マラソンガチ勢が語る「僕たちはなぜ走るのか」&初心者が完走するまでの道のりを教えます

デイリーポータルZ

手軽に始められるスポーツとして人気のジョギング。とはいえ、気になっているけど面倒な気持ちが勝っているという方も多いのではないでしょうか。そこで今回はマラソン歴18年のデイリーポータルZの安藤さんが、マラソンガチ勢のみなさんにその魅力を伺いました。記事後半は安藤さんおすすめの練習方法もご紹介しています。

(執筆/安藤昌教、編集/デイリーポータルZ編集部、メルカリマガジン編集部)

マラソンガチ勢の「走り始めたきっかけ」

走るのはキツイ。暑いときは走ると汗だくになるし、寒い日には耳がちぎれそうになる。足も痛い。人類はせっかく苦労して車とか飛行機なんかを発明したのに、どうしてあえて走る必要があるのだろうか…。

僕もかつてはそう思っていました。それが今ではジョギングをすることが日課になっています。マラソンガチ勢のみなさんはなんで走り始めたのか、その理由について聞いてみることにしました。

今回はデイリーポータルZ編集部安藤が普段の練習やレースでタイムを競い合っているライバルランナーたちに話を聞きました。

今回話してくれるランナーの皆さん

直鳥裕樹さん(写真左):インドネシア在住。専門はマラソン、トレイルランニング、トライアスロンと多岐にわたる。いろいろな国のレースに積極的に参加している。

松原浩二さん(写真中央左):登山家ランナー。夏は山、冬は毎月のようにフルマラソンの大会に参加するハイブリッドランナー。新しい靴が出たら誰よりも先に買う。

酒井ムツミさん(写真中央右):靴職人。靴を修理する仕事でありながら、自身も多くの靴をランで履きつぶすトレイルランナー。野鳥の観察等を言い訳に山に入り、とにかくずっと走っている。

安藤昌教(写真右):デイリーポータルZ編集部所属。マラソン歴18年。レースは好きだがキツイ練習は嫌い。

安藤:みなさんとはよく一緒に練習したりレースに出たりしているので、どれほどマラソンに力を入れているか理解しているつもりです。そもそも走り始めたきっかけって覚えていますか?僕は今の仕事をする前に流行らないお店をやっていまして、お金がなくて時間だけあったので、ならば走ってみようか、くらいの軽い気持ちで始めました。

松原:僕は35歳くらいから太り始めて、それがきっかけですかね。

酒井:わたしはトライアスロンに出るために始めました。

直鳥:僕は茅ヶ崎に引っ越してきて、まわりのランナーに誘われてですね。

安藤:松原さんと直鳥さんはなんとなくわかったんですが、酒井さんのトライアスロンに出るためにっていうのは、ちょっと唐突すぎませんか?

酒井:子どもの頃から運動できない子だったので、トライアスロンに出るのが夢なんですって半分冗談で言ってたんです。そしたら夫が「ちょうどいいレースあるよ!」って探してきてくれて。それにエントリーしたのが始まりですね。

安藤:そこで断らないところがすでにランナー気質なのかもしれない。松原さん、直鳥さんもトライアスロンには出てましたよね。

直鳥:先々週走ってきましたよ。

松原:僕もトライアスロンは2回完走してますね。

安藤:ちょっとガチすぎる人たちを集めてしまった感もありますが、そのモチベーションはどこから生まれるんでしょう。たとえば走るのをやめたくなったこととかってないですか?

酒井:いまのところないですね。前は地元の大会に出るだけの季節限定ランナーだったんですが、私もチガジョグ(茅ヶ崎のジョギング集団)に入ったあたりから本格的に走り始めて今に至ります。

直鳥:やめたくなったことはないですね。もう完全に人生の一部です。

松原:ご飯食べるとか風呂入るとかと同じレイヤーですね。

走っててよかったことってありますか?

安藤:僕は走ったあとだと何を食べても許されることです。許してるのは自分なんですが。みなさんはどうでしょうか?

松原:走ったあとは罪悪感のなさも相まって、飲むのも食うのも美味さ倍増ですよね。

直鳥:旅行とか出張に行ったときですかね。行動範囲がぐっと広がるのがいい。

安藤:すごくわかります。僕も出張に行くとかならず早朝に走っています。そのために荷物が増えるんですが、知らない町を走るのって車を運転するよりずっと楽しいんですよね。

松原:僕は健康ですかね。いまのところ健康診断では指摘項目がひとつもありません。

直鳥:健康は確かにありますね。よく「痩せるために走るんじゃなく、走るために痩せるんだ」って言いますが、その通りだと思います。

安藤:その格言は初めて聞いたけど、みなさんが言うと説得力あります。

酒井:いざというときの体力をキープしたいっていうのもありますね。震災の時に知り合いのランナーたちはみんな徒歩やランで家まで帰っていて、頼もしいなと思いました。

安藤:そういえば僕もめっきり風邪をひかなくなりましたね。走るのはつらいこともあるけど、いいことの方が多いっていうのはやってる身からすると本当に実感するところです。

フルマラソンを走り切るために

ここまでの話を聞いて「住む世界が違う」と思わせてしまったらすみません。でも実はそんなことないんです。

ここからは僕の体験から、ゼロからフルマラソンを完走するための練習についてお話します。この通りやれば誰でもいつかは完走できるようになります。フルマラソンって決して特別な人が走ってるわけではないんです。

まずはシューズを買おう

これまでまったく走ったことがない人が走り始めるために、まずはじめに何が必要なんでしょうか。

野犬に追われて、とか電車に乗り遅れそうで、とか、理由があって一時的に走る場合は別として、継続的にランニングを続けるためには少なくとも走るためのシューズが必要です。

