SNS 利用ポリシーを出したガネット、社内から反発の声:「誰も『最高裁なんてくそくらえ』とはツイートしない」

DIGIDAY

中絶の権利を認めるロー対ウェイド判決を米連邦最高裁判所が覆したことを受け、ニュースパブリッシャーのガネット(Gannett)がジャーナリストの個人的な意見投稿を禁じて批判を集めていたが、同社では現在、そのソーシャルメディアポリシーに関して社員から寄せられたフィードバックを整理している。

6月24日に米最高裁の判決が下ったあと、USAトゥデイ(USA Today)の親会社であり、全米45の州で250紙を超える日刊紙を所有するガネットは、ほかの数多くのメディア企業と同様に、従業員の福利厚生への影響に関する社内メモと、ソーシャルメディアポリシーを再確認する社内メモをメール配信した。ソーシャルメディアポリシーについてのメモでは、最高裁判決についてジャーナリストが公に立場を表明することを禁止すると同時に、同僚がそのようなメッセージを投稿しているところを目撃した場合は、上司に知らせることを求めている。

メールには「、候補者を批判・攻撃するなど自分の政治的な立場を示したり、判決に関する個人的な感想を表明したりするためにソーシャルメディアを利用してはならない(ニュース編集室の同僚が不適切なコメントを投稿していることに気づいたら、ただちに上司に知らせること)」とあるほか、「特定の政党や団体を支持しているように見える」投稿に対する「いいね」やリツイートを「控える」ことをジャーナリストに呼び掛けている。

ガネットの広報担当者は、ガネットのジャーナリストの行動指針として同社の「倫理的な行動の原則」があり、その原則が「当社のソーシャルメディアポリシー全体にも反映されている」とメールで語った。ソーシャルメディアポリシーを公開しているメディア企業もあるが、ガネットはガイドラインを社内でのみ共有しているニュース企業のひとつだ。

社員たちの反応

この社内メモへの反応は早かった。Twitterには客観性の概念を論じるスレッドがいくつも出現。ほとんどの大手報道機関は、ジャーナリストに偏りがあると思われると報道機関そのものの信頼性が損なわれるとして、ジャーナリストに政治的立場の表明を禁じているが、公民権や人権の問題となると、その指針もあいまいになってくる。ジャーナリストたちがブラック・ライブズ・マター運動を公に支持し、ジョージ・フロイド氏殺害事件後に人種差別に対する抗議に参加したときも、同様に緊張した空気があった。

匿名を条件に米DIGIDAYに話を聞かせてくれたガネットの社員たちは、同社の今回の対応に落胆したと語る。ある社員は「『法の下で女性も当然平等に扱われるべきである』といった基本的な発言は、政治的な意見ではない。あたりまえの事実だ」と話した。

彼女は、社内メモを、社員たちが最高裁の判決に動揺しているさなかではなく、判決が決まった週の前半など、別のタイミングで出してほしかったという。「個人的には、タイミングが悪かったように思う」。

別の社員は次のように話した。「個人的な感情を明かすな、というのではなく、社内のダイバーシティを示してそれに誇りを持つという意味で、私たちもそれぞれひとりの人間であり、その経験がいかに報道を支えているかといった思慮深い話し合いを奨励すべきだと思う」。

この社員は、「誰も『最高裁なんてくそくらえ』とはツイートしない。どちらかというと『このようなことが自分に起きて、これは自分にとって重要なことで、自分のヘルスケアにとって害となる』という論調になる」と述べた。

社内では議論が進む

ガネットの社員によると、6月24日以来、ソーシャルメディアポリシーの話題は社内の各種委員会やグループミーティングで取り上げられている。ガネットの規範担当バイスプレジデントに直接フィードバックを送るようにいわれた社員もいる、と2人目の社員は話す。最初の社員の話では、さまざまな従業員リソースグループ(ERG)でも同ポリシーに関する話し合いが行われ、社員が考えを共有できる場となっているそうだ。

ガネットのソーシャルメディアポリシーを巡って社内でさまざまな議論が進められているにもかかわらず、ガネットのスポークスパーソンは「差し迫ったポリシー変更はない」と述べ、「スタッフの懸念に耳を傾け、節目的な時期(ドブス/ロー対ウェイドなど)には追加的にガイダンスを提供できるように取り組んでいる」と続けた。

また、「フィードバックに基づいてガイダンスを追加すべきときがきたら、ガイドライン改訂を決める」とも付け加えた。

ガネットの2人の社員は、こうした話し合いや、ガネット幹部とフィードバックを共有できることは、今回の騒動のひとつの利点だと感じている。これが、今後こうした状況を扱うときのための改良ときめ細かな対応の土台づくりにつながるかもしれないからだ。

2人目の社員は、最高裁の判決の数日前にUSAトゥデイの編集長が自分の母親が1970年代に中絶したことについて書いたコラムに触れた。

「それは『判決に反対だ』ではなく、この問題がどのように自分に影響を与えたかという個人的な回顧だった。会社のポリシーの文言では、このように投稿してもよいものは何か、よくないものは何かを判断することが難しい」。この社員は、同僚やガネットのニュース編集室の多くの幹部が「私たちが経験してきたことと、それがどう私たちを助けているか」を語ることを歓迎していると話し、それとソーシャルメディアに関するガイドラインとを両立させようとするときに、混乱を感じることがあるという。

ガイドラインを再確認する各社

最高裁の判決が出たあとに、ソーシャルメディアガイドラインをスタッフに改めて示したのはガネットだけではない。

アクシオス(Axios)ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)も24日、会社のソーシャルメディアポリシーについてスタッフに再確認し、偏っていると見られかねない意見を控えることの重要性について釘を刺している。6月30日には、ワシントン・ポスト(The Washington Post)がソーシャルメディアガイドラインを改訂したことをデイリー・ビースト(The Daily Beast)が報じている。改訂では、同紙のジャーナリストに対し「職務上明確に必要である場合を除き、ソーシャルメディアプラットフォームに関わったり、そこで発信したりする必要を感じるべきではない」とし、ソーシャルメディアを「個人的な不満を訴える」場として使用しないように促している。

[原文:Gannett reviews employee blowback to social media policy memo after Roe overturn

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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