インフレ下で広告費は増加傾向も、 デジタル広告費 は鈍化気味

DIGIDAY

役員会では、広告がますます優先議題として扱われつつある。

不況下に広告を出し続ける最高経営責任者(CEO)こそ、最終的には業界のトップに立つという主張は厳しい時代になるとよく聞く話だ。しかし、このような見方をする最高財務責任者(CFO)はほとんどいない。なぜなら、広告宣伝費は変動費であり、すぐに止めることができるからだ。これは、マーケティングの世界で最も長く言われ続ける決まり文句のひとつであり、さまざまな意見書や会議の基調講演、研究報告などで、企業に反対のことをするように促しても、このような状況が変わることはなかった――今までは。

しかしながら今回の不況は、多くの場合とは異なることがわかってきた。

広告費を維持・増加している企業は?

IAB Europe(以下、欧州IAB)のチーフエコノミストであるダニエル・ナップ氏は、2023年2月初めに行われた四半期予測の電話会議で、「広告費は経済成長と相関するが、パンデミック以来、リニアな相関ではなくなってきている」と述べ、「さらに、広告には単に全体的な経済成長以外の、モチベーションやけん引要素がある」と続けた。

広告は、かつてそう認識されていたほど、経済情勢と連動してはいない。

広告費を削減する理由は明らかだ。暗号通貨市場の崩壊、自動車業界が継続的に抱える課題、市場の統合などは、その証拠となる。一方で、広告費を維持し、場合によっては増やしているマーケターも大勢いる。今回は、最大手の広告主が最新の決算報告でどのように自社の広告計画を説明したかを紹介する。

  • コカ・コーラ(Coca-Cola)は、今後1年間の広告費について、実際の数字は挙げていないものの、広告費は増えていると説明している。
  • クラフト・ハインツ(Kraft Heinz)は、これまでピンチのときにはもれなく広告費を削減してきたが、今回はまったく逆で、2023年に広告費を増やすと述べた。
  • ユニリーバ(Unilever)は、2022年に広告費を5億ユーロ(約725億円)増額した後、「2023年に再び拡大するだろう」と発言。
  • プロクター&ギャンブル(Procter & Gamble)は、前四半期については売上に占めるメディア支出を減らしたが、全体としては広告に投入する資金を増やしている。
  • そのほか、コルゲート(Colgate)は今四半期に広告費を3%増やしたが、売上に占める広告費の割合はわずかに減っている。

広告業界の見通しはよくみえる

奇妙に聞こえるかもしれないが、これらの企業には広告費を削減する余裕がない──。多くの企業が増収減益を覚悟しているいまはとくにそうだ。過去の不況時に行っていたような、利幅を守るためのコスト削減は、おそらく持続不可能だと判断したのだろう。その代わりに、商品価格の大幅な上昇分を消費者に転嫁し、彼らがより高い小売価格を支払うと信じて、それを受け入れざるを得なかった。

広告を出せばそれが容易になる。厳密にはまだ不況に陥っていない市場では、なおさらだ。広告主にとって、いくつかの大きな市場ではインフレがピークに達しようとしているように見え、それは小さな、しかし、歓迎される需要の後押しとなる。今回のインフレは、市場によって供給主導型と需要主導型に分かれるにもかかわらず、雇用は耐性を保っている。たしかに、そうでないことを示唆する雇用削減は業界全体で行われているが、そのほとんどは、実際の経済的ストレスというよりも、パンデミック時の過剰雇用を是正した結果であることは間違いないだろう。広告業界全体の見通しがよくなっていることは言うまでもない。

WPPのCEOであるマーク・リード氏は、グループの最新の決算報告で次のように述べている。「我々は、我々の指針に自信を持って2023年に臨んでいる。2022年に比べると少し軟調ではあるが、これは予想されたことだ。そして、この結果は2022年末に発表されたアナリストの予想を大幅に上回っている」。

広告支出を鈍化させる3つの課題

リード氏がこう言うのも当然だ。メディアアナリストで元グループエム(GroupM)のビジネス・インテリジェンス担当グローバルプレジデントを務めていたブライアン・ウィーザー氏は、自身のニュースレター「マディソン・アンド・ウォール(Madison and Wall)」で、「不況ではない世界でインフレ率が高いということは、マーケターの売上が増えるということ、つまり広告への支出やエージェンシーへの出費が増えることを意味する」と説明している。

とはいえ、リード氏の見通しは、広告業界が2023年を無傷で乗り切れることを意味するものではない。マーケターは依然として、「メディアのインフレ」「乱高下する経済」「広告の責任の重要性の高まり」という3つの大きな課題に取り組まなければならない。これは、最もリベラルな広告支出者にさえも、二の足を踏ませるのに十分な状況だ。

加えて、楽観的な成長予測の背後に多くの警戒心がある理由を説明する一助となる。何よりも、すべてが等しく成長していないことが挙げられる。広告成長のかなりの部分は、メディア価格のインフレにけん引されている。一例を挙げよう。欧州IABは、今年の欧州のデジタル広告費は名目で2.1%成長すると考えている。つまり、この数字をインフレ率で調整すると、デジタル広告市場は緩やかな収縮に直面する可能性があるということになる。

現実的にはデジタル広告にブレーキがかかる

しかし、景気後退はすでに始まっている。その兆候は、2022年第2四半期にはすでに現れており、それ以降も増え続けている。たとえば、前四半期を見てみよう。検索広告は減少し、ソーシャルメディアへの支出は激減している。動画広告でさえも打撃を受けている。デジタル広告にブレーキをかけているマーケターがいるのは明らかだ。そのため、従来のオンラインメディアの二強(Googleとメタ[Meta])と、潜在的な新たな二強(AppleとAmazon)とのあいだに、さらなる格差が生まれつつある。

「ユーザーがAmazonにアクセスした場合、購入に至る可能性ははるかに高く、広告主には可能な限り最新のインテントシグナルが供給される」と、ロースト(ROAST)のペイドメディア部門責任者ウィル・ジェニングス氏は述べる。「このクローズドループな環境はAmazonに優位性をもたらし、本質的に自社プラットフォーム内で需要と供給を生み出している」。

[原文:Quarterly ad spending recap: Green shoots of ad spending growth will take time to bloom

Seb Joseph(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)

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