D2C ブランドは卸売へ方向転換。次なる課題とは?【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

D2C革命は、オールバーズ(Allbirds)やグロシエ(Glossier)、パレード(Parade)など、いくつかの巨大ブランドを生み出した。だが、2021年のeコマースブームが2022年末に沈静化してからは、同じD2Cの主力ブランドの多くが成長を維持するために卸売に転じている

2月上旬、D2Cフットウェアブランドのグレイツ(Greats)は、盛り返しを図るためD2Cへの注力を止めると発表した。同ブランドのプレジデントであるブライアン・クラウス氏は、顧客からの認知度を回復すべく、「卸売りに行く必要があった」と語っている。また時を同じくして、ホームブランドのグローブ・コラボレイティブ(Grove Collaborative)やスキンケアブランドのフューチャーワイズ(Futurewise)といった他のD2Cネイティブのブランドが、ターゲット(Target)、ウォルマート(Walmart)、Amazonなど大手小売業者とのパートナーシップをローンチした。2月頭には、D2Cランニングブランドのオン(On)が、ノードストロム(Nordstrom)やJDスポーツ(JD Sports)との提携を深めると述べている。

店に商品を置くだけで、ブランドは多くの目に触れるようになる

デジタル広告や顧客獲得のコストが高騰するにつれ、ファッションブランド、それもD2Cのみだったブランドにとって、卸売はこれまで以上に魅力的な選択肢となっている。だが、オールバーズのようなブランドも卸売りに価値を見出しているにもかかわらず、いまだ課題もある。

たとえば、サードパーティを介して製品を販売することで、クリエイティブのコントロールが失われるのが耐え難いと思う人もいる。

「顧客には私の服を体験してもらいたい。いくつかのこうした小売業者はあまりにも巨大なので、よい経験がまったく得られない」と述べたのは、デザイナーのナイーム・カーン氏だ。彼はバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)などの大型デパートや小規模ブティックなど、100%卸売りチャネルで販売している。「ひとりの医者が50人の患者を診ているようなもので、患者ひとりに対して5分しか与えられない」。

とはいえ、多くの業界関係者にとって、このコントロール不能な面には欠点を上回るメリットがあるのだ。

フルストライドベンチャーズ(Full Stride Ventures)のマネージングディレクター、キャロライン・レヴィ氏いわく、D2Cブランドにとって卸売りの主な魅力は、デジタル広告にくらべてわずかなコストで何千人もの人々に見てもらえることだ。フルストライドベンチャーズは、D2Cのアンダーウェアおよびランジェリーブランドであるカインドリー(Kindly)とアドアミー(Adore Me)のローンチを支援したが、どちらのブランドものちに卸売りへと方向転換している。ソーシャルコマース企業のシンプリシティDX(SimplicityDX)によれば、サードパーティクッキーの終焉によって、顧客獲得コストは昨年から200%以上増加している。

「店舗に商品を置くだけで、ブランドはもっと多くの人の目に触れるようになる」とレヴィ氏は言う。「3000店舗に進出できれば、マーケティングを一切しなくても多くの人がブランドを目にするようになる。そしてその人たちが製品を気に入れば、最初の購入後に直接ブランドから買おうとするかもしれない。マーケティングチャネルがうまく機能しないときに、卸売りはスケールを与えてくれる」。

もちろんウォルマートのコネクト(Connect)やターゲットのサークル(Circle)といったプラットフォームのように、小売業者も独自の自社広告ツールを提供し始めている。後者は、D2Cスキンケアブランドのアプトス(Aptos)が、昨年夏に卸売市場に参入した際に使い始めた重要なツールだ。

卸売りでもクリエイティブなコントロールを保つ方法

D2Cの卸売への転換についてGlossyが独自に行った調査では、卸売がブランドにとって大きな成長要因であることを確認している。2022年11月のGlossyによる調査への回答者は、過去1年間で、卸売経由の売上が他のどのチャネルを通じた売上よりも増加したと述べている。62%の人が、このチャネルの売上が少なくとも多少上がったと回答した。それに対して、同じ期間に直販の売上が増加したと答えたのは53%だった。また、そのうちの80%のブランドが、その後の1年間に卸売ビジネスが成長することを期待していると述べている。

レヴィ氏が一緒に仕事をしているブランドは、卸売りでクリエイティブ面の制御ができない点を回避する方法をいくつか見出しているという。たとえば、商品のパッケージやラベルに、ブランドのアイデンティティとメッセージをできるだけたくさん詰め込むという方法もある。フルストライド・ベンチャーのブランドのひとつ、カインドリーの場合は、最大の卸売パートナーであるウォルマートでほかのアンダーウェアブランドと差別化を図るために、製品をブランド名の入ったハンガーにかけて販売している。

ブランドがこの問題を回避する別の方法は、卸売戦略を大規模な総合小売店にフォーカスするのではなく、特定の分野に特化した小規模な専門小売店に注力することだ。たとえば、D2Cを中心とするデニムブランド、ジャスト・ブラック・デニム(Just Black Denim)は、ニューヨーク州北部のマリア・ルイザ(Maria Luisa)やミズーリ州スプリングフィールドのキャロル&ケイ(Carol & Kay)など、1700店以上の独立系ブティックで取り扱われている。だが、大手デパートには入っていないと、同ブランドの担当者は言う。

「消費者に信用され、愛されている近所の店に商品が置かれることで、ブランドは新たな小売との関係性を築いて消費者の信頼性を高め、足跡を広げることができる」と、卸売マーケットプレイスのフェア(Faire)のCFO、ローレン・クックス・レヴィタン氏は述べている。

「人々に愛されているブティックの棚スペースは、そのコミュニティの本来のインフルエンサーであり、トレンドセッターだ。特にD2Cマーケティングがますます高価になり、競争的で信頼できないものになりつつある中で、そうした店の棚はD2Cビジネスを促進させるすばらしい役割を果たす」。

ネックとなるのは最低発注量の規模

また、ほかのかつてのD2Cブランドも大型店のパートナーに加えて、専門小売店に目を向けている。

自身の名を冠したブランド、タクーン(Thakoon)のデザイナー、タクーン・パニクガル氏は、昨年、「いまはD2Cだからといって、小売の他の部分に関与できないということにはならない」と述べている。「私たちは(2022年に)ノードストロムの旧友たちと販売を開始し、いくつか国内の専門店にも関心を寄せている」。

当然ながら卸売のもうひとつの大きな欠点は、在庫規模という回避策が少ないことにある。小売業者は、D2Cブランドには達成が難しい最低発注量を設定していることが多い。

「大量の製品を作らなければならないことが多く、若い企業にとってはそれがリスクとなる」とレヴィ氏は言う。「100点の小ロットを作っていたのが、大型小売店から数千個作るように言われる方向へと移行するのは、大きな挑戦だ」。

[原文:Fashion Briefing: DTC brands are going wholesale, but not without challenges]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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