先月、YouTubeがYouTubeショートの広告収益をクリエーターと共有する決定をしたのは、クリエイターがより多くの収益を稼げるようにすることが目的であった。しかし、今のところ効果は見られておらず、クリエイターはYouTubeショートによる収益増がいつ起きるのか、確信が持てない。
また、ショートが原因で実際には収益を失っている、という事実をクリエイターは見過ごすことができないでいる。YouTubeショートのコンテンツは、クリエイターのターゲットオーディエンスをはるかに超えた視聴者に届くため、より多くの人々に視聴されているかもしれないが、それらの人々が必ずしもそのコンテンツを楽しむわけではない。これは、YouTubeショートが始まった当初からクリエイターが抱えていた問題だ。
そのため先月、YouTubeがYouTubeショートのコンテンツ周りの広告からお金を稼ぐことができると発表した時、クリエイターたちの頭にあったのは、YouTubeショートで得られる収益によって元が取れるかどうかという疑問だった。
Advertisement
視聴回数は増えたが、未だ収益は伸びない
YouTubeショートは、クリエイターがYouTubeショート以外の方法ではアクセスできないところから広告収益を引き付けることで多少の増収をもたらした。しかし、多くのクリエイターにとって、収益は決して増えてはいない。
YouTubeがYouTubeショートを収益化する機能を提供してからわずか6週間しか経っていないが、米DIGIDAYに話した5人のタレントマネージャーやマーケター、コンサルタントによれば、クリエイターはこの新機能が役に立つとは考えていないようだ。取材に応じてくれたこれらの人々が抱えるクリエイターの数は合わせて60人以上だ。
「全体的なインプレッションと視聴回数は大幅に増加している(我々が取り扱っているクリエイターでは約60%増)が、視聴時間と収益は大きな打撃を受けている」と、ニュースメディア企業のクリエイターメール(Creator Mail)共同創設者兼CEOであるアニケット・ミシュラ氏は言う。「減少の割合を示すのは少し難しいが、20%減少していると言えるだろう」と同氏は嘆く。
クリエイターのブルック・モンク氏(YouTubeで202万人の登録者がいる)のような人々が、先月からのYouTubeショート収益データを公開し、この問題に注目を集めている。YouTubeショートの収益化が始まって1週間後、彼女は6450万回の視聴回数を記録していたにもかかわらず、稼いだのは768.41ポンドだと述べている。
YouTubeはクリエーターの財政上の懸念を考慮して、新しいYouTubeショート収益化プログラムを設計したと言っている。クリエイターは、YouTubeが音楽ライセンス費用を計上した後、総視聴回数に基づいてYouTubeショートフィード内の対象YouTubeショート・コンテンツから収益の一部を受け取る。これは、視聴時間に基づいてクリエイターに支払うというYouTubeの従来の方法とは逆である。現時点では、この変更はクリエイターたちにとって総合的に見てプラスにはなっていない。
「視聴回数が月間100万回から1000万回に増えても、お金が増えないのであれば、精神的に辛いものがある」と、デジタルタレントマネジメント会社ウィー・アー・ベリファイド(We Are Verified)のCOOフィル・ランタ氏は言う。「YouTubeショートによって多くのクリエイターが月次ベースで20%から50%の成長を見せているが、そこからの収益の増加は見られない」。
YouTubeショートが長編動画の導線になる可能性
しかしながら、これらの数字を何らかの決定的なものとして受け取るには、まだ時期尚早と言えるだろう。
「(このプログラムは)まだ始まったばかりであり、クリエイター、視聴者、広告主を集めてYouTubeショートのエコシステムを拡大することに焦点を当てている」と、YouTubeの報道担当者はEメールでの声明で述べている。「YouTubeショートにあらゆる関係者たちが(お金やエネルギーを)注ぐことで、クリエイターの収益は今後、増え続けると考えている。YouTubeショートの広告収益共有では、クリエイターがプラットフォームの成功を直接共有できる長期的なパートナーシップを築くことにコミットしている」。
YouTubeは、新しいYouTubeショート収益化プログラムに関して、この立場をずっと維持してきた。何度も、YouTubeショートが成長することはクリエイターの長編コンテンツを犠牲にすることはないと主張している。YouTubeショートを視聴する視聴者は、同じクリエーターの長編動画も見るようになるかもしれない、という解釈だ。
