細分化によって一変する ソーシャルメディア 界の雇用状況:「ソーシャルメディアのランドスケープは、この5年で劇的に変わった」

DIGIDAY

2020年夏、サラ・ワイルドマン氏がカリフォルニアのPR会社シーガル・コミュニケーションズ(Segal Communications)でソーシャルメディアマネージャーとして働きはじめた際、任された仕事はクライアント1社のためにインスタグラム、Facebook、LinkedIn(リンクトイン)、Twitterにまたがるソーシャルメディア計画を作成することだった。そのクライアントが欲したのはたいてい、週に2~3枚のそれら複数のチャネルに使える静止画像だった。だが間もなく、同様の要望を出してくるクライアントの数が、1社から4社に、続いて6社に増えた。

「すぐにシステムとプロトコルを整えて、高まる要求に対応できるチームを作らないとまずいと思った」と、ワイルドマン氏はeメールでふり返る。彼女のエージェンシーはジュエリー会社のシェーン・コー(Shane Co.)やバースコントロールブランドのナークス(Nurx)、ジョニー・ドーナツ(Johnny Doughnuts)といった企業をクライアントとしている。

当時28歳の新人ソーシャルメディアマネージャーが対応を迫られた要求は、最適なソーシャルメディア戦略の実行に留まらず、ブランドのソーシャルメディアチャネルの維持管理、コミュニティエンゲージメントのモニタリング、担当する各ブランドのためのコンテンツの間断なき制作までと多岐に渡った。ソーシャルメディアのランドスケープ(現状/風景)の分断化が加速度的に進むいま、遅れずに付いていくのがますます困難になっていることばかりだ。

「ソーシャルメディアのランドスケープは、この5年で劇的に変わった。ブランドの観点からは、とくにそう見える」と同氏は話し、「かつてソーシャルにあったシンプルさは、完全に失われている」という。

ソーシャルメディアの仕事は過密に

コンテンツ制作を遅滞なく進めるべく、ワイルドマン氏は請負業者とフルタイムのスタッフを1名ずつ雇ってコンテンツの撮影と編集を任せることでようやく、「その縛りから解き放ち、新事業の可能性を探り、自社のマーケティングに専念できる」ようになったという。

ワイルドマン氏の投稿スケジュールは、3年前は週に2~3枚の静止画像をインスタグラム、Facebook、LinkedIn、Twitterに上げる程度だったが、いまやそうしたプラットフォームに動画コンテンツを2~3作品上げ、さらには短尺動画の大流行を受けて、毎週1~2作品をTikTokかリール(Reels)に上げている。

同氏だけではない。ソーシャルメディアマネージャーの多くが、ソーシャルメディアのランドスケープ大変動により、自らの役割を一変させられている。これまでは関連写真を機知に富んだキャッチコピーを添えて、Facebookやインスタグラム、Twitterに投稿するだけでよかったが、現在は幾重にも連なるソーシャルメディアプラットフォームを通じて、一貫したブランドアイデンティティを創造し、コンテンツ制作およびデータ分析を間断なく行なうのが当たり前になっている。

管理すべきことが山ほどある

ソーシャルメディアは長らく、人々を導く星としてデジタル広告界で尊ばれており、エージェンシーのデジタルマーケティングおよび広告ワークフローの全段階に欠かせない存在になっていると、企業の経営者たちは話す。それはひとえに、人々がより多くの時間をソーシャルメディアで費やすようになった(ソーシャルメディアマネジメントプラットフォームのフートスイート[Hootsuite]によれば、1日平均2時間28分)からであり、eマーケター(eMarketer)の報告によれば、マーケター勢は2023年にそうした人々の目の前に出るため、710億ドル(約9兆2300億円)を費やすことが見込まれている。言い換えれば、ソーシャルメディアチームには管理するべきことが山ほどある、ということだ。

「現在のマルチチャネルランドスケープは、ソリッドなデジタルプレゼンスの確立をめざすブランド勢が直面している主要な難題のひとつ」だと、デジタルマーケティングエージェンシーのMGエンパワー(MG Empower)の創業者/プレジデントであるマイラ・ジェノヴィース氏は、eメールで指摘する。

それは、ソーシャルメディアプラットフォーム自体が、たとえばインスタグラムのリールの導入やReddit(レディット)の優れた広告インフラストラクチャーに代表されるように、「常に進化を続けているから」というだけではない。ビーリアル(BeReal)のデュアルカメラや、TikTokの短尺動画など、独自のプロダクトを擁して登場する新規プラットフォームの増加もその理由だと、ジェノヴィース氏は言い添える。

