タッチから始まる、リアル店舗の新たな買い物体験: 電通 とSupershipが提供する「プロモタグ®」の描く未来

DIGIDAY

※この記事は、ミレニアル世代のビジネスパーソンを主要ターゲットに、政治、経済、金融、テクノロジー、企業戦略、スポーツなど幅広い分野のニュースを日々配信している「Business Insider Japan」からの転載です。

スーパーマーケットやドラッグストアなどの流通小売業のアプリをインストールしたものの、初回以降開くタイミングを見つけられなかったり、アプリを店内で立ち上げられなかったりする人も多いだろう。この問題を解決して買い物体験を向上させるソリューションが、電通とDX事業などを手掛けるSupershipが共同で開発した「プロモタグ®」だ。

NFC(近距離無線通信)技術を活用し、店舗入口でワンタッチするだけで気軽にアプリを起動できる点が魅力だが、導入によってリアル店舗の可能性はどのように広がるのか。特徴と効果について、電通の宮前政志氏と、Supershipの金裕奈氏に話を聞いた。

コロナ禍で変化したリアル店舗とデジタルの役割

コロナ禍で人々の買い物環境は大きく変化した。特にその影響を受けたのがリアル店舗だ。電通 データマーケティングセンターの宮前政志氏は、次のように解説する。

宮前政志(みやまえ・まさし)氏/電通 戦略プランニングディレクター/ULVAファウンダー/PROMOTAGファウンダー。『売れることが最強のブランディングである』をプランニングモットーに、化粧品・健康食品・金融などのダイレクトマーケティング領域を幅広く従事。電通と楽天のJV楽天データマーケティングに参画し、顧客構造をデータで可視化し売上に寄与するデータソリューション開発を担当。コマース領域を強みに、情報回遊時代の購買行動モデル「SEAMS®」の提唱や、ファンコミュニティやUGCを活用し自社ECを強化する「ULVA®」、流通と顧客接点で新しい体験をつくる「PROMOTAG®」などのソリューション開発を推進。

「コロナ禍で厳しい外出制限などによるEC化率急増に加え、実店舗での人数制限や営業時間短縮など、未曽有の事態での混乱がたくさんありました。一方、社会全体で働き方改革が進むなかで、非接触で支払いできるQR決済の爆発的な普及でレジでの対応が複雑化し、リアル店舗で働く従業員の方々の負担がなかなか減らせていない現状にあります。これらの変化により接客対応が追いつかなくなり、顧客の買い物体験が低下する場面もあったのでは、と思います」(宮前氏)。

こうした課題を解決するのがデジタルの役目である。実際、多くの店舗が顧客の買い物体験を向上させて次の来店につなげるため、独自のアプリを開発して顧客に提供している。ただ、それらの店舗アプリが必ずしも成功しているとは言いがたいのが現状だ。Supership データソリューション事業領域 メディアソリューション部の金裕奈氏は従来の店舗アプリが抱える課題を次のように指摘する。

金裕奈(きむ・ゆな)氏/Supership データソリューション事業領域 メディアソリューション部。事業開発職として、流通・小売・メーカー向けのOMOソリューション開発に従事。あらゆる流通・小売のアプリ・店舗での購買行動を自ら体験し、「消費者視点」を重視したプロダクト開発をモットーに、N1分析からユーザー体験設計、機能の企画、開発ディレクションまで一連のプロセスをリード。クライアント様と伴走しながら、より良いサービスの提供を通じ、多くの人の日常生活を豊かにしていきたい。趣味は暗闇ボクササイズと人間観察。

「レジ前で会員証をアプリで提示しようとしたものの、目当てのアプリを探し出して起動するのに手間取り、気づいたら後ろには行列が……。そうした気まずい思いから私自身アプリを立ち上げることを億劫に感じてしまうケースが多々あり、同じ経験をされた方も多いと思います。

実際に、私の周りでもアプリを使用する動機がクーポンのみになってしまっていてあまり使わないという声をよく聞きますし、コロナで減少した集客をアプリでカバーできていない、という課題を抱えるクライアント様も多くいらっしゃいます」(金氏)。

こうしたことからデジタルでの集客をアプリでカバーできていない、という課題を感じている店舗も多く存在している。

店舗に入ってスマホをタッチするとアプリが起動

※電通から提供されたものを編集部で一部加工

アプリで生活者の買い物体験をもっと楽しくすることはできないか——。そうした課題意識から開発されたのが、店舗アプリ向けSDK(Software Development Kit)の「プロモタグ®」だ。

コロナ禍前から電通が流通小売業にヒアリングを重ねて課題を抽出。ネックとなっていた既存アプリへの追加コンテンツ開発をSDKによってスピーディーに実装できる上、給電設備が不要なNFCを採用することで店頭でのオペレーション負担を減らし、高い自由度で簡単に設置できるのが特徴だ。

「プロモタグ®」は3つの基本機能で構成されている。

まずは「手軽な起動によるアプリの活性化」だ。一般に、スマホ内にあるアプリの数は平均80~100と言われている。レジ前で買い物かご片手にQR決済の準備をしつつ、目的のアプリを探し当てて起動するのは至難の業。その面倒さがMAU(Monthly Active Users:月当たりのアクティブユーザー数)低迷の原因のひとつになっていた。

「プロモタグ®を使うと、店頭に設置されたNFCタグにスマホをタッチするだけでアプリを起動できます。NFCは自動改札やマイナンバーカード登録などで普段から使われており、老若男女に馴染みが深い。誰もが手軽に起動できます」(宮前氏)。