こればかりは仕方がないので買ってください。まずランニングシューズを買ってしまって、履かないともったいないから走る、というモチベーションでもいいと思います。

最初に買うシューズはなんでもいいです。見た目が気に入ったものを買っちゃってください。スポーツ用品店で初心者用のジョギングシューズをください、と言って出してもらった中からかっこいいのを選ぶといいと思います。

僕は最初はミズノのジョギングシューズを買いました。かの有名な小説家が履いているらしいというミーハーな理由だった気がします。

10キロを走れるようになろう

かっこいいランニングシューズを手に入れたら、まずはなんとかして10キロを休まずに走り切る練習をしましょう。この時、タイムは特に気にしなくても大丈夫です。歩くのと変わらないくらいの速度でもいいので、とにかく10キロ、走り切れるようになってください。

正直、全体のプロセスの中で、この10キロまでの道のりが一番キツイと感じる人もいると思います。僕もそうでした。5キロくらいで一度壁がありますよね。無理せずに、どこかに痛みが出たら痛みが取れるまで休みましょう。それまで伸ばした距離はリセットされません。

痛みが出た時には休むのはもちろんのこと、体のケアにはマッサージガンやストレッチポールが有効なようです。疲労を溜めないようにして、痛い部分はしっかり治すのが後々大切になってきます。

10キロのタイムを気にしてみよう

10キロを歩かずに走り切れるようになったら、次は時計をつけてタイムを気にしてみてください。目安として10キロを1時間で走れるようになったら立派なものです。ここを目指しましょう。

つぎは20キロを走ってみよう

10キロを1時間で走れるようになったら、次は距離を倍に伸ばしましょう。

タイムを気にせず、ゆっくりでもいいのでとにかく20キロ、歩かずに走り切れるようになってください。人によっては半年、1年かかる人もいますが、それは人それぞれ。習得が遅い人はそれだけ精神力が鍛えられたと思って喜んでください(ランナーとは苦しみを喜びに変えることができる人たちのことを言います)。

20キロを2時間で走ってみよう

時間を気にせず20キロ走り切ることができましたね。

おめでとうございます、ここまで来たらフルマラソン完走まであとちょっとです。そろそろ日常的に走ることが苦にならなくなってきたんじゃないでしょうか。シューズもボロボロになってきたかもしれません。そろそろ新しいシューズに買い替えてもいいですね。

ここでおすすめなのは練習用シューズです。20キロくらいの距離が走れるようになると「ハーフマラソンなら出られるんだから」と、はやとちりしてレース用のシューズを買い求めがちですが、目標はあくまでもフルマラソン完走です。ここはぐっとガマンして練習用のシューズを新調しましょう。ここで選ぶシューズは重要なので専門店でいろいろ履き比べてピッタリ合うものを選んでください。

ナイキならペガサス、アシックスならゲルカヤノあたりでしょうか。間違ってもいきなりヴェイパーフライとかメタスピードなんて高いのを選んではいけません。

新しいシューズで心機一転、今度は20キロを2時間で走れるようにがんばりましょう。

30キロを走ってみよう

20キロを2時間で走れるようになったらもうこっちのものです。根性ある人ならこの段階でフルマラソンを完走できちゃうと思います。でも不安ですよね。そういう場合は30キロ走をやってみましょう。

初めての30キロ走はこれまで通りのペースでかまいません。20キロを2時間で走るのと同じペースで。不安だったらすこしペースを落としてもいいと思います。とにかく歩かずに30キロを走り切る、これを目標にしましょう。

レースに出てみよう

このくらいになったらようやくレースを意識したシューズを選びましょう。レース用のシューズは軽くて速いんですが、練習用シューズに比べて耐久性が低かったり足に負担が大きかったりするので、ちゃんと練習を積んだあとで履いてこそ、性能を引き出すことができます。

それから、長距離を走るにはエネルギーが必要です。レースだと途中に給水所が設置されていて、エナジージェルや塩分補給のための梅干やレーズンなんかが置かれていたりします。30キロを補給ナシで走るのは、慣れた人でも危険です。飴やエナジージェルでカロリーを補給しながら走りましょう。マラソンはある程度走れるようになってくると、怪我と補給との戦いになってきます。

30キロを歩かずに走り切ることができたら、あなたはもう立派なマラソンランナーです。フルマラソンのレースにエントリーしても怖さよりわくわく感が上回るでしょう。もちろんこれまで通りの練習で完走できるはずです。

走れるようになるというのは体にとって大きな変化ですが、精神的にも鍛えられることが多いです。脳ってつらいことを繰り返し体験すると、それに慣れてどんどん強くなるんですよね。マラソンやってる人に短気でネガティブな人が少ないのは、走ることで脳が我慢強くなっているからだと思います。いちいち落ち込んでいたらやってられないんですよ、マラソンなんて。

とはいえきっかけがないと走り始めることなんてないと思います。ぜひこの記事をきっかけにしてみてください。これを読んだから走ってみた、と言う人が一人でも現れたら僕としては大満足です。一緒にがんばりましょう。

次はどのレースを走ろうか

ランナー対談にもどって、みなさんに次の目標を聞きました。

安藤:みなさん、次のレースは決まっていますか?

酒井:名古屋ウィメンズマラソンです。

直鳥:Hong Kong 100です。

松原:板橋Cityマラソンです。

みんな即答で次の目標が決まってるのがさすがです。僕も4月に100マイルのトレイルレースに出ますよ。怪我しないように練習がんばりましょう!

次回はこのメンバーに、こだわりのランニングアイテムを聞きました。ものすごく参考になるのでお楽しみに。

安藤昌教(あんどうまさのり)

デイリーポータルZ編集部勤務。ものをむかずに食べる「むかない安藤」としても活躍中。好きなものはカメラと恐竜。あとサメが出てくる映画。

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