ストリートウエアカルチャーが「 ラグジュアリーコレクター 」世代を 創りだした理由【ラグジュアリーブリーフィング04】

DIGIDAY

Glossy+ ラグジュアリーブリーフィングでは、グローバルラグジュアリーブランドの成功を牽引する戦略を解き明かす、メンバー向けの最新記事を紹介。ラグジュアリーの現状と未来についてのレポートを5週間にわたり、5回にわけて掲載する。各記事ではファッションと美容業界のラグジュアリーカテゴリーに焦点を当て、ラグジュアリーのマーケター、創業者、投資家、アナリストからなるフォーカスグループの洞察を取り上げる。さらにサックス(Saks)と提携し、サックスのラグジュアリー消費者のパネルから独自のインサイトをまとめた。

4回目はスニーカー、ストリートウェア、超ラグジュアリーコレクターズアイテムの世界を取り上げ、ますますニッチで個性的な製品を求める動きが、ラグジュアリーにおける最上級の領域をどのように変化させているかを紹介する。ーーDanny Parisi, senior fashion reporter, Glossy

ストリートウェアカルチャーが生んだ新世代のラグジュアリーコレクター

言われるまでもないが、現在では、スニーカーはハイファッションになりうる。故ヴァージル・アブロー氏や、最近ケンゾー(Kenzo)のクリエイティブディレクターに就任したNIGO氏といった革新的な人々のおかげで、ストリートウェアとラグジュアリーというふたつの市場が融合し、確固たる伝統として確立した。2月には、スニーカーやストリートウェアでファッション経験を積んだヒップホップアーティスト、ファレル・ウィリアムス氏が、世界最大のラグジュアリーブランド、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のクリエイティブディレクターに任命され、この融合に新たな神話が誕生している。

ストリートウェアやスニーカーの美学はこれまでのラグジュアリーとは異なるが、その根底には知識豊富なコレクターが希少な限定品を求めるという文化があり、ハンドバッグや美術品といった製品と完全に肩を並べている。こうした合致から数年が経ち、現在、ラグジュアリーの顧客のあいだでは、さらにレアでニッチな唯一のアイテムに対する欲求が深まるばかりだ。

「どのカテゴリーでも最終的にコレクターを動かすのは、商品に対す審美眼である」と語ったのは、サザビーズ(Sotheby’s)のグローバルラグジュアリー部門責任者、ジョシュ・プラン氏だ。「時計、スニーカー、ワイン、なんであれ、興味をそそるもの、ある時代の特定の瞬間に関するもの、ノスタルジックな視点があるものがコレクターの心に響く」。

サザビーズでは、過去2年間でスニーカーやスポーツの記念品などのカテゴリーに牽引され、20歳から40歳のバイヤーが大きく成長したという。昨年度のサザビーズのバイヤーのうち3割以上が、このオークションハウスを初めて利用した人だった。こうした若い新規のバイヤーは、必ずしも低価格の品やエントリーポイントのアイテムを求めているわけではないと、プラン氏は指摘する。またバイヤーの多くは、年配の常連コレクターが求めるような6桁、7桁のアイテムに入札している。

ストリートウェアやスニーカーがラグジュアリー商品として台頭したことで、他のコレクターズアイテムも活性化している。もともとスニーカーの再販プラットフォームで知られているストックX(StockX)は、ここ数年、トレーディングカード、ベアブリック(Bearbrick)やファンコポップ(Funko Pop)などフィギュアを含むコレクターズトイ、コミックブックといったカテゴリーにも手を広げている。昨年、同プラットフォームでナイキダンクパンダ(Nike Dunk Panda)やオメガ X スウォッチ ムーンスウォッチ(Omega x Swatch Moonswatch)と並んだ目玉商品のひとつは、レゴ(Lego)の「ストレンジャー・シングス(Stranger Things)」のセットで、売上が前年比355%増となっている。