「この変化はマーケターとマーケティングエージェンシーに対して、プラットフォームおよび消費者の行動の変化に柔軟に対応するよう、より統合的な手法への適応を強いている」と、同氏は指摘する。

新たなソーシャルメディアチーム

本記事のためにDIGIDAYが話をきいたエージェンシー幹部8人によれば、「社内ソーシャルメディアチームの雇用、配置、研修に定型はない」という。分断化されたソーシャルメディアのランドスケープにおいては「とりわけそうだ」と話す。

また、「ソーシャルとデジタルの世界が文字どおり日々変わっている現在、それに追いつけていないのは、エージェンシーの契約とエージェンシーモデルだ」と、デジタルエージェンシーのバーバリアン(Barbarian)でマネージングディレクターを務めるコートニー・ベリー氏は話す。「クライアントのために、もっともっと柔軟かつ流動的にならないといけないのは、我々も承知している」。

ベリー氏によれば、エージェンシーの契約はこれまで候補者のデリバラブル(成果物)、スキルセット、経歴に基づいていた。だがいまや、プラットフォームがプロダクトオファリングの形を刻々と変え、オーディエンスの各プラットフォームの利用法も変動を続けるなか、エージェンシーにはより敏感な反応が求められているという。そのためにバーバリアンはこのほど、ソーシャルメディアにおける変化の速度に合わせて適切に方向転換できるクリエイター集団を社内に設けた。

同様に、エージェンシーのビークマン・ソーシャル(Beekman Social)も2022年、規模を倍に拡大し柔軟性を強化するべく、長期契約のフリーランサーとフルタイム社員を計45人雇用したと、同エージェンシーの創業者/CEOであるジェフリー・トゥセイ氏は話す。

動画のニーズが急増

動画メインのプラットフォームが台頭し、それを受けて動画メインの戦略が重要になるなか、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのビリオンダラーボーイ(Billion Dollar Boy)は全スタッフに対し、動画撮影と編集の両方に精通できるよう、研修を行なっている。

「クライアントは実際、かつてないほどのペースで動画コンテンツを求めてきている。だからこそ、これは我々にとって重要な投資にほかならない」と、ビリオンダラーボーイの創業者エドワード・イースト氏は話し、TikTok、そしてインスタグラムのリールやYouTubeショート(YouTube Shorts)といったその競合他社の台頭も脅威として挙げる。

また、デジタルエージェンシーのMGエンパワーは、チーフTikTokオフィサーやメタ(Meta)ストラテジストなど、各プラットフォームに担当者を1人ずつ雇う従来の形態を離れ、最新のプラットフォームに関する応募者の知識と、ソーシャルメディアプラットフォームの日進月歩の動きに付いていける進化能力に基づいて採用している。

「これまでは頭数を揃えて各プラットフォームの仕事にそれぞれ取り組ませていたが、いまはコアな専門知識/技術に基づいて事業全体を動かしている」とMGエンパワーのジェノヴィース氏はeメールで指摘する。「これほど多面化したデジタル界で成功するには、多専門的チーム群を統合的な形で稼動させるのが最良の方法だと、我々は理解している」。

デジタル広告の全側面に影響

ソーシャルメディアマネージメントの未来は複雑に入り組んだものになると、専門家らは話す。分断化により、各プラットフォームの一般的な知識を持つプラットフォームにとらわれない総合的な実務家を雇おうとする代理店もあれば、プラットフォームごとに仕事をする専門家を求める代理店もあるだろう。

「必然的に我々は従業員個々の力に頼り、そのうえでしっかりとした基本知識を、そしてある程度の専門性を確実に持てるよう努めていくことになる」と、メカニズム(Mekanism)のチーフソーシャルオフィサーであるブレンダン・ゲーン氏はeメールで説明する。「これは、ストラテジーレベルにおける、プラットフォームおよびコンテンツ制作レベルでの話でもある」。

いずれにせよ、ソーシャルメディアマネージメントの未来がデジタル広告の全側面に関わってくるのは、間違いない。クリエイティブおよびコンテンツ制作からメディアプランニングおよびデータ分析まで、それはすべてに及ぶ。

「ソーシャルメディアの初期段階では、ストラテジストらの姿勢は基本的に、さまざまなアイデアを壁に投げつけて、そのうちのどれかがうまく行ってくれることを願う、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる的なものだった」と、ビークマン・ソーシャルのトゥセイ氏は話す。「だが最近は、最高のストラテジストたちは皆、ホリスティックなスキルセットを有しており、デジタルエコシステム全体を考えながら、各ブランドに最適な戦略を選んでいる」。

[原文:How fragmentation has changed hiring in social media

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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