進む ソーシャル の分裂、ROIは悪化しコストは高まるばかり:「どのプラットフォームを拠点にすべきか決めることで、やるべきことに注力できる」

DIGIDAY

2023年が始まって3カ月目に突入したばかりだが、ソーシャルメディア界には2社がすでに新規参入している。Twitterの後釜を狙う「T2」と、パーソナライズドニュースアプリの「アーティファクト(Artifact)」だ。

ちなみに2022年の見出しを飾っていたのは、分散型ソーシャルメディアプラットフォームのマストドン(Mastodon)、アンチフィルターアプリのビーリアル(BeReal)、そしてソーシャルオーディオアプリのクラブハウス(Clubhouse)だった。

市場は気まぐれで、状勢の波に合わせて変動するものだ。アプリのハイプサイクルはあまりにも激しく、マーケターがチームに投資して、そのためのコンテンツを制作しても、数カ月もすれば、そのアプリ自体が勢いを失ってしまう。ブランドやエージェンシーはそこを突き進んでユーザーを見つけ、先行者としての報酬を得るべく賭けに出る。だが、もちろんそれには金も時間もかかる。加えて、報酬が得られる保証もない。

チャネルやツールの戦略的な選択が重要

デジタルエージェンシーのザ・ブランドアーキスト(the Brandarchist)で最高戦略責任者を務めるゲイリー・ニックス氏は、「すべてのプラットフォームに対応できるだけの時間と創造力、人の力があるなら問題はないが、それだけのスタッフを抱えているところはそうはない」と語る。「どのプラットフォームを拠点にすべきか、どのように時間を費やすべきかを決めることで、広く浅くをめざすのではなく、やるべきことに注力できる」

つまり、使える資金に限りがあるマーケターは、ソーシャルチャネルやターゲットオーディエンスだけでなく、人材の獲得やツールについても、より戦略的にならなければならないということだ。ソーシャルの世界が拡大し、消費者と有意義な関係を築ける(あるいは単に、そのノイズをかき立てる)機会が急増しているときに、これは顕著となる。

インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)の調査によると、2022年に米国人がデジタルメディアに費やした時間の平均は(公正を期すために明らかにしておくと、スマートTVやゲーム機もそこに含まれる)、過去最高となる8時間14分だった。そして、2023年は、さらに9分長くなることが予想されている。これはつまり、ブランドにとってのチャンスがこれまで以上に増えるということであり、しかもその市場は大きくなる一方なのだ。しかし、それは同時に、これに伴うコストも大きくなるということでもある。

ソーシャルメディアがようやくその価値を認められつつある

あるブランド(希望により名称は非公表)の見積もりによると、クリエイティブサービスにかかる費用は前年比で30%増加しているという。その主な原因は、ソーシャルに対するニーズの増大だ。また、こうしたチャネルの管理にチームで取り組まねばならなくなってきているため、ソーシャルメディア管理ツールのスプラウト・ソーシャル(Sprout Social)のライセンス数も増加しているという。

ニックス氏によれば、ソーシャルメディアへのリソースを増やす必要性が生じている背景には、ソーシャルメディアがようやくその価値を認められつつあるということが挙げられるという。「かつてのソーシャルメディアは、クイックリーチの一形態と見られていた」と、同氏はいい、「だが、これはリーチを競うゲームではない(中略)もしその意見を誰も気にしないなら、そこからは何も得られない。いままさに、より多くの資金がより高品質なコンテンツの制作に注がれつつある」と続けた。

加えて、消費者が気にかけるコンテンツにブランドが投資すれば、ROI(投資利益率)の数字も自ずとよくなることはわかっている。

チャネル過多のコスト

同時に、ソーシャルの分裂がこのまま続けば、ブランドはターゲティングをさらに明確にする必要に迫られ、これによって諸経費がさらにかさむことになる。ニックス氏はいまでさえ、「ブランドは自分たちのオーディエンスが誰なのかを真に特定するために、十分なことができていない」と主張する。

ブランドに必要なのは、そのオーディエンスがどのような層なのかを掘り下げ、彼らに関する詳細(サイコグラフィクスや文化など)を知ることだという。そのうえで、コンテンツ制作のパートナーに投資して、適切なチャネルや歩調を見極めることが重要だという。

ブランド1社が利用するチャネル数は、そのブランドが雇うコンテンツクリエイター数にも影響を及ぼす。ニックス氏は、「チャネル1つにつき、5名ぐらいで十分なのでは」と話す。コンスタントなコンテンツ制作をめざすブランドなら、YouTubeのようなネットワークを管理するスタッフが1~3名では「まったく足りていない」という。

リソースの強化が顕著に

eコマースプラットフォームのパックビュー(Pacvue)は、ほとんどの自社ソーシャルチャネルで動画クリエイティブへの投資を強化している。同社のマーケティング担当ディレクターであるアダム・ハッチンソン氏は、「TikTokなどの新たに登場したソーシャルチャネルは、FacebookやTwitterといったレガシーチャネルに取って代わる存在ではなく、付加的な存在だ」と語る。「パックビューのソーシャルメディアチームは、ますます多様化するオムニチャネル体験をカバーすべく、コンテンツを複製して全チャネルに広げる新たな手法を模索してきた」。

