eマケプレの「 ウィッシュ 」、特売イメージからの脱却:品質と顧客維持に注力する新経営陣

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eコマースプラットフォームのウィッシュ(Wish)は、信じられないほど条件のいい特売を行うことで長いあいだ知られてきた。しかし、同社の新しい経営陣はこのイメージから脱却し、電子機器から家庭用品に至るまで、手ごろな価格で高品質な商品を提供するマーケットプレイスに転換したいと考えている。

同社は2010年にサンフランシスコで、ソフトウェア新興企業のコンテクストロジック(ContextLogic)として創設され、この企業は現在親会社になっている。創設から10年間にわたって、ウィッシュはeコマースブームに乗って成長し、2019年には米国で最大のマーケットプレイスのひとつになり、評価額は112億ドル(約1兆4800億円)に達した。この数年間にこのマーケットプレイスは、何千もの安価なアイテム、たとえば2ドル(約264円)のジーンズや0.50ドル(約66円)のベッドシーツなどを提供し、デジタルの1ドルストアになったことで批判された。このことは、2022年のニューヨークタイムズ(New York Times)の記事にも記されている。この記事では、同社が虚偽の出品や、安値での特売をプラットフォーム上で意図的に許可したと主張する元従業員についても言及している。ウィッシュが安物の商品を顧客に送りつけるという評判は、ソーシャルメディアのユーザーのミームとなって、「ウィッシュで注文したものと実際に届いたもの」という画像の投稿が盛んになり、同社はこのような投稿を承認しただけではなく、喜んで取り入れた

同社は現在、新体制のリーダーシップチームのもと、同社が大規模な事業再生計画と呼ぶ施策を進めている。同社のリブランディングにおける最初のフェーズでは、新しいロゴのデザインとアプリ内ブラウジング体験を公開する一方、バックエンドでは商品の品質向上のため出品業者ネットワークの見直しを継続的に行っている。

この移行は昨夏、現在のCEOであるジョー・ヤン氏が暫定CEOとして同社に入社したとき、公式に開始された。同氏は2月に、最高経営責任者として正式に役員会に加わった。新しい経営陣には、以前シャッターフライ(Shutterfly)の役員で、2021年後半に同社に入社し、CFOとCOOの2つの役職を兼任しているビビアン・リュー氏も含まれる。

出品業者の選択プロセスの改善

この新しい方向性は、親会社であるコンテクストロジックが2020年12月に株式を公開して以来、数年間にわたってウィッシュの株式が低迷してきたことを受けたものだ。2022年度通期において、同社の収益は前期比73%減の5億7100万ドル(約754億円)だった。損失は2021年の1億9900万ドル(約263億円)から2億8800万ドル(約380億円)に跳ね上がった。

「当社は創業から13年間の歴史があり、モバイルeコマースのトレンドが上向きな状況にあるなかで、良い機会を獲得してきた。しかし、改良の余地がある分野がいくつかあり、なかでも大きなものは供給の品質だ」と、ヤン氏は米モダンリテールに語った。

リュー氏によると、こうした出品上の問題や品質管理の不足により、返品と注文キャンセルの率が高かったという。そのため今後は、リテンション(顧客維持)が、同社の大きな注目分野となる。

まず手をつけなければならなかった仕事は、ウィッシュで販売できる業者をより厳しく選択することだった。同社は最近までオープンなプラットフォームだった。しかし過去1年半のあいだに、出品業者の登録を招待制のシステムに移行することで、プラットフォーム上の出品業者の数を減らしてきた。「出品業者の質を高めることで、買い物客のエンゲージメントが向上していることを実感している」と、ヤン氏は語る。

「当社は、ウィッシュスタンダード(Wish Standards)を規定し、出品業者をプラチナ、シルバー、ゴールド、ブロンズ、禁止、未評価の各階層に分類している」と、同氏は述べる。ウィッシュスタンダードプログラムの認定を受ける出品業者は、出店までの90日間に、最低50件の注文を、顧客が満足するように処理して完了する必要がある。

信頼を得るためのさまざまなアップデート

ウィッシュは、出品業者の階層ステータスを継続的に評価するため、ユーザーからのフィードバックによる評価、トラッキング率、フルフィルメントの速度、および全般的にウィッシュのポリシーを遵守している、といった基準を取り入れている。出品業者の評価が高ければ高いほど、その出品業者の商品は目につきやすくなり、ウィッシュは手数料を大きく割り引きする。中国からの越境輸送への依存を減らすため、ウィッシュは商品の調達先の多様化にも着手しており、たとえば、ベトナム製などの商品の販売を増やしている。

「当社は現在、提供するカテゴリーを明確にすることに注力している」と、ヤン氏は述べる。たとえば、ホーム&ホビーやビューティー&ヘルスといった成長分野では、該当する出品業者に対して、需要の高い商品の特定のセレクションを供給するよう要請することが増えている。「このような高品質の商品が顧客の目に留まるよう、アプリのデザイン変更にも多くの時間を費やした」と、ヤン氏は述べている。