この行動を支援するために、YouTubeはYouTubeショートにおけるユーザーからのシグナルを活用して、長編動画の視聴を促進する方法を試している。たとえば、視聴者のYouTubeショート視聴履歴が長編のおすすめに反映するようになるなどだ。つまり、YouTubeショートでチャンネルを発見した視聴者は、そのチャンネルの長編動画をYouTubeのおすすめで見る可能性が高くなる。
これらの取り組みが具現化され実績として現れるまで、クリエイターはショート動画の進化とその後のプラットフォームでの短編動画の普及が、広告ビジネスをさらにゆがめるのか疑問に思い続けている。
クリエイターの懸念
「人々がもっと注意を払うべきなのは、それ(YouTubeショート)がクリエイターの全体的なチャンネル成長にどのような影響を与えているかだ」と、モーガングローリー・コンサルティング(Morganglory Consulting)のゼネラルマネージャーであるレスリー・モーガン氏は言う。「短編コンテンツはたくさんあり、視聴者がそれを視聴し、収益化もされている。しかし、これらのクリエイターのチャンネルにはまだ長編のコンテンツが存在している」。
また、別の見方もある。過去2年ほどの間にYouTubeショートが急増したことで、一部のクリエイターが登録者数や総視聴回数など、クリエーターにとっては嬉しい指標で大幅な伸びを見せている。ただし、必ずしもそれが広告収益を得るために重要なエンゲージメント、視聴者のロイヤルティ、コンバージョンなどに繋がるわけではない。
こういったほかの分野における影響を鑑みると、クリエイターがこの切り替えに完全にコミットすることにいくらか消極的であることは不思議ではない。クリエーターのあいだに多くの混乱と、根底に不満があると言っても過言ではない。
クリエイター側の工夫
前述したような懸念から、一部のクリエイターは新しいYouTubeショート専用チャンネルを作成している。視聴回数や登録者数のような(クリエイターの虚栄心にとっては嬉しい)指標は、マーケターとの取引を締結する際にまだ価値がある。YouTubeショートの恩恵によって膨らんだ視聴者数であったとしても、マーケターとの交渉の役に立つと彼らは考えている。なお、このやり方の問題点は、それがYouTubeのクリエイターコンテンツに対する計画とまったく合わないことだ。
「YouTubeは、クリエイターがYouTubeショート専用チャンネルを作成することにあまり前向きではない」とモーガン氏は言う。「彼らはすべてがひとつにまとまっていて欲しいと思っている。私たちは彼らと多くの会話をしてきた。これは収益化前の話だが、数カ月前の会話では、クリエイターがひとつのメインチャンネルに留まるべき理由がメインの議題だった。『メインチャンネルですべてを行うように。別のストレージ・チャンネルを作成しないで欲しいと言っていた』。そして、クリエイターはそれ(別のチャンネル作成)を現実に行っており、それが現状でもある。第2四半期に何が起きるのか、注目だ」。
クリエイター側では、YouTubeショートと長編コンテンツをもっと整えるために大きな変更を行う可能性がある。たとえば、インタビューからYouTubeショートを切り取って投稿するビデオポッドキャストは、長編視聴者をもっと増やす可能性があるなどだ。つまり、YouTubeショートの短い動画を通して、視聴者が長いインタビューに興味を持ってくれて、長編の動画を探し求めるといった具合が想定される。YouTubeショートを見たことで、視聴者にさらにクリックしてもっと動画を見つけたり、もっと学んだりするよう促すなら、それが利点となるだろう。
YouTubeショートの価値は新たな視聴者へのリーチ
反面、長編コンテンツやほかのYouTubeショートとまったく関係のない動画(いたずら動画など)を投稿するクリエイターは、それが長編コンテンツの視聴を促さないため、利益を得られないかもしれない。
「一般的に、YouTubeショートは『コールドな視聴者(元々コンテンツに興味を持っていたわけではないが、新しく興味を持ってもらえる可能性のある人)』対象のアプローチだ。YouTubeショートを使ってリーチを最大化し、視聴者にチャンネルに来てもらって長編コンテンツを通して彼らのニーズに対応する。そして単なる視聴回数から登録者になってもらうというような役割がある」と、パートナーウィズクリエイターズ(Partner with Creators)の創設者であるアビ・ガンディ氏は言った。
[原文:YouTube Shorts ad payouts to creators highlights deeper monetization woes]
Krystal Scanlon(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)