不透明な経済状況でも Web3 のテストを続けるマーケターたち:「革新的なアイデアはその見返りを得ることになる」

DIGIDAY

コンピュータ科学者のギャヴィン・ウッド氏が10年近く前に「Web3」という言葉を生み出して以来、この言葉は、暗号通貨やメタバースのプラットフォームから、拡張現実や仮想現実などの新興技術に至るまで、あらゆるものを包括的に指すものとなった。しかし、過去2年間にわたってWeb3が騒がれてきたものの、2023年は不確実な予算と不確実な結果に囲まれた、実験の年になるだろうとマーケターたちは述べている。

企業がWeb3技術のさまざまな側面をテストするにつれて、ティファニー(Tiffany&Co.)、スターバックス(Starbucks)、ナイキ(Nike)などのより多くのブランドが、単なるコレクターアイテムとしてのNFTを超えて、トークンゲートコマースロイヤルティプログラム、そのほかファーストパーティのデータを介して消費者とより直接的に対話する方法を採用している。

現在のWeb3プロジェクトは高リスク

この種のプロジェクトは、Facebook、Instagram、TwitterなどのWeb2.0ソーシャルチャネルと比べると、まだマーケティングのごく一部を占めているにすぎない。しかし、調査会社のガートナー(Gartner)は、2027年までに世界中の大企業の40%以上が、収益を増加させる方法としてWeb3、空間コンピューティング、またそのほかのメタバースベースのプロジェクトを使用するようになると予想している

データを取り巻くさまざまな問題と経済情勢もまた、マーケターを厳しいジレンマに追いやっている。ガートナーのマーケティング部門のバイスプレジデント・アナリストであるアンドリュー・フランク氏は、プライバシー規制の変更とサードパーティのデータに依存できなくなったことについて、マーケターたちが代替のマーケティングチャネルを試す新たな理由になっていると述べている。一方で、予算への圧力や暗号通貨関連でよくないニュースが続くことで、マーケターたちは潜在的にリスクの高いWeb3プロジェクトを試みることに慎重になっている。

「マーケティングデータ戦略と運用の進化について考えたとき、そこには非常に多くの要素がある」とフランク氏はいう。「そのため、顧客データと顧客との関係構築におけるWeb3形式のイノベーションに対しては、慎重な多数派と野心的な少数派が存在しており、幅広いアプローチが生まれている。Web3を使ったロイヤリティ・プログラムの成功パターンがいくつか出現し、ほかの企業でも真似され始めると予想されているが、経済状況を鑑みると、これにどのくらいの時間がかかるかを予測することは困難だ」。

マーケターはWeb3でCookie廃止以降の次のステージをめざす

サードパーティのCookie廃止プロセスは非常にゆっくりとしている。そうしたなかで、Web3を活用してファーストパーティデータのポテンシャルが高くなると考える人もいる。しかし、Web3が見せている可能性の多くはまだ初期段階にあり、ほとんどの場合、まだそれが実現できるかどうかも証明されていない。また、2023年はフォレスター(Forrester)が「メタバース・ウォッシング」と描写するような、従来通りの古いメディアを「メタバース」といった新しい用語で装うことで、まるで新しいものかのように演出するマーケティングが大量に現れる年になる可能性もある。ただ、アナリストたちによると、ブランドは古いものを再パッケージするよりも、新しいことに挑戦する方が賢明だという。

コミュニケーション・エージェンシーのMSL USで最高デジタルイノベーション責任者を務めるロブ・デーヴィス氏によると、今年は「ダイナミックなNFTの年」になるという。しかし、真に分散化されたプラットフォームが採用されるのではなく、まだWeb2.0にすぎない「メタバース風」な体験など、Web3が持つ「安全」で「過激でない」側面への関心が高まると同氏は予想している。

「Web3について誰が強気か、誰がそうでないかを議論したいのであれば、まずWeb3とは何かについて合意する必要がある」とデーヴィス氏は述べた。「顧客に体験を提供するプラットフォームの構築にブロックチェーンを使用することについて話しているのであれば、かなりの数のブランドが強気であるといえるだろう。分散化が現状に大きな変革をもたらす、という話であれば、私の答えは全く逆になるだろう」。

センサータワー(Sensortower)のデータによると、2022年11月に1350万件のアプリダウンロードを記録したロブロックス(Roblox)のようなWeb2.0の仮想世界と比べると、暗号通貨を使ったWeb3プラットフォームのユーザー数はまだ少ない。たとえば、アディダス(Adidas)やグッチ(Gucci)など200以上のブランドと提携しているザ・サンドボックス(The Sandbox)の11月の全世界でのアプリインストール数はわずか2000件だった。また、ハイネケン(Heineken)やサムスン(Samsung)などのブランドと提携しているディセントラランド(Decentraland)は、同社の「ディセントラランド・エクスプローラー(Decentraland Explorer)」アプリの11月の全世界でのインストール数がわずか1000件で、これまでのダウンロード数はわずか1万件だった。

