エージェンシー クライアントのKPIが進化:従来型のメトリクスに再フォーカスか

DIGIDAY

コロナ禍後、ブランド勢がリテールメディアで拡大を図り優先順位を変えるなか、エージェンシー勢もパフォーマンスメトリクスの提供法を変えつつある。

ある意味、これは不可避だった。デジタル業界の変容が広告を形成するなか、クライアントは没入型コンテンツやソーシャルコンテンツからコネクテッドTVに至るまで、トレンドを反映したさまざまなメトリクスを求めている。そして、コロナ禍が変えた日常が依然、消費者トレンドに影響を及ぼしているいま、エージェンシーおよびブランド勢は、ここ数年のあいだに陰に追いやられていた一部のメトリクスを再び優先する必要性に気付きつつある。

エージェンシーのKPIはこれまで、広告支出へのリターンやクリックスルー率を最重視していたかもしれないが、いまや多くがほかのメトリクスの可能性をクライアントと共に掘り下げている。「最近の焦点は広告支出や投資へのリターンから、ニュー・トゥ・ブランド(new-to-brand)と顧客生涯価値に移っている」と、ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)のCOOであるエイミー・ランジ氏は説明する。

「初期は費用対効果にほぼ終始していた。そしてそれは、我々が越えることを切実に求められるものでもある」と、同氏はDIGIDAYに話す。「それは、社会が消費者の役割という点でどれくらい変わったのかを見ればわかる。デジタル上で買物をしている人がいる一方で、一部の人は実際、物理的店舗で買い物をしている」。

ROIを越え、新規顧客の獲得に注目

ROIがもはや重要ではない、という話ではない。ただ、「トータルセールスを、そして自身のクライアントがそれについてどう話したいのかを理解するためには、そこを越えて行かねばならない」と、ランジ氏は言い添える。「いずれにせよ、これだけは言える。2月に我々のクライアントの足並みに明らかな変化が見られた。なかでもニュー・トゥ・ブランドのメトリクスについては顕著だった」。

Amazonやインスタカート(Instacart)といったデジタルマーケットプレイスの場合、クライアントはバーチャルへの投資が新規顧客を獲得できるか否かに注目している。「新規顧客は新たな売上に繋がる新たな通路」と、ランジ氏は話す。リテールメディアにおいて、同氏のエージェンシーがKPIとして重視しているのは、ニュー・トゥ・ブランドとインクリメンタリティにフォーカスしている場だ。そうすることで、そのマーケットプレイスでのみ購入する新しい消費者を獲得できるかもしれないことをクライアントに伝えているという。

コマース界では一方、ピュブリシスがマルチタッチアトリビューションのデータの拡充もしていると、同社のコマースプロダクトストラテジー部門トップであるポール・ウィリアムズ氏は話す。同氏いわく、Amazonのアドテクチームと提携し、マルチタッチアトリビューションの計測を目的とした共同プロダクトの開発に勤しんでいるという。マルチタッチアトリビューションは近年、関心の高まりと薄れを経験したが、このところ再びクライアントの興味を引いている。

「クライアントはさまざまなチャネルへの投資や、メディアミックスの手法についてより総合的に考えるようになった。コマースがほかのマーケットやこれまでメディアを運営してきた身近なチャネルに対して、どのような役割を果たすのかをモデル化している」とウィリアムズ氏はいう。「ソーシャルサーチおよびプログラマティック独自のパフォーマンスマーケティングレーンが多数、コマース界に進出しはじめている」。

クライアントからの要望は高まる

Amazonではたとえば、ユーザーによる最後のタッチポイントが評価を総取りするようデフォルト設定されており、ひとつのスポンサードプロダクト広告がアトリビューションを100%手にする。だが、Amazonとピュブリスは現在、「異なるデータセット(たとえば、Amazonマーケティングクラウド[Amazon Marketing Cloud]からのものなど)を融合し、複数のタッチポイントに評価が分散されるよう試みている」とウィリアムズ氏は説明する。それにより、マーケター勢は究極的に、アッパーとローワーの両ファネルのパフォーマンスの差をより明確に掴めることになる。

「これはあくまで一例だ。クライアントからの要望がますます高まったKPIの進化形に、我々が本腰を入れて取り組んでいることがわかると思う」と、同氏は付け加える。

また、ランジ氏は言う。「リテールメディア関連のクライアント(主に投資する資金はそれほどない大企業勢)からの圧力が高まることになると思う。つまり、収益はもっと上げたいが、そのやり方は効果測定の観点でどうなのかと、何度もくり返したずねてくるわけだ」。

新旧データの融合

オムニコムメディアグループ(Omnicom Media Group)の傘下、PHD USAのCOOであるマイケル・ソロモン氏も同じく、リテールメディアがクライアントの望むKPIの形態に影響を及ぼしていると話す。ROASおよびメディアミックスモデリング(MMM)データを越えたいという欲求があると、同氏も認める。そして、事実としてより進化したさまざまなツールと大量のデータはすでに存在しており、それらを駆使すれば、「エージェンシー勢の効果データの収集および報告を向上させられる」とも思われているという。

KPIの進化の形は、クライアントが組織内でデータをどう使うかによっても変わってくる。「さまざまなクライアントがおり、さまざまに異なるジャーニーがある。ただ、そこにはいわゆる壁やサイロ(分断)が存在する」と、ソロモン氏は言う。

ホリスティックデータに向かう動きは、すでに生じている。マーケティングおよびパフォーマンス分析や、組織の別部門におけるほかの消費者データなどをひとつにすることで、より豊かな営業成果の図を描く、という動きだ。ソロモン氏いわく、「それはどれも既存のデータだが、今それらの統合が具現化されようとしている」。

従来型のブランドメトリクスの一部に再フォーカス

独立系メディアエージェンシーであるフィッツコ(Fitzco)のストラテジー部門トップ、デビッド・メイタシア氏は、「このところ、コロナ渦中に主流だったパフォーマンスメトリクスから、ブランドアウェアネスやアトリビュートといった、以前に人気を博したメトリクスに焦点が移っている」とも指摘する。

「ここ数年は誰もがパフォーマンスマーケティングに傾倒していたが、2023年はそれが変わりつつある。孤立とサプライチェーン問題、そして売上急落に揺れたコロナ禍のなかからどうにかして需要を引き出すため、当時はそれが必要だった」とメイタシア氏はいう。「私に見つけられる最も効率的なバイヤーおよびショッパーを、誰もがとにかく求めていた」。

同氏によれば、フィッツコはトップオブファネルの効果測定に再フォーカスしており、ブランドアウェネスメトリクス測定への回帰をクライアントと協議しているという。「古きよきアウェアネスメトリクスがどう動いているのか? いま、多くの関心はそこにある」と同氏は語る。「メトリクスは、必ずしも新しいものでなくていい。人々がファネルの底(ボトム)にばかり注目していた時に忘れ去っていた、従来型のブランドメトリクスの一部に対する再フォーカスおよび再優先が、起きているのだと思う」。

[原文:Agency clients’ KPIs evolve with a focus on retail and post-pandemic economy

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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