小売企業でのCMOの役割が変化している:顧客体験と顧客維持をより重視するように

DIGIDAY

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小売業者は経営役員を改編し、CMOやその他のマーケティングに関連する役割を修正し、顧客体験により焦点を当てようとしている。

マルチブランド小売業者のエッセンス(Ssense)は9月、オムニチャネルエクスペリエンスの改善をめざし、初の最高顧客責任者としてダニエル・ハバシ氏を任命した。一方でターゲット(Target)は、顧客体験をさらに発展させるため、チーフマーケターのカーラ・シルベスター氏を新設された最高ゲストエクスペリエンス責任者という役職に任命した。どちらの会社でも、これらの新しい役職は従来のCMO職務の代わりを務める。

小売業者は今後の厳しいマーケティング環境に直面し、マーケターはTikTokやピンタレスト(Pinterest)などの新しいプラットフォームへの適応を続ける一方で、顧客獲得コストの高騰に対処しようとしている。専門家は、インフレを気にする買い物客たちが支出を控えるにつれ、状況はさらに厳しくなると予測している。結果として、顧客の維持と顧客体験を重視し、マーケティング職のトップの役割を再定義する小売業者が増え続けている。

顧客維持に長けた人材

マーケティング企業ベラルディウォンのデジタル戦略および統合マーケティング担当バイスプレジデントを務めるカラー・マーフィー氏は次のように述べる。「新しい顧客の獲得は、これまでも今後も重要だが、そのコストが高騰していく今、すでに獲得した顧客を維持することが何より重要だ。マーケティングチームの多くは、単なる成長マーケター、パフォーマンスマーケター、買収のエキスパートではなく、顧客との関係を育成できる人材を探し求めている」。

ターゲットの最高ゲストエクスペリエンス責任者の役割は、パーソナライゼーションを促進し、より多くの買い物客をターゲットに引き寄せることにも注力している。ターゲットと同様、ロウズ(Lowe’s)も、最高マーケティング責任者の役職を9月に削減した。同社は、長年にわたってエグゼクティブを務め、カスタマーマーケティングなどの分野に特化してきたジェン・ウィルソン氏を、エンタープライズブランドおよびマーケティング担当シニアバイスプレジデントという、マーケティングの最高の役職に昇格させた。

マーフィー氏は、近年になってブランドを中心とするコミュニティを作り上げることの重要性が増してきたため、小売業者は役職をアップデートするようになってきたと語る。エッセンスがハバシ氏に目を付けたのは、買い物客のコミュニティを育てる能力のようだ。エッセンスの共同創設者でCEOを務めるラミ・アトラー氏は、新しい最高顧客責任者は「参加型でクリエイティブなコミュニティを世界的規模で作り上げ、育成することにかけて、輝かしい実績を保有している」と、最初の発表で述べている。

CMOの役割はより顧客中心に

顧客を対象にする役割を置くことで、肯定的な見返りを得られることがある。ペトコ(Petco)はCMOの役職を維持しているが、一方で、新しい最高顧客責任者の役割も作り出した。ダレン・マクドナルド氏が8月にCCOの役職に就いてから、同社の有料ロイヤルティプログラムであるバイタルケア(Vital Care)のメンバー数は前の四半期に比べて42%増加した。

マクドナルド氏は12月、米モダンリテールに次のように述べた。「当社が目にしている顧客の生涯価値は通常の顧客の3.5倍も大きい。これらの顧客は価値を理解している。当社からより頻繁に購入を行い、1回の購入金額も増えている」。

美容品小売業者のアルタ(Ulta)も、CMOの役職を維持している。しかし、同社の新CMOであるミッシェル・クロッサンマトス氏は、顧客体験の現場に積極的に携わりたいと、ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)に語った。「店舗内での販売、店舗内での勤務、配送センターでの勤務を行い、顧客サービスの声を聞き、ゲストが本当に必要とし、望んでいることは何かを本当に理解したい。マーケティングとはそういうものだからだ」と、同氏は述べている。

小売代理業のレコンリテール(Rekon Retail)のマネージングパートナーであるレベッカ・コンドラット氏は、最高マーケターの役割は、より顧客中心に変化してきたと語る。マーケターは現在、単にデジタルチャネルだけではなく、物理的な小売チャネルにもより深く関与するようになっていると、同氏は語る。「CMOは、サイロ化され、物理的チャネルが何をしているのかをほとんど認識していない状態だったが、その状態から進化してきた」と、同氏は述べている。

CMOの在職期間が短い理由

しかし、この役職を務める人材の雇用は最初のステップにすぎない。

最高マーケティング責任者の役割は、経営役員のなかでも離職率がもっとも高いことで広く知られており、その理由のひとつは、マーケティング業界が急速に変化する性質があるためだ。たとえば、ラファエル・アセベド氏は2022年3月、わずか9カ月でダンキン(Dunkin’)のCMOを辞任し、アレグラ・オヘア氏は2020年に1年足らずでギャップ(Gap)のCMOの役職を離れた。スペンサースチュアート(Spencer Stuart)の最新の調査結果によると、2021年のCMOの平均在職期間は40カ月で、この10年以上で最短である一方、CEOの平均在職期間は85カ月だった。

ジョージタウン大学(Georgetown University)のマクドノウビジネススクール(McDonough School of Business)で管理実践の教授を務めているマイケル・マクダーモット氏は、CMOの担う責任の範囲が広いため、その役職がきわめて困難になることが珍しくないと語る。

同氏は次のように述べている。「多くの企業は最高マーケティング責任者を雇用し、その人物にきわめて非現実的な期待を寄せている。そのような期待を満たすことは不可能であるため、それは失望に変わる。CMOの在職期間が短い理由はこれだと思われる」。

[原文:Retailers are expanding the CMO role to focus more on customer experience and retention]

MARIA MONTEROS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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