【解説】 ジェネレーティブAI が小売業にもたらすもの:マーケティングからパーソナライゼーションまで

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この数カ月、AIフレンドリーなツールの人気が広がるにつれ、小売業界ではジェネレーティブAIが話題を呼んでいる。

ジェネレーティブAI(生成型人工知能)とは、突き詰めると、過去の経験に基づいて、テキストや画像、コンピューターのコードなど、新しいコンテンツを生成できる機械学習の一形態だ。ChatGPT(チャットジーピーティー)は、現在多くの注目を集めているジェネレーティブAIのアプリケーションであり、マイクロソフト(Microsoft)の支援を受けた新興企業OpenAI(オープンエーアイ)のチャットボットだ。ジェネレーティブAIが特別なのは、人間のような応答を作成でき、対話から学習できる能力にある。

ジェネレーティブAIツールは、現在大流行中だ。学生がこのツールを使用して小論文を書くのに使ったり、イーロン・マスク氏のような著名な技術者が、AI開発の中断を要請するなど、この数カ月にわたり、このテクノロジーはニュースの見出しを占領してきた。このテクノロジーには、マーケティングや、マーチャンダイジング、カスタマーサービスなど、小売業のさまざまな分野に影響を与える可能性を秘めている。長期的にはジェネレーティブAIによって組織の生産性と創造性の両方を高めるものだと、業界の専門家は予測している。しかし、ジェネレーティブAIは、各国の政府が規制する方法を模索していており、すでにいくつかの障害に直面している。

グローバル戦略・経営コンサルティング企業カーニー(Kearney)のアナリティクス分野のパートナー兼最高ソリューション責任者であるバラス・ソータ氏は次のように述べている。「ビジネスコミュニティは、市場に新しいツールや目立つものが出現したとき、いつも熱狂する。コミュニティはChatGPTの持つ可能性に興奮した。そして同時に、それが自分たちのビジネスに与える影響について考え、怯えてもいる」。

小売におけるジェネレーティブAIの持つ可能性

小売業者がAIを業務に適用するのは、まだ初期段階だ。

現在は、多くのブランドがマーケティングの目的でこのテクノロジーを使いはじめたところだ。たとえばコカ・コーラ(Coca-Cola)は、OpenAIおよびベイン&カンパニー(Bain & Company)と提携し、OpenAIのGPT-4とダリ(DALL-E)を組み合わせたAIプラットフォームをリリースした。飲料大手企業である同社は、人々に対してこの新しいプラットフォームでアートを作成するよう働きかけており、選ばれた作品はニューヨーク市のタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスのデジタルビルボードで展示される。一方で、テキーラのブランドであるパトロンテキーラ(Patrón Tequila)は、同社のマルガリータのパーソナライズされた画像を作成するAIアートジェネレーターをリリースした。

カンター(Kantar)のシニアソートリーダーを務めるバリー・トーマス氏は、小売業者やサードパーティーの売り手はジェネレーティブAIを利用して、より優れた商品説明を作成することもできると語る。ベンダーや加盟店がより良い商品説明を作り上げるのを助けるするというのは、まさにShopify(ショッピファイ)が3月に導入した新しいAIツールの背景にある考え方でもある。

より多くの独自データを持つ小売業者は、ほかの業者よりも競合上の優位を得られると、同氏は語る。これにより、さらに多くのファーストパーティーやゼロパーティーのデータを取得することに注力する小売業者が増える可能性があると、同氏は付け加えている。「より大量で質の高いデータセットがあれば、新しいものを作りだせる多くの可能性が生まれる」と、同氏は付け加える。

別のユースケースとして、商品のレコメンデーションがある。小売業者は、まだこの目的のためにジェネレーティブAIを適応させていないが、ほかの業界ではジェネレーティブAIのレコメンデーション機能のテストがはじまっている。フルサービスの旅行ブランドであるエクスペディア(Expedia)は、利用者にパーソナライズされた旅行のおすすめと計画の手助けを行うため、同社のモバイルアプリでChatGPTをベータテスト中だと語る。

AI関連企業への出資も盛んに

ジェネレーティブAIのユースケースはさらに多く登場すると、専門家たちは考えている。ジェネレーティブAIやそのほかのAIツールの成長をけん引する新興企業への出資は、ほかのあらゆる業種でベンチャーキャピタルが厳しい環境であるにもかかわらず、減速していないと、XRCベンチャーズ(XRC Ventures)のジェネラルパートナーであるアル・サンバー氏は語る。XRCが投資したAI関連の新興企業の割合は50%に迫ると推定されると、サンバー氏は述べている。

実際に、ジェネレーティブAIツールに取り組んでいる新興企業はゴールドラッシュを目撃している。たとえば、元GoogleのAI研究者により創設されたメビウスAI(Mobius AI)は、開業からわずか1週間で評価額が1億ドル(約134億円)に達した。OpenAIの元従業員により創設された新興企業のパープレキシティ(Perplexity)は最近、2600万ドル(約34億8000万円)の資金を調達した。

サンバー氏は次のように述べている。「ジェネレーティブAIやAI全般への非常に積極的な投資を目にしている。多くの投資家が、まだごく早期でEBITDA(利払い、税引き、減価償却前の利益)がプラスでさえない企業に出資しようとしている」。

特定のカテゴリーの新興企業が膨大な額の資金を得ることは珍しくないが、それは長期的な成功を保証するものではない。Web3もベンチャーキャピタルのコミュニティで話題になったが、クランチベース(Crunchbase)のデータによれば、Web3をベースとする新興企業への資金は、昨年の第3四半期に、2020年末以来の最低を記録した。また、ほんの数年前に投資家は、BNPL(後払い)業者に殺到したが、このカテゴリーで最大手の企業のいくつかは、今でも利益に転じていない

国際的な批評

ジェネレーティブAIに対する評価には、批判的なものもある。各国は、この新しく、急激に人気を博しつつあるテクノロジーへの適切な対応について、頭を悩ませている。その長期的な影響はいまだ未知数であり、規制機関にとっては心配の種となる可能性があると、専門家たちは語る。これらの障害は、ジェネレーティブAIが普及する妨げとなり、それに投資する小売業者に制限を課す可能性がある。

ジェネレーティブAIに関する規則はまだ作成されている途中だ。イタリアは4月初め、プライバシーへの懸念から、西側諸国として最初にChatGPTを禁止した。イタリアのデータ保護監視機関(Italian Data Protection Watchdog)はOpenAIに対し、イタリア人のデータ処理を一時的に停止するよう命じた。

一方で、英国政府は、新たな規制を制定する代わりに、各種の規制当局に対して「それぞれの部門で、実際にAIが使用されている方法に合った、個別の状況に応じた取り組みを」考案するように指示した。

カーニーのソータ氏は次のように述べている。「飛行機を飛ばしながら建造しているような状況だ。どこに投資するのか、どれだけ投資するのか、市場で物事がどのように形成されていくのかに多くの注意を払う必要がある」。

米国では、バイデン政権がChatGPTのようなAIツールに対して適用されうる規則について検討しはじめたばかりだ。商務省(Commerce Department)は今週、AIモデルに適用されうる責任追及性の基準について、意見を公募することを発表した。コメントは60日間受け付けられ、議員がAIをどのように扱うかについての手引きとなる。

[原文:Unpacked: From marketing to personalization, what generative AI means for retail]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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