短尺動画広告ブームで TikTok を追う各社:メタとYouTubeの猛追で王者の勢いは弱まる?

DIGIDAY

短尺動画広告は、TikTokにとってマイナスになる可能性もある。

ただし、同プラットフォームにとって必ずしも有害、というわけでもない。さまざまな論議はあるが、TikTokには今後も資金が大量に投入されるだろう。

短尺動画業界にはいまや、インスタグラムのリールやYouTubeショート(Shorts)、さらにはSnapchat(スナップチャット)のスポットライト(Spotlight)といった、ライバル勢が登場している。ライバルが増えたことで、TikTokにこれまでのような勢いはなくなるかもしれない。

ライバルの台頭

短尺動画に投入される広告費は増えているが、いまやかつてないほど多くのプラットフォームに分配されている。そしてこの状況は、マーケター勢の目を短尺動画コンテンツに釘付けにした立役者TikTokといえども、長期的に見れば厳しいものになりかねない。

「TikTokがこの数年間、短尺動画業界を牽引してきたのは間違いない。だが2023年は、その流れが初めて変わる可能性がある」と、英調査会社エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のシニアリサーチアナリストであるジェイミー・マクイーワン氏は話す。「TikTokのユーザーベースは10億を突破し、広告収益は2022年90億ドル(約1兆1700億円)近くに達した、2020年の10倍増だ。だが、2023年は成長率が少々落ち、40%程度になると我々は予想している」。

もしもそうなれば、それはメタ(Meta)といったライバルにとって、短尺動画業界に投じられる巨額の広告費をこれまで以上に奪い取るチャンスになりうる、ということだ。

差を詰めつつあるリール

リール広告にはいま、追い風が吹いており、それを維持するべく「メタはするべきことをするはず」との期待が高まっている。マーケター勢がこの数カ月間、米DIGIDAYに語ったところによれば、リールはすでにTikTokに続く強力な存在であり、両者の差は縮まってきているという。

リールは実際、2022年ほどから広告予算の奪い合い競争に参入している。年間広告収益の伸び率は、2022年度第2四半期が10億ドル(約1300億円)から3倍に増え、同年末には30億ドル(約3900億円)を記録した。しかも、メタが投資家に行なった最新のアンケートによれば、リールは現在、インスタグラム全体の広告利用の30~40%を占めており、それを踏まえると、この伸び率は2023年も続く公算が大きい。

2022年度、リールのインプレッションはインスタグラム全体の2.5%だったが、2023年度第1四半期は10.8%に跳ね上がった。前年比では約5%の伸びであり、同時期におけるTikTokの広告成長率よりも顕著に高い。

これは――まったくの予想外ではないが――驚くべき結果だ。インスタグラムのリールは、TikTokよりも低いベースから成長している。よって、投入金額は依然としてTikTokのほうが多いものの、増加率自体はリールが今後も上回ることになるだろう。なお、TikTokは米DIGIDAYの質問にすぐには返答しなかった。

広告販売方法にも差

ただそれでも、たとえばエージェンシーのティヌイティ(Tinuiti)では、2023年度にTikTokへの広告支出は2022年度の3倍増であると予想されており、これは2021年から2022年にかけての増加率と同様だという。

その理由は主に、TikTokの支配的地位だけでなく、リールの広告販売法にもある。リールの場合、広告費を分配するのは、買い手のマーケター勢ではない。代わりに、メタがそれを行なう。つまり、リールにおける広告の買い主は、自分がいくつインプレッションを購入することになるのか、必ずしもわかっているわけではない。TikTokでは一方、広告主はそのコンテンツに広告を出すのにいくら使うのかを、自分で決められる。

さらに、これまでTikTokだけにフォーカスしてきたブランドが短尺動画に対して総体的なアプローチを志向している、という流れもあると、ソーシャルテックエージェンシーのゴースプーキー(GoSpooky)創業者であるティム・ファン・デル・ヴィール氏は話す。「つまり、ブランド勢は必ずしもTikTokへの広告費を削減はせず、ほかのプラットフォームへの投資額も拡大することが予想される、ということだ」。