ロブロックスやそのほかの新興プラットフォームを実験しているマーケターたちは、価値があるかを証明するに十分な測定機能がまだないと述べている。一方で、ロブロックスなどのプラットフォームが広告で乱雑にならないことが重要だと指摘する人もいる。イオス(Eos)と共同でロブロックスの体験を制作したメカニズム(Mekanism)のメディアディレクターであるケヴィン・レンウィック氏は、乱雑さを避け体験の創造に取り組む方が賢いだろうと述べた。「さもなければ、メタバースのなかに(乱雑な場所の例としての)タイムズスクエアが生まれるだけだ」と同氏はいう。「話題がたくさん作られても、奈落の底へ落ちていくだけだ」。

リスクを覚悟に現代的なブランドになる

11月、レッドウィング(Red Wing)はロブロックスで初めて体験を提供し、同社が現実世界のミニチュアハウスを作る団体に寄付するのと引き換えに、ゲーマーに仮想の「小さな家」をデザインするよう呼びかけた。1カ月後、ミレニアル世代とZ世代に焦点を当てたビューティーブランドのイオスは、マライア・キャリー出演で、クリスマスをテーマにしたデジタル・プレイハウス付きの数日間のイベント、無料のゲーム内アイテム、バーチャルステージ上でマライア・キャリーのアバターと対話する体験をもって、ロブロックスでのデビューを果たした。

「今日の世界においてモダンなブランドで、現代的なブランドでありたいのであれば、いくつかのリスクを取らないといけない」とレッドウィングの最高マーケティング責任者であるデイヴ・シュナイダー氏はいう。「(レッドウィングにとっての)リスクのひとつは、率直にいって正確にはどのような成果が出るかわからない分野に参加することだ」。

イオスの最高マーケティング責任者であるソヤング・カン氏は、ユーザーが既に存在している場所に広告を出してリーチしたいと考えていた。「私たちは、大きな投資を受けている新興プラットフォームがある分野で、新しい広告機会を探し始める」と同氏は述べた。

盛り上がりと不確実性が組み合わさり、厳しい目が向けられる

また、メタバースが提供するものを人々が求めているかどうかという大きな問題も残っている。最近のフォレスターのレポートでは、メタバースユーザーになることを計画しているオンライン消費者は半分以下であると指摘されている。また、2021年と2022年にNFTが大流行した後、NFTの取引量は1月のピークから9月にかけて97%減少した。

数多くの課題、ポジティブもネガティブも混ざった人々の期待や懐疑的な見方があるなか、企業幹部を対象とした調査によると、メタバースは近い将来、彼らのビジネスの一部になると考えられているようだ。PwCが2022年に米国の消費者5000人とビジネスリーダー1000人を対象に実施した調査によると、経営幹部の66%がすでにメタバースに関連することに取り組んでいると答え、38%が2023年には事業の一部になると答え、44%が3年以内には取り組むだろうと答えた。

PwCの最高技術責任者であるジョー・アトキンソン氏は昨年秋のDIGIDAYによるインタビューで、「私は(Web3の普及について)誰かから聞いた表現をよく使っている。インターネットの黎明期、グラフィック・ユーザーインターフェースがなかったダイアルアップ時代は(それより前の時代から)80年後半から90年前半まで続いた。そこからここまで来るのに30年かかったわけだから、Web3の初期の力を見るのにさらに15年かかるかもしれない」。

Web3の技術はマーケティング以上に有益だと考える人もいる。マスターカード(Mastercard)の最高マーケティング責任者であるラージャ・ラージャマナー氏によると、「新興技術の津波」はこの分野に革新をもたらし続けるという。経済的な不確実性があるにもかかわらず、マーケターたちは引き続きそれらの技術を試し、どの技術を継続してモニタリングし、修正していくのか決定すべきだと述べた。

この分野には多くの厳しい目も向けられている。米連邦取引委員会は先月、「フォートナイト(Fortnite)」の開発元であるエピック・ゲームズ(Epic Games)に対し、詐欺的なマーケティングや子供向けのデータ収集などの疑いで5億2000万ドル(約675億6364万円)の罰金を科した。消費者擁護団体からも批判を受けており、広告を適切に開示していない、あるいは悪質な行為者からユーザーを保護するための十分な保護が施されていないと指摘された。一方、一部の著名人たちは、仮想通貨企業の有料広報担当者としての役割に関連して、批判や訴訟、政府による調停に直面している。

暗号通貨が大きく批判されるなかで、不景気においてこの分野が最初に切り捨てられる可能性があると考えてもおかしくはない。しかし、Web3マーケティング代理店インビジブル・ノース(Invisible North)の共同創業者兼最高マーケティング責任者であるジェフ・レノー氏は、VCファンドがメタバースのイノベーションを支援し続けると予想している。「VCファンドによって調達された数百億ドル規模の資金は使われなければならないため、市場の状況にもかかわらず、新しいプロジェクトには多くの新たな資金が調達されるだろう」と同氏は述べる。「2023年には弱気市場は継続し、資金調達の審査が厳しくなるなか、革新的なアイデアはその見返りを得ることになるだろう」。

[原文:Marketers forge ahead with metaverse experiments despite murky economy

Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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