「中小事業者にアセットが貯まることを第一に考えている」:STORES代表・佐藤裕介氏が語る、プロダクト開発にかける思いとGoogleでの取り組み

DIGIDAY

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ネットでモノを買うのが当たり前になって久しいが、そのあいだに販売チャネルは多様化し、消費者の選択肢は一気に広がった。以前であれば、楽天市場やAmazonといった巨大ECモールや、有力メーカー、小売店などが運営するECサイトを利用するのが一般的だっただろう。ところが、10年ほど前から誰でも簡単にECが始められるネットショップ構築サービスが相次いで登場したのに加え、「メルカリ」に代表されるフリマアプリもスタートし、消費者は個人を含む中小事業者からダイレクトに商品を買う機会が増えた。

中小事業者にとっては、ECモールに出店しなくても低コストでネットショップを運営できるようになったことは、単に販売機会が増えただけでなく、顧客名簿を獲得できるという点で非常に大きい。ECモールには圧倒的な集客力という強みがある一方、モール内でどんなに多くの消費者が商品を購入してくれても事業者側に顧客名簿は残らない。

ネットショップ構築サービスを手がけるSTORES代表取締役社長の佐藤裕介氏は「中小事業者にアセットが貯まることを第一に考えながらプロダクト開発をしている」とした上で、「ネットショップ構築サービスは機能のひとつでしかない」と言い切る。実際、同社は消費行動の変化に合わせて、POSレジやオンライン予約システム、店舗アプリ作成サービスなど、実店舗のデジタル化を支援する機能を、M&Aを軸に拡充してきた。

今や、オンラインとオフラインを行き来して情報収集をし、商品を購入するようになった消費者に対し、事業者もタッチポイントをフル活用してリーチする必要性がある。STORESは、豊富な消費者接点を持ち、商品と店舗にシームレスにアクセスできる仕組みを持つGoogleからこのほど資金調達を行い、中小事業者の集客力強化につながる新機能の提供も始めた。STORESの機能拡充の背景やGoogleでの取り組みなどについて佐藤氏に聞いた。

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大手企業に負けないシステムを構築

――2023年2月に創業5周年を迎えた。

キャッシュレス決済(現STORES決済)のコイニーとネットショップ構築サービス(現STORES)のストアーズ・ドット・ジェーピーをグループ化し、事業持株会社のヘイが誕生したのが2018年2月で、それから丸5年が経った。母体になっているコイニーは2012年3月に創業して2013年4月にサービスインしているので、そこからだと10年になる。ヘイからSTORESに商号変更したのは2022年10月のことだ。

コイニーはオフラインの中小事業者向けに、キャッシュレス決済がリスクなく簡単に導入できることを強みに事業拡大してきた。コイニーがスタートした当時、キャッシュレス決済の手数料率を開示している企業はなく、売り上げ規模などによって料率が変わる業界だった。中小の加盟店は料率の交渉力が弱いので、コイニーは料率を一律にしつつ、中小加盟店をとりまとめてコイニーが一定のリスクを負うことで、料率が下げられる状況を作った。

――そこからネットショップ構築サービスをグループ化したのはなぜか。

消費者が求めるショッピング体験を提供することが中小事業者の命題のひとつだからだ。近年の大きな変化として、消費者が日々を過ごす場所がデジタル空間に移っていったことが挙げられる。メディアについても接触時間の過半はデジタル媒体に移っている。情報を探したり、感情が動いたりする瞬間の半分はデジタル空間で起きている。

そうなると、実店舗を出店してその商圏内のお客様を相手に商売をしていくだけでは、半分の接触機会しか得ることができない。若い人に限っては70%以上をデジタル空間で過ごしていて、若い人たちが年齢を重ねていけばさらにデジタル空間で過ごす割合が高まっていく。デジタル空間での購入オプションを提供できない事業者は、市場に存在しない店としてカウントされてしまう状況がこの先起きてくる。