TikTokやインスタグラムへの出稿は増加

事実、エージェンシー会社のインフルエンサー(Influencer)ではすでに、この動きの兆候が見えているという。

同社のクライアントのあいだでは、TikTokへの広告支出が、2022年の全キャンペーン支出の10%から2023年は40%に増加していると、コマーシャル部門VPニック・スペラー氏は話す。一方、インスタグラムへの支出(2023年の全キャンペーン支出の50%を占める)のうち、「半分以上」がリールに行っていると、同氏は言い添える。

つまり概算で、同社クライアント勢のインスタグラムキャンペーン支出の35%がリールに流れ、2022年の15%から大きな成長が予想される、ということだ。

同じくエージェンシーのインキュベータ(Incubeta)では、「2021年までTikTokに広告を打つクライアントはいなかったが、2022年にはそれが10%になり、2022年にはさらに25%に増えた」と、同社ストラテジー部門SVPクレイグ・ブラウン氏は話す。一方、リールへの支出額は「極めて少ないままであり、リールのインプレッションはメタ全体の1%程度だ」とも付け加えた。

短尺動画界はいまや、幅広い選択の時代に

このように、複数の短尺動画チャンネルが広告支出先の多様化を生むなか、これまで短尺動画広告支出の大部分を形作ってきたTikTok一択の姿勢が、より総体的なものへと進化しようとしている。

ただそれでもなお、マーケター勢はいまだ、TikTok以外にはリールにしか目を向けていないようにも見え、たとえばライバル勢をみると、YouTubeは依然として、新たなレベニューシェア契約の取り付けに苦慮しており、Snapchatはいわばアイデンティティクライシスと格闘している。

短尺形態の最適なマネタイズとは?

また、短尺動画広告支出における一大変化が起きる前に、業界には短尺形態の最適なマネタイゼーション法のより正確な把握が求められている。そしてこれは、プラットフォームと広告主の双方にいえる。

昨今、短尺動画はクリエイター勢のメディア戦略を担う大きな役割になっているが、広告主はいまだ短尺形態の何たるかを、そしてそこで会話にどう加わるのが最適なのかをようやく理解しはじめている、というのが実情だ。その点を完全に把握できて初めて、広告主は自信を持ってマネタイゼーションを次のレベルに持っていくことができる。

とはいえ、いつか変化が起きるのは、間違いない。

Snapchatとストーリー(Stories)に何が起きたのかは、肝に銘じておきたい。TikTokがまだ注目もされていなかったころ、Snapchatは短尺動画界に先駆者として君臨していた。間違いなく、同形態を利用したい広告主が最初に頼るアプリだった。だがSnapchatは、そうしたビジネス需要に付いていくことができなかった。

メタとYouTubeがTikTokを追い抜く可能性

TikTokの広告ビジネスが容易くその二の舞になる――ことは、強固にガードされた独自のアルゴリズムが崩壊しない限り、まずないと思われる。そのような、人々を同アプリの動画にこれほどまでに夢中にさせている要因がある以上、安泰だろう。とはいえ、メタとYouTubeがTikTokの成功を再現する方法を見つけるのは、時間の問題でもある。詰まるところ、両社にはフォーム(型)があるからだ。

「それらプラットフォームのいずれかが同様のフォーマットを創り、TikTokのコアユーザーベースを破壊する可能性があるのは間違いない」と、マーケティングエージェンシーのフライテッド・コー(Flighted.co)創業者であるピーター・チェピガ氏は話す。

「YouTubeショートやインスタグラムのリールがこのまま上手く行くようであれば、クリエイター勢がコンテンツの最初の投稿先として、そして大半の時間を費やすプラットフォームとして、TikTokではなく、たとえばインスタグラムのリールを選ぶことは十分に考えられる」。

[原文:Short-form video ad boom may not be great for TikTok (eventually)

Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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