エージェンシーにおける ジェネレーティブAI 利用状況は:「最終的には人間が制作したコンテンツを切望する」

DIGIDAY

ジェネレーティブAIには、コンテンツクリエイター事業の将来を形作る可能性があるが、ほかのすべてのアプリケーションと同様にリスクと無縁ではない。

クリエイティブブリーフからディープフェイク画像まで、ジェネレーティブAIは職場やオンラインメディアで急速に広まっている。メディアおよびクリエイティブエージェンシー、インフルエンサーマーケティングエージェンシーは一様に、ジェネレーティブAIによって自社の事業とコンテンツクリエイターとの協働のあり方が変化するのを目の当たりにしている。

その一方で、彼らはそれを懐疑的に受け入れている――。米DIGIDAYがこの記事のためにインタビューしたエージェンシー6社のうち4社は、技術の成長とともに生じうる安全性と倫理面での問題に言及している。

役に立つアシスタント

顧客対応およびクリエイティブ業務ではAIを活用してきたが、公共および消費者向けアプリケーションでは視覚的なジェネレーティブAIコンテンツはまだ実験段階だと理解したエージェンシーもある。クリエイターパフォーマンスエージェンシーのマイティジョイ(MightyJoy)の創業者であるエリック・ダハン氏によるチームはすでに、クリエイターとのメッセージのやりとりやデザイン、広告文案作成、提案においてAIを活用し、これらのプロセスで多くの時間を節約しているという。

「社内チームにとって強力で有効的なツールであるのは確かだ」と同氏は言う。「将来的には、クリエイターのコンテンツのすべて、または大半はAIによって生成されるか、AIに誘導されるかのどちらかになる。その時点で、主となるバリュープロポジションは、コミュニティと、そことの関係の強さになる」。

IPG傘下エージェンシーのヒュージ(Huge)でグループクリエイティブディレクターを務めるナタリー・カミンズ氏も同様に、ジェネレーティブAIをとくに「大規模にコンテンツを生成する手段」として、コンテンツクリエイターに役立ちうるツールと見ている。

「ジェネレーティブAIは、役に立つアシスタントをいつでも使える状態にしているようなものだ。将来的には、コンテンツクリエイターがそうした助けを利用するようになると予想している。(中略)長期的に効率を最大化するために、ジェネレーティブAIツールの運用では、クリエイターが各システム固有の言語を学ぶことが必要になるだろう。クリエイターがこれらのツールを扱う仕事の経験を多く積めるほど、制作物の質は高まるだろう」と同氏は語る。

トレンドはブーメランのように回帰する

ヒュージは、AIに関するワークショップの開催やホワイトペーパーの作成によって、顧客がAIの影響を理解するのを支援してきた。同社は最近、AIを利用して「カラー・オブ・ザ・イヤー2023」プロジェクトで顧客のパントン(Pantone)とビジュアルを作成した。カミンズ氏は、「今後はより多くの顧客プロジェクトでAIを活用する計画だ」と述べている。

また、「ジェネレーティブAIを活用し、勇敢、楽観、大胆不敵、自然など、一般的に色から連想されるメッセージや感情を入力し、そうした考えを適切に伝える画像を従来とは異なる形で生成した」とカミンズ氏は付け加えた。

ジェネレーティブAIはソーシャルメディアでも広まっており、プロフィールや動画にAIが生成したアートや書籍、バーチャルインフルエンサー、動画のスクリプトが含まれている。インフルエンサーエージェンシーのビリオンダラーボーイ(Billion Dollar Boy)でCMOを務めるベッキー・オーウェン氏によると、AIを利用してソーシャルメディアで自身のプレゼンスを構築し、ワークフローの効率を高めるクリエイターが増えているという。興味深いことに、それがよりオーガニックなコンテンツにつながりうると同氏は考えている。

「これまでクリエイターエコノミーのトレンドは、人が制作する物へとブーメランのように回帰する傾向がある。たとえば、TikTokがフィルターを通さないコンテンツを再び世に広めたことに目を向けてほしい。過去に目にした現象を未来の目安にするとすれば、当面のあいだはAIに傾倒するかもしれないが、最終的には人間が制作したコンテンツを常に切望するようになる――おそらくもっとそうなると確信している」とオーウェン氏は話す。

潜在的な違反や課題を検討する必要性

ジェネレーティブAIのコンテンツは人気があるが、エージェンシーは倫理やプライバシー面の懸念を警戒している。AIに頼るインフルエンサーが増えるなかで、インフルエンサーを活用している場合には、コンテンツの透明性やブランドセーフティの問題をめぐってリスクが高まる恐れがある。インフルエンサーエージェンシーのハイプファクトリー(HypeFactory)でマーケティングおよびPRディレクターを務めるダリア・ベローヴァ氏は、「クリエイターがAIの利用について率直である必要がある」と指摘する。

「(クリエイターは)オーディエンスを欺かず、オーディエンスに合わせたインフルエンサーの創造的なひねりが効いた独占的コンテンツを提供するようにすべきだ。ジェネレーティブAIの悪意ある利用が、現在懸念される最大の問題のひとつだ」と同氏は語る。

これは、人間の関与が重要になる分野だ。「ブランドとの協働の点でインフルエンサーマーケティングキャンペーンはまだ、ジェネレーティブAIなどのツールの活用方法を知るコンテンツチームに頼る必要がある」とベローヴァ氏は話す。「ブランドはAIが生成したコンテンツに全幅の信頼を置く。ただし舞台裏で人が動くことなく、最高のパフォーマンスを実現することはできない」。

ビリオンダラーボーイのオーウェン氏も言及しているように、急速に進化している環境でAIを利用し続けているため、クリエイターは潜在的な違反や課題について検討する必要がある。「規制も当然ながら問題になるだろう。すべての新興技術と同様に、ジェネレーティブAIはクリエイターエコノミーやそのほかで現状は規則に縛られていない」とオーウェン氏は付け加えた。

規制が追いつく?

今年3月、テスラ(Tesla)のCEOであるイーロン・マスク氏と学会やテック界のリーダーが、「社会と人類」へのリスクに言及して、「『GPT-4』よりも強力なジェネレーティブAI」の開発を半年以上休止するよう求める公開書簡に署名した。Appleの共同創業者スティーブ・ウォズニアック氏やピンタレスト(Pinterest)の共同創業者であるエヴァン・シャープ氏、ゲッティ・イメージズ(Getty Images)のCEOであるクレイグ・ピーターズ氏など、1700人超がすでに署名している。

オーウェン氏は、近年はAIとプライバシーに議員が注目しているため、この新興技術に規制が追いつくようになると予測している。ただし、ジェネレーティブAIがより大きなクリエイターエコノミーと、そのなかで活動するエージェンシーにどのような影響を及ぼすかは、現時点ではまだわからない。

[原文:Media Buying Briefing: How generative AI is being used by agencies of all stripes

Antoinette Siu(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:島田涼平)

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