そうしてアプリが起動すると、店内専用のページが開いてキャンペーン商品のコンテンツが表示され、アニメーションとともにクーポンのくじを引いたり、スタンプを集めたりすることができる。子どものいるファミリー層は、くじやスタンプを楽しむ目的でスマホをタッチするかもしれない。クーポン獲得以外にもワクワク感を醸成する仕掛けをすることで、アプリをもっと身近な存在にするわけだ。

「くじが楽しかったとしても、タッチしてからクーポンが当選するまで時間がかかりすぎると肝心のお買い物がしにくくなります。タッチしてから10秒以内にくじの結果がでるように設計し、本来の目的であるお買い物を極力邪魔しない体験にしました」(金氏)。


「プロモタグ®」を実装することで、顧客の状態に応じてアプリの利用を促すことができる。 ※電通から提供されたものを編集部で一部加工

「さらに、未DLユーザーに対してはアプリストアに誘導することで新規ユーザーの獲得を支援することが可能です」(宮前氏)。

「すでにDL済みにも関わらず、しばらくアプリを起動していない休眠ユーザーに対しても、タッチをきっかけにアプリを再び利用いただく機会をご提供できる上、ログインを促すところまで丁寧に誘導することができる設計となっており、この部分は特にクライアント様にご評価いただいているポイントです」(金氏)。

プロモタグ®で広がる「買い物体験」のプランニング

二つ目が販促機能だ。従来のアプリも、ユーザーが位置情報の活用や広告通知を承認していれば、店舗内でキャンペーン情報を通知することは可能だった。ただ、アプリのインストール時に承認していても、いざ通知されるとモヤッとした気持ちになることはないだろうか。

「通知にモヤモヤを感じるのは、自分が承認した記憶が薄れているからでしょう。その点、プロモタグ®はタッチという能動的なアクションに応じて販促や広告を行えるリアクション型。自分のアクションの結果だと分かるので違和感を抱きにくいため、アプリの通知機能をOFFにされるリスクも軽減されます」(宮前氏)。

ビーコン(ごく狭い範囲で情報を伝達する手段)を活用した棚連動の販促イベントもやりやすくなる。実はビーコンはアプリが立ち上がっている、あるいはバックグラウンドで動いている状態かつ、位置情報の許可を得た状態でないと反応しないといったハードルの高い設計をしている。プロモタグ®ならばレジ前ではなく入店時にタッチでアプリを起動させ、ビーコンを使った販促イベントをスムーズに案内することができる。ビーコンの課題となっていたデジタル接客の利用機会を、NFCとの組み合わせで飛躍的に拡大できるのだ。

この一連の流れの挙動を制御するアプリケーション制御装置、およびプログラムについては、電通とSupershipで共同特許取得済みだ。

実際にどのようなイベントが考えられるのか。金氏に具体例を一つあげてもらった。

「入口で今日のおすすめレシピを提案して、店内を回遊していくと必要な食材の売り場でイベントが発生。買い揃えると何かもらえるというキャンペーンがあったら楽しいですよね。プロモタグ®を活用することで、買い物体験のプランニングの幅は大きく広がります」(金氏)。

三つ目の基本機能は、データ分析によるマーケティングだ。たとえば、お酒を飲まない人に、ビールの買い回りイベントを提案しても買い物体験の向上にはつながらない。そこで、ユーザーの購買履歴やクーポンの利用履歴を分析して、その人に合ったイベントを展開するのだ。

ほかに、普段よく購入する商品の特売情報を通知したり、消費財を一定期間で定期的に通知したりするのも面白い。こうしたマーケティングを積み重ねれば、顧客の理解と顧客の趣向性などの把握が進み、結果としてアプリや店舗の根強いファンの増加につながっていく。

「お店に行ったらまずタッチ」がスタンダードな世界に

プロモタグ®の活用は、スーパーやコンビニといった日用品を扱う店舗にとどまらない。たとえば、百貨店など高価格帯の店舗で顧客の買いたいものに合わせてクーポンを提案するコンシェルジュの役割を担わせたり、コンサートで会場限定のスタンプを発行したりするのも面白い。

いずれにしてもプロモタグ®の活用で、生活者は買い物の便利さや楽しみを実感しやすくなる。生活者の買い物体験が向上すれば、来店頻度の向上やアプリのMAU増加など、店舗側にも大きなメリットがある。また、アプリに広告を出稿するメーカーにとっては、入店や店内回遊のタイミングで魅力的な届け方で広告を出せる機会がある。まさに三方よしのスキームだ。

プロモタグ®」は2022年10月から提供開始され、さまざまな流通小売企業にて実装に向けた取り組みが進められている。今後、サービスをどのように展開していくのか。最後に二人がこのサービスにかける思いを明かしてくれた。

「あくまでも裏方の仕組みなので、必ずしも生活者のみなさんに名前を認知してもらう必要はありません。それよりも大切なのは、『お店に行ったらまずタッチ』が習慣化されること。自分自身もお買い物は楽しみたいですし、欲しい商品や好きなジャンルの商品のレコメンドをお店の中でもらえたら嬉しいです。そんな『ワクワク』するような体験で、お買い物をもっともっと楽しくするために、今後もユーザー目線で開発を続けていきます」(金氏)。

「アフターコロナでようやく日常が戻り始めました。このタイミングこそ、流通小売の企業の皆さまにとっては新しい接客の在り方やホスピタリティをつくりなおす絶好のチャンスです。プロモタグ®で自社アプリを活性化させ、ぜひリアル店舗の可能性を広げていただきたいです」(宮前氏)。

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