偽造品の問題について言うと、法的にはすでに、同社のプラットフォームで販売される偽造品に対するポリシーを保有している。しかし、この問題をより的確に処理することをめざして、同社は最近、これらの出品をより厳格に取り締まるための新しい取り組みを開始した。また、AIを使用してマーケットプレイスでの詐欺やサイバーリスクの管理を支援するソフトウェアプロバイダのエバーシー(EverC)との提携を開始した。このパートナーシップによって、ウィッシュは「IP侵害の事例を監視し、ただちに対応策をとる」ことができると、ヤン氏は述べている。

配送時間も、新しい経営陣が取り組んできた課題のひとつだ。顧客は、配送に3〜4週間を要すると不満を述べることが多いと、リュー氏は語る。「顧客は、製品を受け取る頃には、何を注文したのかをもう忘れている」と、同氏は述べる。北米や欧州のような主な市場では、配達までの期間が15日間に短縮され、今後1年間でほかの市場でも短縮される予定だ。

同社のデザインチームは、利用可能なカテゴリーをより的確に反映するためにホームページに多くのアップデートを加えた。刷新されたホームページは3月初めに公開された。「当社は各ユーザーのブラウジングもカスタマイズしたため、インターフェイスの操作も人によって個別化された」と、ヤン氏は述べる。また、商品をよりよく見せられるよう、出品に動画機能を追加した。これは、ポッシュマーク(Poshmark)のようなリセールプラットフォームで一般的になったやり方だ。今後数カ月には、アプリとWish.comの両方に、さらに多くのUX(ユーザーエクスペリエンス)のアップデートが行われる予定だ。

Wishデザインチームはまた、今月初めに公開された利用可能なカテゴリをよりよく反映するために、ホームページに多くの更新を行った。「また、各ユーザーのブラウジングをカスタマイズして、全員が異なるインターフェース結果を得られるようにした。」とYanは述べた。Wishはまた、商品をよりよく紹介するために、ビデオ機能を商品リストに追加したが、この戦術はPoshmarkなどの再販プラットフォームで人気となっている。今後数ヶ月のうちに、より多くのUXアップデートがアプリとWish.comに展開される予定である。

「過去1年間に当社が行ったこうしたシステム上の変更はすべて、顧客からの信頼を得るためのものだ」と、ヤン氏は述べている。

新規の買い物客と以前の買い物客を引き入れる

ウィッシュがこれらのアップデートを実施してから、顧客からの評価は改善の兆しを見せている。リュー氏によると、2022年の第4四半期には前年と比べて返金請求は36%減少し、顧客による注文のキャンセル率は58%減少したという。「顧客が買ったあとで後悔することが以前より少なくなったということだ」と、同氏は付け加えている。これまでのところ、同社の買い物客によるNPS(ネットプロモータースコア)評価は過去1年半で倍増したが、まだ改善すべき点は多いと同氏は述べている。

しかし、このプラットフォームは依然として、Z世代に選ばれるマーケットプレイスからは遠い。買い物客へのリーチを改善するためさらにアップデートが必要だと、カーニー(Kearney)のコミュニケーション、メディア、テクノロジー実践のアソシエイトパートナーであるマイケル・フェリス氏は述べている。

「ウィッシュがやるべきことのひとつは、検索エンジンのマーケティングとSEO(検索エンジン最適化)の強化だ」と、フェリス氏は述べる。同氏は、同社の存在感の低さは、ウィッシュのブランドを確立するのに十分に投資してこなかった可能性が高いとも指摘する。また、キーワードのネイティブ検索が「存在せず、他社ブランドがキーワードを競り落としている」とも述べている。競合を長期的に続け、コモディティ化されたマーケットプレイスのイメージを脱却するには、「商品の品揃えを豊富にし、人々の共感を呼ぶ商品を揃える必要がある」と、同氏は付け加えている。

大型ショッピングイベントも

今後1年から1年半は、GoogleやFackbookなどの有料チャネルによってではなく、オーガニックにユーザーベースを成長させることが鍵になると、リュー氏は述べる。顧客の初回注文時の体験向上は、この戦略の大きな要素になる。

ウィッシュのアプリはすでに10億回以上ダウンロードされているが、メールやSMSのキャンペーンによって繰り返し購入を促すことに重点が置かれる。パフォーマンスマーケティングがユーザー獲得に果たす役割は変わらないが、今後はインフルエンサーやアフィリエイトマーケティングも加えられると、ヤン氏は説明している。

3月に開かれたショッピングイベント「ウィッシュマス(Wishmas)330」も、改善された同社のマーケティング戦略の新しい要素だ。同社のサイトでは毎日50万点以上の割引商品が販売され、7日間で毎日異なるカテゴリーのテーマで実施される。ウィッシュマスは同社にとってはじめての大規模なマーチャンダイジングキャンペーンで、Amazonでプライムデー(Prime Day)が期待されているように、同社の年次イベントになると、リュー氏は述べる。

「出品業者はこのような種類のプロモーションを長いあいだ待ちわびていた。当社は、これによって新しい利用者が増えるとともに、これまでの買い物客が戻ってきて、新しいウィッシュを気に入るようになることを望んでいる」と、同氏は述べている。

[原文:How Wish is trying to reinvent itself by focusing on product quality and retention]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Wish

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