動画配信サービス「ニコニコ動画」などを運営する株式会社ドワンゴは、同社が提供していたブラウザゲームのウェブプラットフォーム「ニコニコアプリ」を今年9月27日に終了すると発表している。ニコニコ動画の有料会員数の推移を見ると、有料会員数のピークは2016年で、そこからは右肩下がりが続いており、今回のゲームサービス終了の背景には、こうした影響も少なくないのではとネット上では業績を不安視する声も多い。
こうして低迷が叫ばれて久しいニコニコ動画だが、YouTubeやTikTokの後塵を拝しながらも、本丸ともいえる動画サイトはサービスを続けており、その粘り強さにも関心が集まっている。そこで今回はITジャーナリストの井上トシユキ氏に、ニコニコ動画がなぜ低迷してしまったのか、それでもなぜサービスを継続していられるのかを聞いた。
不採算事業の整理で粘っている
「ニコニコアプリ」のサービス終了の理由はなんなのか。
「ニコニコ動画が視聴できるアプリが終わってしまうのか、と早合点しそうですが、そうではありません。少々わかりづらいですが『ニコニコアプリ』とは、スマホアプリではなく、2010年にスタートしたニコニコ上で遊べるブラウザゲームを紹介しているウェブサイトで、『ニコニコアプリ』のアプリとは、サイト上で紹介しているゲームのことを指しています。
そして終了理由は、PCを利用して遊ぶことが多かったブラウザゲームの需要が激減したからでしょう。ブラウザゲームはその人気を、スマホの利用が爆発的に増えたことに伴うダウンロード式のゲームアプリの流行に取って代わられたのです」(井上氏)
「ニコニコアプリ」終了は、ニコニコ動画の人気低迷とは無関係なのか。
「難しいところですね。サービス終了に至る判断が早まったかもしれないという点でいえば、近年のニコニコ動画を取り巻く状況が無関係とはいえないでしょう。株式会社KADOKAWAの完全子会社となっている現在のドワンゴは、ニコニコ動画の直接的な営業利益を公開していません。そこで親会社のポータル事業・WEBサービス事業の通期営業利益の推移を見ると、17年度に10億6700万円の赤字に転落。18年度はさらに25億7600万円と赤字が加速しています。ただ、19年度はコロナ禍による巣篭もりでウェブ需要が増えたことで、27億8800万円の黒字に回復。しかし、徐々にコロナ禍のブーストに陰りが見え、20年度は20億9600万円、21年度は20億1300万円、22年度は16億4100万円と黒字ですが右肩下がりになっています。
そしてさらに深刻なのが、収益の要といわれている月額550円のプレミアム会員の数。この加入者数が年々減り続けており、16年にピークとなる256万人を記録して以降、17年に214万人、18年に188万人、19年に167万人、20年に157万人、21年に143万人、22年に134万人とこちらは急激な右肩下がりが続いています」(同)
プレミアム会員が16年のピーク時と比べ、わずか6年後の22年に半数近くまで落ち込んでいるというのは驚きである。井上氏いわく、このような背景もあってか、19年に運営元のドワンゴの荒木隆司氏が社長を退任。後任に夏野剛氏が就任して以来、不採算事業の閉鎖を進めているのだそうだ。
「ニコニコ動画内の自作ゲーム投稿コミュニティサービスだった『ゲームアツマール』や、ニコニコ動画における英語表示機能など、さまざまなサービスが今年6月に終了することが決まっています。ニコニコ動画が低迷叫ばれるなか、今でも本丸である動画サービスが維持できているのは、こうした不採算事業の整理によるところが大きいかもしれませんね」(同)
資金力の差でYouTubeに完敗も
ニコニコ動画の低迷には、動画サイトの王者であるYouTubeの存在が大きく関係しているという。
「ニコニコ動画は、オタク趣味の人たちに広く訴求していたプラットフォームであり、そうした顧客に向けた宣伝を続けてきた歴史があります。大規模なエキスポイベントである『ニコニコ超会議』などは、明らかにそういったコアなファン向けです。一方のYouTubeはテレビに替わる存在になるべく、マスに向けた宣伝が主でした。例えばイメージ健全化のために、自動プログラムなどを積極的に導入し、不健全なコンテンツを次々と削除したことなどが挙げられるでしょう。ちなみに、そうした莫大な資金を要する大規模なシステムを導入できるのは、親会社であるGoogleの資金力ゆえです。
ニコニコ動画はサイト上の使い勝手の改善で、YouTubeに遅れをとりがちと指摘されることも多く、それはそれで納得できる部分もあるのですが、親会社の資金力の差からくる対応速度も考慮に入れたほうがいいでしょう」(同)
そんな資金力の差は「視聴者層の広さと数」に如実に表れている。
「YouTubeの視聴者が増加するにつれて、ニコニコ動画で活動していた一部の動画クリエイターたちが主戦場をYouTubeに移してしまいました。その理由は、YouTubeが2008年から開始した、動画の再生数で収益を得られる収益化プログラム。視聴者の増加に伴い、クリエイターが人気になれば一攫千金も夢ではなかったわけです。ニコニコ動画も2011年から収益化プログラムを開始していますが、やはり話題性という面でYouTubeにだいぶ先をいかれてしまった感がありました。ここがニコニコ動画低迷の大きなターニングポイントになっていましたね」(同)
では、ニコニコ動画はこのままYouTubeに負け続け、いずれはサービス終了に陥ってしまうのだろうか。
「今からYouTubeに勝つということは現実的ではありませんが、だからといってサービス終了ということにはならないでしょう。プレミアム会員がピーク時の256万人からはだいぶ減ってしまっているものの、それでもお金を払ってでも観たいというコアなファンを100万人以上も抱えているサービスというのは、客観的に考えてすごいですよね。ニコニコにしかないアングラな空気感というのは、YouTubeでは替えが効かないと思います。
加えて、今YouTubeよりもニコニコ動画のほうが稼ぎやすいという風潮も強まり、徐々にクリエイターが戻りつつあるのにも注目です。YouTubeは過去1年間の総再生時間が4000時間以上を超え、なおかつチャンネル登録者が1000人以上になって初めて収益化の申請ができるようになります。それに対してニコニコ動画で収益化するために必要なのは、プレミアム会員であること、もしくは本人確認済みの一般会員であることだけ。YouTubeのハードルの高さとは比べものにならないほど、いい意味でハードルが低いのです。
確かに、YouTubeに比べて視聴者数が少ないので爆発的に儲けるのは難しいですが、やりようによってはYouTubeより儲かるチャンスはあると思います。YouTubeは話題性などを考慮したAIの選別で動画がおすすめにあがるか否かが重要で、これが儲かるポイントを分けると指摘されています。つまり動画数が多すぎるがゆえにチャンスを掴める人が限られてしまう。一方のニコニコ動画は、クリエイターと視聴者が自由に動画につけられるタグという機能があり、人気のタグをつければ高い検索性を獲得でき、視聴者の目につきやすいというメリットがあるからです」(同)
関連サービスの終了が相次ぐなど苦境に立たされるニコニコ動画だが、独自の個性とそれを愛する根強いファンの支えにより、まだまだ存続し続けそうだ。
(文=A4studio、協力=井上トシユキ/ITジャーナリスト)