キャッシュレス決済はもちろん重要だが、中小事業者が消費者の変化に合わせて自己変革をできるようにするには、キャッシュレス決済だけだと片手落ちだ。オンライン販売のオプションを持つことで新しい価値を提案できると思い、ネットショップ構築サービスを手がけていたストアーズ・ドット・ジェーピーを経営統合した。

――その後もM&Aを軸に機能を拡充してきたが、どのような背景があったのか。

消費者の変化に合わせて、必要な部品を足していった感じだ。当社にとってネットショップ構築サービスはひとつの機能でしかない。中小事業者向けの変革ツールをいかに提供していくかを考えてきた。

社内人材やパートナー企業の選択肢が多い大手企業とは異なり、中小事業者が消費者ニーズに常に適合していくのは難易度が高い。システム投資だけを見ても、店舗数が少なければ投資効率は悪くなる。そこで、当社のようなソフトウェアの会社がトータルの導入店舗数を強みに大手企業に負けないシステムを構築し、消費者の変化に対応できるツールを提供したいという思いで取り組んできた。

具体的には、POSレジの「STORESレジ」や、店舗アプリ作成サービスの「STORESブランドアプリ」、オンライン予約システムの「STORES予約」を追加してきた。サービス系事業者にとってのEC化はオンライン予約だったりするので、オンラインでお店を見つけられて、予約を受けられる機能も持った。

5年で流通額は5.6倍に成長

――5年間でSTORESを使う事業者数や流通額は大きく伸びた。

2018年1~3月期と2022年10~12月期を比較すると、STORESを活用する事業者数は4.3倍に、流通額は5.6倍になった。また、STORESが提供するサービスのうち、ふたつ以上のサービスを組み合わせて利用している事業者は、プロダクトが増えていることもあって31.6倍になった。

5年間の前半は、どちらかというと個人が独立したり副業で始めたりするマイクロビジネスの支援が中心だった。それまでの小売ビジネスは実店舗が中心で、ある程度の初期投資が必要だったが、「STORES」など簡単にネットショップを開設できるツールと、ソーシャルメディアを使った新規顧客開拓をセットに、直接、消費者との接点を持つ新しい市場が立ち上がってきた頃で、そうした市場に後押しされてきた部分が大きい。

――コロナ禍での変化はあったのか?

5年間の真ん中あたりでコロナが始まった。消費者が実店舗に来られないという強制的な変化に対応しなければいけないなかで、法人として実店舗を構える中小事業者の課題が顕在化し、当社サービスに関心を持ってもらえた。

足もとではコロナの勢いは落ち着いてきたが、消費者は変わったままだ。街に出るようになっても、オンラインでモノを探す行動はコロナ禍で習慣化されたと思う。そうなると、事業者はECという販売オプションと実店舗のオペレーションを効率化して無理なく両立させることが求められる。

実店舗にも行くし、ECも利用する消費者からは、両チャネルのポイントを合算してほしいというニーズが出てくる。事業者としても、両チャネルで顧客の情報がバラバラだとCRM施策を展開する際のコスト効率が悪くなるので、シームレスに連携する必要があり、今後はこうした課題解決に力を注ぐ。

佐藤裕介(さとう・ゆうすけ)/STORES 株式会社 代表取締役社長。2011年、株式会社フリークアウト(現:株式会社フリークアウト・ホールディングス)に創業メンバーとして参画。代表取締役社長を経て、2018年にヘイ株式会社(2022年10月「STORES 株式会社」に商号変更)を創業。フリークアウト創業以前はGoogleにて広告製品を担当。

――サービスを開発する上で大事にしていることは?

