してよいミス、してはいけないミス:ミスの区別がつかない日本企業

アゴラ 言論プラットフォーム

20年前以上のことです。東京の本社から海外法人の会社の価値を計算するように指示が来ました。親会社の倒産の足音が聞こえてきた頃で、この手の要請は銀行を通じて頻繁に来ていました。その時、奇妙なひねくれ心から不動産鑑定士に業務の依頼をせず、放置していました。締め切りが過ぎた後に「海外法人で出ていないのはお前のところだけだ」と言われ、「しまった」と気づき、鑑定士に休み返上で作業をしてもらったことがあります。

kanzilyou/iStock

これはやってはいけないミスです。ではなぜ私はひねくれたのか、と言えばアメリカの関連会社数社で200人も解雇して清算業務をやったばかりの不満やストレスと自分がバンクーバーで担当していた事業が海外法人で最大の債務超過会社だったけれど事業が動き始め、確実に改善している自負があったのでしょう。(実際、300億円を超えていた債務超過を解消しました。)

ではもう一つの例です。開発事業がひと段落した頃、商業スペースにカフェが欲しかったのですが、そんなテナントが来ません。しょうがないので自分でやることにしたのです。飲食事業は2度経験しているのでどうにかなるだろうと思ったのですが、苦戦します。コーヒー文化の北米で日本人がコーヒー屋をやるのはチャレンジでした。次いで10数種類の朝食とランチ用のサンドウィッチを提供します。サンドウィッチ文化の北米で日本人がサンドウィッチに挑みます。行列のできる日も多かったサンドウィッチでしたが、8年事業をやって事業を売却しました。事業としては失敗ですが、得るものは極めて大きかったと思います。後々のビジネスにどれだけの経験値と勇気を与えてくれたか。これはやってよかったミスです。

この2つの例を見てお分かりいただけるように凡ミスや怠慢によるエラーは許されないのですが、挑戦をした結果のミスは血となり肉となるのです。

日経ビジネスの特集は家具のイケヤ(IKEA)。そのCEOが「『過ちを犯さなければいけない』というのが創業者から引き継がれているルールだ」と述べています。IKEAは私がカナダに赴任した1992年に賃貸したアパートの家具を揃えるところからお世話になりました。無知だった私はアパートに届いた家具が組み立て式だとは知らず、唖然としたところからの付き合いです。その後、「IKEA教」に一時期はまったのは家具そのものよりも店づくりや無限の工夫にインスパイアーされたからでしょうか。

彼らのチャレンジは「常識を変える」でした。使い捨ての紙の物差しや、黄色いビニールの買い物袋、店の1階と2階の間にあるレストラン、1階のレジが終わったところにある格安のソフトクリームやホットドッグは上手な商売の仕方です。大規模店舗の出口に位置する軽食売店はCOSTCOにもありますが確かIKEAが先ではなかったかと思います。

IKEAは果てしない数のエラーを積み重ねてきていると思います。ですが、それゆえにどんどん強くなっているのです。

では日本。なぜチャレンジしないのでしょうか?チャレンジしないのではなく、集団合議制がミスしてよいミスとミスをしていけないミスの区別がつかなくなっている気がするのです。「与えられた任務をきちんとこなす。それ以上のことは上が決めることだ」です。しかし、会社の経営者が何万人もいる従業員の末端のことまでわかりません。かつてQCサークルなるものが大ブームとなり、改善改革運動が支店や現場単位といった組織の末端で繰り広げられ、全国大会と称して栄えある大賞を取れば結構な賞金が出たりしたのです。

ではなぜ、廃れたのでしょうか?調べたことはありません。ただ、私がお仕えしていた創業者が苦言を呈したのが印象に残っています。「会社は大金かけてこの運動を推進しているのに上がってくる内容が電気代の節約じゃあしょうがないだろう」と。若かりし頃の私も「どこを改善するのか?」を見つけるのは難しかったです。その目線が変わったのはやはり、海外に出てからです。一つの判断をするのにそもそも論からスタートし、上から見るだけではなく、下から見たり、透かして見たり様々な視点で見るとこんなこともある、あんな方法もあるといくらでもアイディアが浮かんでくるようになったのです。

ビジネスにしろ、プライベートにしろ、こちらの人はとにかくいろいろな意見を言ってくるのです。それこそ360度四方八方から、という感じです。日本では場の雰囲気もあるし、そんな意見を述べたら馬鹿にされるといった遠慮も多いと思います。自分を格好良くふるまうこともあるし、「おまえがそういうならお前がやれ」というケースもあるでしょう。基本的に共同体意識が強いですから小グループでヒーローは作らず、「目立たたず、落ちこぼれず」を善とするのです。

これはその上層組織や上司もそれを望んでいるところはあります。「そんなことやって失敗したら俺の責任だ」と。上司だから責任ぐらい取ってよ」と思います。一方、前述のIKEAのCEO氏はこう言っています。「私は自分のチーム全員に『もし何かにトライして失敗しても、私が許可したこと。2人で謝りにいこう』と伝えています」と。

ミスしてよいミスを評価する文化を日本で育むようにすべきでしょう。日本人は非常にこだわり指向が強く、個々人は思った以上に豊かな才能を持っています。それが会社とプライベートで完全なる仕切りを作っているのです。この垣根を取ってあげる、これが上手な会社だと思います。そして素直に人を褒める社風をつくって欲しいのです。嫉妬や妬みが蓄積しているような会社は伸びません。

凡ミスはしない、チャレンジはミスではない、ということを改めて肝に銘じたいですね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月23日の記事より転載させていただきました。

タイトルとURLをコピーしました