パックビューはまた、TikTokやインスタグラム・リール(Instagram Reels)のインフルエンサーおよびユーザー生成コンテンツを担当するフルタイムのクリエイター1名をチームに加えている。「ほかにはない役割を果たすのがこのポジションで、その仕事はリサーチ、制作、演技、編集などと多岐に渡る。その狙いは、さまざまなチャネルのアルゴリズムにおいて、トレンドになっているサウンドやコンセプト上にブランドを展開させることだ」と、同社のソーシャルメディア担当ディレクターであるカッサンドラ・クレイブン氏は語る。

ファストフードチェーンのタコベル(Taco Bell)では、新興プラットフォームが人気を集め、消費者が関連コミュニティを介して識別されるようになるにつれ、戦略担当者もクリエイティブも、ゼネラリストになるかチャネルエキスパートになるかの選択を迫られるという課題が持ち上がってきた。

同社でソーシャル部門のトップを務めるニコール・ウェルトマン氏は次のように述べている。「いずれは、ディスコード(Discord)やインスタグラム、TikTokの『いいね!』から透けて見えるニュアンスこそが、サポートやマネージメントを決定づけるようになるだろう。そして、そのコストがそれを間違いなく反映するようになる。これは、コンテンツだけではなく、インフルエンサーについても言える。プラットフォームの数は、かつてないほどに増えており、ユーザーはそこに自身が関係するさまざまなサブコミュニティやニッチとの共感できる自然な繋がりを築きたいと思っているからだ」。

コンテンツのカスタマイズは必要ないのか

少なくとも今のところ、回避策はある。調査会社ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストであるクローディア・ラッターマン氏は、コンテンツには「多額のコストがかかる」ことを挙げ、クライアントに「ユーザー生成コンテンツを活用して、コンテンツをより広い視野で捉えるよう」にアドバイスしている。

「たとえば、TikTokについて考える代わりに、ショートフォーム動画の戦略について考えるのだ」と、同氏は語る。「確かに、利用しているプラットフォームに合わせてショートフォーム動画を調節しなければならなくなるが(中略)最適化する方法がわかれば、あとはそのやり方を続けていけばいい」。

ソーシャル分析企業ブランドウォッチ(Brandwatch)の戦略担当シニアバイスプレジデントであるジェームズ・クリーチ氏も、もはやソーシャルにはプラットフォームごとにカスタマイズされたコンテンツは必要ないと話す。

「コンテンツフォーマットの標準化は、ますます進んでいる。TikTokで使っているクリエイティブを、YouTubeショート(YouTube Shorts)やFacebookリール(Facebook Reels)、Snapchat(スナップチャット)のスポットライト(Spotlight)に使うこともできる」と、同氏は語る。「おそらく今後は、コンテンツをもう少しうまく利用できるようになるのではないか」。

AIの台頭による後押し

また、消費者タッチポイントの数が急増し、関連するコンテンツと体験をブランドに求める声が高まっているいま、この流れをさらに変えるAIツールも登場しつつある。「AIは人々の創作活動に大きなエネルギーを与えている。デザイナーや絵コンテアーティスト、ビデオグラファーなどの作業を効率化し、彼らが創作に情熱を傾けるのを助けている」と、クリーチ氏は語る。

しかし、これは氷山の一角にすぎない。

体験エージェンシーのモメンタム(Momentum)でグローバル最高技術責任者を務めるジェイソン・アラン・スナイダー氏は、ひとりの消費者のアイデンティティーがさまざまなソーシャルチャネルに点在する複数のパーソナリティーと結びついており、これらのパーソナリティーは根本的に異なっている場合もあるという現象が、急速に広がっていると指摘する。

しかも、こうしたパーソナリティーはやがて、ゲーミングプラットフォームや新興テクノロジーを介してWeb3へも広がり、これによってさらにアドレサブルな機会が生まれてくる見込みだという。「難しいのは、仕事のパーソナリティーもあれば、たとえばドラゴンといったような、人間ですらないゲームのパーソナリティーもあるという点だ。おまけに、グループに公開するソーシャルのプロフィールや、また別のグループに公開する家族のプロフィールもある」と、スナイダー氏は語る。

ブランドが、こうしたチャネルすべてのこれらのパーソナリティーすべてに文脈的な関連性を持つためには、コンテンツを生成、自動化、増強するための機械学習ツールやAIツールといった、まったく新しい技術スタックに投資しなければならなくなるだろう。「こうしたツールや技術、それらをスタックに組み込んで使いこなせる人材を取り入れるために、時間をかけて投資してこなかったのであれば、いつかは大きな投資が必要になる」と、スナイダー氏は付け加える。

だがそれは、単価の問題や新しい何かをプロダクションサイクルにただ加えればいいという問題ではないと、同氏は言い添える。「単一のアイデンティティーではなく、複数のパーソナリティーの垣根を越えて有意義な形で人々と繋がり、コンテンツを届けるためにも、プロダクションサイクルを再定義し、入ってくるシグナルインテリジェンスを再考することが大切だ」。

[原文:Inside the cost of social fragmentation

Lisa Lacy(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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