多くのバイヤーにとって、こうしたアイテムの価値は投資用の商品としてのステータスだ。KAWSのレアなフィギュアやメジャー選手がNBAの試合で着用したスニーカーはそれ自体に価値があり、時が経つにつれて評価が高まるアイテムだ。そして最高ランクのラグジュアリーの価格帯では、もっとも裕福な消費者でさえ、何百万ドルとは言わないまでも、何十万ドルもかけて購入したものが将来的にも価値を維持するかどうかを知りたがっている。

「理想的には、ずっと変わらない理由があって購入したのだと思いたいところだが、現実には、みな『このバッグを買ったら10年後に売れるだろうか』と考えている」と話すのは、ラグジュアリーファッションインフルエンサーのチャールズ・グロス氏だ。同氏は、バーキン(Birkin)のバッグが15万ドル(約2110万円)で転売され、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)×ナイキのスニーカーが昨年30万ドル(約4219万円)以上で売れたことに言及した。「多くのメゾンが贅沢で極端なラグジュアリーアイテムを出しているが、人々はそれを投資品としてクローゼットに保管している」。

こうした製品に支払われる莫大な金額は、小売価格やそのブランドの一般的な価格帯とは必ずしも見合っていないことが多い。むしろ、極端に限定的な性質が関係している。

たとえば、昨年サザビーズのオークションで35万2000ドル(約4951万円)で落札されたルイ・ヴィトン×ナイキのスニーカーは、1足しか生産されていなかったサイズ6だったため、このような高値がついた。逆に同じスニーカーでも生産数が多かったサイズ6.5は、7万2000ドル(約1013万円)で落札されている。

「スニーカー業界は、高級品の購入から高級品への投資に思考転換させるというすばらしい働きをしており、中古市場が大きく貢献している」とサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)のCMOエミリー・エスナー氏は述べた。「唯一無二であることがつねに市場を牽引するが、同時に商品自体が超クールでなくてはならない。単に希少だから価値があるというわけではない」。

エスナー氏は、高性能ランニングシューズで知られるブランド、オンランニング(On Running)とスペインのラグジュアリーメゾン、ロエベ(Loewe)の最近のコラボレーションが、サックスで特に成功したことに触れた。

「すばらしい製品とその背後にあるすばらしいマーケティングという、本当に優れたマッシュアップの好例」とエスナー氏は述べている。

ブランドにとって、こうしたコレクション性の高いアイテムを扱う魅力のひとつは、その顧客層には他のセクターが直面しているマクロ経済の圧力を反発する力があるという点だ。たとえば、200ドル(約2万8000円)台のジーンズを販売するデニムブランドのフレイム(Frame)は、限定品を求める富裕層のコレクターを引き込むために、最近、スワロフスキー(Swarovski)のクリスタルが散りばめられた超限定ジーンズを1万2000ドル(約168万8000円)で販売した。

「我々はいま、間違いなく大きな意味で不確実な時代にいる」とプラン氏は言う。「だが、特に最高級のものを求めている人々は、今後もそうしたものを追い続けるだろう。先日、ロレックス(Rolex)のJPSデイトナ(JPS Daytona)という時計が250万ドル(約3億5160万円)で落札され、サザビーズで世界記録を達成したばかりだ。あのモデルとしては史上最高額だ。マクロ環境にもかかわらず、人はいつでもそのような卓越したものを追い求めているのだろう」。

数字で見る:ラグジュアリーの買い物客を購買に向かわせる動機は何か?

サックス・コンシューマーインサイト(Saks Consumer Insights)協力

業界の調査の一環として、Glossyはサックス・フィフス・アベニューと提携し、ラグジュアリー消費者3944人のショッピング習慣について調査を実施した。今回は「購買意欲をかき立てるものは何か?」という重要な質問を取り上げる。

回答者には、ソーシャルメディア上の広告やインフルエンサーの投稿を見たとき、友人から勧められたときなど、さまざまな項目のリストを渡し、過去3カ月の間に高級品を購入したきっかけはどれだったのか質問した。

