflixの口から発表されたのは、番狂わせとなるマイクロソフト(Microsoft)だった

この発表に続き、エージェンシーの幹部たちが期待したのは、Netflixが広告主に何を売り込もうとしているのかに関する続報だった。当初のミーティングでは、Netflixとマイクロソフトはこの続報の発表にあまり前向きではなかった。そのため、発表は秋にずれ込むかに思われた。

ところが8月下旬、Netflixは広告バイヤーに向けたピッチを公開、予定では一部の番組の前と途中で流れる広告にかなりの料金が課されること、当面はサードパーティによる測定は行われないことを発表した。

さらに、ようやく、広告ビジネスの統括責任者にスナップ(Snap)の元幹部であるジェレミー・ゴーマン氏とピーター・ネイラー氏を任命した。こうしてNetflixは、自社に向けられた最大の問いの一部に答えを出し、この夏を締めくくった。そして同時に、新たな問いも生み出した。この景気後退のさなかに、広告主はいったいどの程度まで、Netflixが売るものを買えるのだろうか?

財布のひもを締める番組制作会社

そう、景気後退だ。インフレ率の上昇、金利の上昇、いまなお立ちはだかるサプライチェーンの課題……気温の上昇に反比例して、金融情勢は冷え込んだ。こうしたマクロ経済的状況は、TVとストリーミングの広告市場にも冷や水を浴びせた。コネクテッドTVプラットフォームのオーナーであるRoku(ロク)は、第2四半期における広告事業の減速を報告し、合わせて第3四半期におけるさらなる減速も予測した

影響を受けているのは広告市場だけではない。同じように、番組制作市場も冷や水を浴びせられている。Netflixやワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)、Roku、Snapchatをはじめとする各企業は、コストの削減に努めている。これにより、当初の制作費は切り詰められ、番組制作会社に与えられる権利を増やす契約が新規に結ばれている

番組制作会社も同様に、かさむ一方の製作費と格闘しており、この製作費の上昇によって市況を生かすことは難しくなっている。

番組制作をめぐるこうした金銭的あつれきに加えて、TVおよびストリーミングの情勢はここにきて、新番組のリリースラッシュで飽和状態にある。これが意味するのは、FXのCEO、ジョン・ランドグラフ氏が8月に予測したように、「TVのピーク」が2022年についに到来したということなのかもしれない。

財布のひもを緩めるショートフォーム動画プラットフォーム

コスト削減の嵐が吹き荒れるなか、TikTokやインスタグラム・リールなどのショートフォーム動画プラットフォームは、クリエイターとパブリッシャーに向けた新たな収益化のチャンスの扉を開いた。ただしその内容は、必ずしも動画制作者たちが数年前から寄せてきた期待に沿うものではない。

TikTokは6月、広告売上のシェアプログラム、TikTokパルス(TikTok Pulse)のテストを開始した。TikTokパルスは事実上のポストロールプログラムで、条件を満たしているクリエイターは、動画のあとに流れる広告から売上の一部を受けとる仕組みとなっている。インスタグラムも、リールのクリエイターを対象とするボーナスプログラムの枠をパブリッシャーにも広げた

しかし、TikTokもインスタグラムも(さらにはYouTubeも)、ショートフォーム動画の制作者には、レベニューシェアプログラムを完全には開放していない。なかには、プラットフォームがマネタイズの機会を奪ったケースもある。TikTokは、英国と米国で展開する予定だったショッピング機能を中止した。インスタグラムも、クリエイター向けのアフィリエイトプログラムを終了した

5月に行われたTikTokパルスの発表が口火となり、閉ざされていたショートフォームのマネタイズの水門が、ついに開かれるのではないか? クリエイターとパブリッシャーの期待は高まったが、そのマネーフローは依然として微々たるもののままだ。

勢い弱まるTV広告測定の全面見直し

春以降、手付かずのままになっていると思しき業界内のエリアのひとつといえば、TV広告測定の全面的な見直しだ。この大改革はいまも進行中だが、その全容が今夏のアップフロント交渉で明かされることはなかった。

広告主とエージェンシーは、直近のアップフロント契約の一環として、ニールセン以外の測定をテストすることで合意した。NBCユニバーサルは、自社のアップフロント契約の40%以上では、年齢・性別による従来の測定が通貨として使用されることはないと発表した。その一方で、市場の主要通貨として浮上したのは、やはりニールセンだった。

ニールセン自身も自社の測定システムのアップデートに取り組んでいるが、それもまた行き詰まっている。当初の計画では、ニールセン・ワン(Nielsen One)の提供開始は今年の秋に予定されていた。しかし8月、広告主はニールセンから、ニールセン・ワンについては、まだ取引の基盤として使える準備が整っていないということを知らされた。ニールセンは現在も、メディア・レーティング・カウンシル(MRC)の再認可を待っている。つまり、ニールセン以外の測定プロバイダーにとっては、いまが大きなチャンスなのだ。第4四半期から来年はじめにかけてのテストを経たのちに、市場シェアを獲得できるかもしれない。

目が離せない動向は今後も続く。

[原文:Future of TV Briefing: How the TV, streaming and digital video industry spent its summer

Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)

Source

タイトルとURLをコピーしました