【山田祥平のRe:config.sys】メールと手紙と働き方

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 電子メールは相手の都合を考えずに、いつ送信してもいい。相手は相手で自分の都合のいい時間にまとめて読むからだ。紙の郵便もそうだった。夜中にポストに投函したっていい。手紙は、宛先住所にしたがって相手のポストに配達され、そのポストから手紙を取り出すタイミングは受取人の都合に依存する。でも、最近はどうやらそうでもないらしい。何がどう変わったのか。

夜中のメールは失礼千万

 夜中にメールを送信するのは失礼なんだそうだ。多くの場合、メールは瞬時に届き、スリープ中のパソコンはともかく、スマホ等で確認ができるようにしている場合には、端末が新着メール通知の音を出す。だから、緊急の用事でもないのに、夜中にメールを出すのは相手に迷惑をかける可能性があるということらしい。要するに電話やSMSと同じ理屈だ。

 こういうこともあって、最近のメールアプリも、気配りを要求したりする。例えばメール送受信のために手元で常用しているパソコン用のOutlookは、相手が一般的な勤務時間外となる時間にメールを出そうとすると、相手は勤務時間外だと注意をうながし、翌朝の送信をすすめ、送信予約もできる。

 休日のメール発信は論外のようだが、相手が海外在住で時差があったりしたらどうなるんだろう。遊びのメールと仕事のメールは区別できているんだろうか。本当は、メールアドレスも仕事用と遊び用で厳格に区別しなくてはならないのだろうけれど。

 それでもメールアプリがそんなアラートを出すべきなのかと思う。と同時に、電子メールは相手の都合にあわせなくてもいい非同期のコミュニケーションツールだったことを思い出す。リアルタイムに近いツールではあるが、そのモデルは郵便だということを再確認する。出す側、受ける側、両方の都合で送受信することが前提のものではなかったのか。

 夜中にメールが着信し、音を出して目が覚めるのがいやなら、サウンドによる通知をオフにしておけばいい。でも、それでは本当に必要な緊急時メールの着信が分からなくなる。

 いや、そういうことなら、電子メール以外の別のアプリ/サービスを使うべきではないのか。あるいは緊急要素の高いメールだけ音を出すようにする設定だってできそうだ。ちょっとの工夫は必要かもしれないがなんとかなる。

新しい当たり前とスマートライフ

 世の中の当たり前は、いろいろなことが原因で当たり前ではなくなり、新しい当たり前がそれに取って代わる。電子メール深夜禁止令はその1つだと考えることもできる。

 言葉だってそうだ。個人的にこの10年くらいの間でもっとも違和感のある言葉は「課金する」だが、もはや止められないくらいに日常的に使われている。

 「課金」は特に珍しい単語ではないが、SNSなどで、サービスやゲーム内アイテムの購入などに際してカネを支払う側が「課金する」という表現をしているのが目立つようになってきている。そのうち、税金を払うことも「課税する」というようになるのだろうか。

「独擅場(どくせんじょう)」が誤読によって「どくだんじょう」と読まれるようになり、それに別の漢字が当てられて「独壇場(どくだんじょう)」が定着してしまったような例は有名だが、「課金」のようなケースは、そういうのとはちょっと違うように感じる。

 メールの例で言えば、そもそも、この「メール」という単語だ。メールは手紙、書簡のことで、その電子版が電子メール、eメールだ。この記事でもそうだが、今やかなり曖昧に使われている。

 日本語では手紙や書簡という単語があるので、「メール」というだけで頭に「電子」、「e」がついているものとされる傾向もある。「メールのみでお知らせします」とあって紙の郵便物が届かなくて怒る人はあまりいないだろう。

 USBメモリのことを単にUSBと言ってみたり、スマホのバッテリ残量がなくなったことを「充電が切れた」と言ってみたりするなど、言葉の変化はいろいろあるが、後年、100年後くらいに言語研究をするときにも、インターネットのアーカイブをたどり、AIなどで解析することができれば、いろいろな言葉の源流を探るのは容易だろう。

 だが、そのとき、本当にあらゆるデータが残っているのか、そして、物理的な媒体でだけ表現された言葉は果たして保存されているのかは微妙だ。それだけに紙の出版物を残すことを続けている国会図書館などの活動には注目しておきたい。

人それぞれの働き方をAIが理解する日はくるのか

 話を最初の「電子メール深夜禁止令」に戻そう。

 Microsoft 365を使っていると、Microsoft Vivaが、いろいろなシーンで日常の働き方に提案をしてくることに気がつく。

 Vivaからのメールも毎日届く。うちの場合は、早朝6時前に、コミットメント、フォローアップすべきメールが候補としてピックアップされるし、月に一度は、仕事の習慣の傾向を検出し、例えば「“静かな時間”にメールを受け取ったときに、あなたはその半分以上を30分以内に読んでいます」などといったレポートをくれる。

 このメールでは、メールのやりとりなど、いっしょに費やした時間が多いユーザーなども知らせてくれる。また、静かな日を維持できた日数などを知ることもでき、いわゆるウェルビーイング的な情報を得ることができる。

 Microsoftは、Vivaインサイトとして、スマートな働き方の提案をしようとしているようだ。そして、企業の従業員体験をよりよいものにするための支援を目的に、これからも、さまざまなモジュールを拡充していく戦略だ。そのなかにはCRMとの連携なども含まれ、なんのことはない、生産性の強化についても目論まれている。

 フリーランスの立場としては、1週間かけてやればいいことを5日間で済ませて、2日間を休息や遊びにあてるというのは実は効率が悪かったりもする。一般的なビジネスマンにおいても、生産性を高めて確保した休息を副業にあてるといったことをしたら本末転倒ということにもなりかねない。いろいろ難しい時代ではあるが、それもAIがなんとかしてくれるのだろう、きっと。

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