中小事業者にアセットが貯まるようにすることだ。以前、ECで商品の販売を行う際、大手企業以外はECモールに出店するのが一般的だった。サービス系事業者で言えば、やはり大手の販促メディアに掲載する形だったと思う。インターネットは新規顧客を送り込んでくれる蛇口であるという考え方が以前はあった。

確かにECモールなどのプラットフォームに出店すれば、新規顧客を獲得できたりするが、結局のところそれは自社の顧客ではなく、プラットフォーマーの会員だ。自社の商品を購入してくれた消費者であっても、メールも自由に送れない。もう一度、顧客にアプローチしようとするとコストがかかる。

売り上げは作れてもプラットフォーマーに手数料や広告費などを払い続けながらビジネスをしなければならず、頑張ってもアセットが貯まらない仕組みだ。本来、リピートしてくれる消費者に顧客獲得コストは発生しない。リピート顧客が増えることで経済合理性が高まるはずなのに、ECモールではなかなかそうはならない。

自社の顧客は自社で管理できるのが望ましく、頑張った分だけマージンが改善される世界を実現したいという思いでプロダクトを開発している。プラットフォーマーは消費者と出店企業をマッチングさせるため、どちらの利害も大事だが、とくに消費者の利害を優先する傾向が強い。当社は、直接的な集客支援をしない代わりに、事業者側の利害にフォーカスできるという構造的な立場の違いがある。

STORES利用事業者の集客支援を強化する

――「Googleで集客」という新機能の提供を始めた。

Google検索のショッピングタグで表示される商品も、ECモールで取り扱っている商品の露出が目立つ。というのも、中小事業者がGoogleと直接APIで接続したり、Googleショッピングタグを管理するGoogleグーグルマーチャントセンターに商品情報を登録したりするのは手間がかかって現実的ではないからだ。

Googleで集客」を活用すると、STORES利用事業者はこれまで通りのオペレーションで、Googleマーチャントセンターに商品データが流れるようになる。当社が直接集客をするわけではないが、STORESで販売する商品がGoogleの無料リスティング枠に掲載されることで、消費者の目に触れる機会が増える。

――Googleプロダクト活用の次のステップは?

GoogleビジネスプロフィールというGoogleが提供している情報管理ツールとも2023年中に連携していく予定だ。ビジネスプロフィールに登録すると、正確な店舗情報などがGoogleマップやサーチエンジンの検索結果に表示される。

Googleの検索結果を見て実店舗に行く人もいるので、STORESの商品情報と連携することで在庫情報もリアルタイムに分かるようになれば、さらに使いやすくなる。

――今回、Googleからの資金調達まで踏み込んだ理由は?

消費者がデジタル空間で過ごす時間が増えるなかで、Googleの存在感は非常に大きい。サーチエンジンはもちろん、Googleマップも非常に利用されている。飲食店などを探すときも、専門メディアよりもGoogleマップの方が、トラフィックが多くなってきた。YouTubeも利用者が多く検索にも使われていて、Googleの影響力はさらに強まるはずだ。

Googleマーチャントセンターとの自動連携は、単純にサービス連携するだけでもできるが、より踏み込んで、STORES利用事業者の商品データとGoogleの消費者接点との連携のようなものを一緒に作っていきたいという思いがあって、一定の資本関係を持つ方がいいと判断した。

――2023年に重点的に取り組むことは?

実店舗を運営しながら同時にECの販売オプションを持つ中小事業者が増えているので、実店舗とECの両立を大幅な人員増を伴わずに実現できるようにしたい。POSレジとEC機能を同時に使ってもらうと両チャネルの運営が楽になるとか、ブランドアプリとEC機能を使ってもらうと顧客管理が楽になるといった具合に、当社プロダクト間の連携強化と、複数プロダクトでのソリューションの提案に力を注ぎたい。

これまで、プロダクトそのものはM&Aで獲得してきたものも多いので、マスターのデータベースを統合したり、操作画面そのものを統合して分かりやすくしたりするなど、地味な取り組みであっても中小事業者の運用負担を減らせるようにしたい。

Written by 神﨑郁夫

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