明らかに圧倒的多数だったのは、ブランドや小売業者から直接送られてきたメールやテキストで、49%の消費者がそのようなメッセージが購入のきっかけになったと回答している。その次に、友人からの勧めが35%、ソーシャルメディア上の広告が32%だった。最下位は、テレビ番組や映画の架空のキャラクターからの着想とテレビコマーシャルで、約10%となっている。

また、上記のどれにも該当しないと答えた回答者が約10%おり、「自分のスタイルのセンス」など他の動機を書き込んでいることも注目に値する。

調査対象者の回答は、年齢層によって若干異なっている。たとえば、もっとも若い21歳から30歳では18%がインフルエンサーやセレブリティから着想を得たと回答した。回答者の年齢が上がるほどその数は減り、70歳以上の回答者でインフルエンサーから着想を得たと答えた人はわずか2%だった。

むしろ高齢の消費者は、小売業者からのメールなど従来のマーケティングを受け入れる傾向がある。70歳以上の回答者の31%がメールやテキストに触発されたと答えたのに対し、21歳から30歳でそう回答した人は14%しかいなかった。

男性やノンバイナリーである回答者よりも女性の回答者の方が、若干インフルエンサーやセレブリティに触発される傾向が強いが、その差はわずか数パーセンテージポイントだった。一方で小売店からのメールのような従来のマーケティングは、今回の調査ではすべてのジェンダーグループでほぼ同等の回答となっている。

デジタルコレクティブルの現状

時計のようなカテゴリーが上昇軌道に乗り、スニーカーが安定している一方で、デジタルコレクティブルは高級コレクタブル市場ではるかに波乱に満ちた経緯をたどっている。

2021年の最初の爆発的な関心と投機の後、昨年、NFTやその他のデジタルグッズに対する欲求は大幅な下降と上昇を繰り返した。2022年を通してNFTの売上が急落し、第2四半期から第3四半期にかけて60%も落ち込んでいる。だが、2023年初めには関心がやや回復し、2月に7カ月ぶりの高水準を記録した後、再び横ばいとなった。この変動の要因にはさまざまな可能性があるが、とりわけ重要なのはFTXやバイナンス(Binance)など複数の主要な暗号資産取引所の破綻が大きく報道されたことだ。

サザビーズのグローバルラグジュアリー部門責任者ジョシュ・プラン氏は、たとえ市場に調整があるとしても、サザビーズはNFTに対していまも強気だと話す。サザビーズでは5月末に、あるNFTが250万ドル(約3億5162万円)で落札されたばかりだ。

「我々はWeb3という分野をまだ大いに信じている」と同氏は言う。「多くの新しいものを市場に投入している。この分野には確かに合理化があるが、それはどの市場でも健全なプロセスだ。まず爆発的な成長を遂げ、その後広く普及し、成熟して進化していく」。

とはいえ、市場が変動し始める以前からNFTには関与せず、今後さらに関心を持つ気もないラグジュアリーデザイナーもいる。

自身の名を冠したハンドバッグブランドのデザイナーであるブランドン・ブラックウッド氏は「私たちはNFTの分野には決して参入しなかった」と述べている。「メタバースとか、そういうのは一切やらなかった。私たちは非常にオーセンティックだ。自分たちが持っているものが売り物なのだ」。

価値あるビジュアル資産としてのNFTは衰退しつつあるかもしれないが、ラグジュアリーブランドにとって実用的な用途としての価値は大いにあるかもしれない。ナイキやレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)といった企業は、すでに物理的な製品の認証やイベントのチケット購入といったプロセスにNFTを活用している。

「NFTだからといって熱狂していた状況は、おそらく下火になりつつある」と、ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)でラグジュアリー部門を統括するサラ・ウィラースドルフ氏は述べた。「しかし、非代替性トークンやその用途が秘めている可能性は、まだ初期段階にある。ロイヤルティの構築、製品の追跡、消費者のエンゲージメントの強化に有効活用できる。レンタルなどについて考えた場合、NFTのような仕組みがあるからこそ可能になる」。

[原文:Luxury Briefing: How streetwear culture created a generation of new luxury collectors]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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