独新政権を悩ませる原発ゼロ公約 – PRESIDENT Online

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天然ガスの品薄と急騰で、新電力が次々と経営破綻

ドイツに中道左派の社民党政権が成立してからそろそろ2カ月が経とうとしているが、毎日、何だかんだとニュースをにぎわしているのが緑の党だ。緑の党は自民党(FDP)とともに新政権に加わっており、中でも注目されているのがベアボック外相と、ハーベック副首相。

ドイツ副首相兼経済・気候保護相のハーベック氏ドイツ副首相兼経済・気候保護相のハーベック氏 – 写真=AFP/時事通信フォト

ベアボック外相がウクライナ問題で奮闘している様子は、前回記事<「禁句の中国批判を堂々と展開」ドイツで“脱中国”の外務大臣が国民人気を集めるワケ>で取り上げた。一方のハーベック氏は、経済・気候保護省の大臣でもある。新政権の下で新設された省で、経済と気候保護が並んでいるところに、経済成長と温暖化防止政策を両立させるというハーベック氏の固い決意が表れている。ただ、当初からの懸念通り、すでに今、ハーベック大臣には厳しい現実が迫っている。

ドイツでは、昨年来のエネルギー、特に天然ガスの品薄と急騰による新電力の経営破綻が相次ぎ、年末、新電力の顧客が突然、契約停止の通知を受け取るという事態が頻発した。そうでなくてもドイツの家庭用の電気代、ガス代は、今年から平均6割の値上げという異常事態なのだ。

発電設備を持たない新電力事業者が破綻

電力自由化の後に新電力が雨後のたけのこのように増えたのは、ドイツも日本も同じだった。新電力は皆、勧誘の際に、「簡単な手続き」で「毎月の電気代が格安になり」、「停電は絶対にありません!」と保証してくれた。もちろん送電網はつながっているので、発電できる電力会社がある限り電気はコンセントから出てくるが、問題は値段だ。

新電力には自分で発電施設を持たず、市場で調達した電気を転売して利ざやで儲(もう)けていた事業者が多く、現在のように仕入れ値が急騰すれば、あっという間に経営が破綻する。また、再エネの発電施設を持っている新電力でさえも、昨年は春からずっと風が弱く、売る電気が不足した。かといって、不足分を市場で調達するには電気の値段があまりにも上がり過ぎており、慌てて店じまいということになったわけだ。

お客のほうは、新しい電力会社に乗り換えなければならないが、新電力はどこも新規の顧客を取れば欠損が増えるだけなので門戸を閉じている。結局、元の地域の電力会社に頼るしかないが、燃料の原価が上がっている今、新規契約の値段は既存のお客の払っている料金の2倍になっているところさえある。これでは気の毒すぎるので、収入の少ない家庭には公金で補助を出すという話だ。

買取制度のおかげで格安電気を販売できたが…

ただ、思えばこれまで新電力は、再エネの買取制度のおかげで市場に安く放出された再エネ電気の恩恵を受け、さらに、従来の電力会社の送電インフラにタダ乗りすることで格安電気を販売できた。そして、顧客のほうもそのおかげで安い電気代という特典に浴してきたわけだ。なのに、損をするとなると、後始末は国や自治体にお任せというのはちょっと勝手な気がする。電力、水、医療は自由化してはいけないというが、確かにこの制度には問題がありそうだ(日本もやはり同じような状況になりかねない)。

さて、そういう不穏な空気の漂っていた1月11日、ハーベック経済・気候保護相がこれまでの気候政策の総決算と、新政権の掲げる目標を発表した。すでに前メルケル政権の時代から意欲的だったCO2削減目標が、さらに前進したものだ。ただし、昨年と今年の削減目標はというと、未達成が確定している。

「原発200基分の太陽光発電を確保する」

ハーベック氏いわく、だからこそ今が正念場。新政府の挙げる新たな目標は、2030年までに総発電量に占める再エネの割合を80%にし、2045年までにカーボンニュートラルを達成すること。そのため、国土の2%を目安に風車を増設し(現在は国土の0.5%で、すでに3万本を超えた)、商業設備の新築建造物の屋根には太陽光パネルの設置を義務付ける。こうして太陽光発電の容量は、2030年までに現在のほぼ4倍である200GWに増やす。

200GWというのはおよそ原発200基分に相当するが、これはあくまでも容量であり、実際の発電量ではない。太陽光発電における設備利用率は、点検などで止めない限りフルに稼働できる原発や火力とは違い、ドイツでは年平均11%前後と壊滅的な低さだ(日本は約20%)。特に冬の日照時間が少ないし、雪が積もればパネルは機能しない。つまり、広大なソーラーパークは、いわば収穫の極端に悪い畑が茫々と広がっているに等しい。

ただし、お天気が良いと、それが突然100%近く発電してしまうから大変なことになる。電気が送電線に入り過ぎると停電の危険が高くなるので、危なくなると捨て値で(時にはお金をつけて)周辺国に流す。

「自然を守るために風車が建てられない」という皮肉

ちなみに、風力はそこまで極端な発電量の凹凸はないため、2011年、ドイツが脱原発を決めた時、その代替候補と目された。とはいえ、設備利用率はオンショア(陸上風力)で19%にすぎず(2021年)、つまり、国土の2%に本当に風車を立てたとしても、それだけではドイツの必要とする電力には足りない。

これまで緑の党は、ドイツの電気は再エネで100%まかなえると主張していたが、これは不可能だ。再エネはいくら増やしても、採算の取れる蓄電技術がない限り、原発や石炭火力を代替することはできない。そして、採算の取れる蓄電技術がまもなくできる予定はまだない。

しかも、ここ数年、風車の新設にはブレーキがかかっている。昨年は全国で460基が新設されただけで、そのほとんどが、風況の良い北部の4州と、あとは西部のノートライン=ヴェストファレン州に偏っていた。その他の地域では、バーデン=ヴュルテンベルク州の28基、バイエルン州の8基など。ザクセン州はたったの1基だ。

田園風景にそびえ立つ風力タービン※写真はイメージです – 写真=iStock.com/ljubaphoto

そこで今、ハーベック氏が全国行脚に乗り出し、各州の首相に発破をかけているが、ドイツは元々州政府の力が強く、州の首相は州民の利益を優先するから、ハーベック氏の思い通りには進まない。

しかも、緑の党のハーベック氏にとって皮肉なのは、住民が風車の建設に反対し始めたのは、景観の乱れ、健康被害などのほか、森が潰されるとか、膨大な数の渡り鳥が犠牲になるという、自然保護の理由によるものが多い。これらは、本来なら緑の党が党の看板にして取り組んできたテーマである。

矛盾だらけの政策は「世界で唯一の厄災」

しかし、与党になった今、そんなことも言っていられず、今後は、「お役所仕事を簡便化し、規制も緩和する」方針という。言い換えれば、これは、住民や自然保護団体の反対訴訟などを跳ね飛ばすということにほかならない。ここに緑の党の大いなるジレンマがある。

それでもドイツ政府は昨年の大晦日に、快調に動いていた6基の原発のうちの3基を予定通り止めた。こんな危うい状況で、なぜ、わざわざ、しかもCO2フリーの原発を止めたのかという疑問が当然、湧くが、そんな理屈が通らないのがドイツのエネルギー政策の醍醐味(!)である。

すでに19年1月、ウォール・ストリート・ジャーナルはその状況を、「世界で一番馬鹿げたエネルギー政策」という辛辣なタイトルで報じていたし、今ではドイツ紙の論調も、「ドイツのエネルギー転換政策は世界で唯一の厄災」という意見で統一され始めた。そして、ドイツの一番の問題は、その矛盾に満ちた政策を、現政権が今も錦の御旗として掲げ続けていることだ。

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