次のビューティフロンティアは 加齢対策 : 投資家も高い関心【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

年をとるのは恐ろしいが、そうである必要はない。

太古の昔から人々は不老の泉や魔法の万能薬、不死を約束する賢者の石を探し求めてきた。いまでは高度な生物科学の可能性のおかげで人類は老化に真っ向から取り組んでいる。アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control)によると、米国人の2022年の平均余命は76.1歳だという。だが、単に長生きするだけではなく、人々は生活の質を維持したいと願っている。

老化対策を取り入れた美容とウェルネスの推進

2013年のピュー研究所(Pew Research)の調査によると、50歳未満の成人の3分の1が自分の健康状態は良好であると答えているが、65歳以上でそう回答したのはわずか16%だった。そして、生活の質が高いことは将来に対して前向きな姿勢を持っていると考えることができる。この調査では高齢者は将来についてかなり楽観的ではないことが判明している。50歳未満の人の約71%が10年後には現在よりも生活が良くなっていると回答しているのとは対照的に、75歳以上で現在よりも人生が良くなっていると予想しているのは約19%である。

美容とウェルネス業界は長年化粧の視点から加齢に注目しており、長寿科学を取り込んで加齢を消費者向けに再パッケージ化する準備ができているようだ。この5年間、美容業界は内外の美という考え方にこだわり、美容の範囲を拡大してきている。人の外見は運動で自己管理をしているレベルや食べているものと食べていないものによってある程度決まるという考えは広く受け入れられている。現在では一部のクリニックやプログラムは人々の体内の健康とウェルネスを包括的に調べて、最適化のためにそれに内科治療と美容療法を連携させることを目指している。

老化を研究しているニューヨーク拠点の皮膚科医、ジュリー・ルサック医師は次のように述べている。「我々はDNAの観点から加齢の概念を完全に理解してはいない。なぜなら、人は生まれたときと同じDNAを持って死んでいくし、我々のDNAには加齢をエンコードする遺伝子はない。つまり、加齢遺伝子はないのだ。我々が加齢と呼んでいるものは実際には細胞内のエネルギー生産の減少だ。減少したらプロセスとしての老化の始まりだと考えている」。

ルサック皮膚科医の長寿プログラム

ルサック医師によると、寿命を研究する人々の主な目的は、細胞内のエネルギーを増やす方法を見つけること、細胞エネルギーの枯渇を推進するものを理解すること、それを逆転または防止するための解決策を見つけることだという。ルサック皮膚科(Russak Dermatology)は栄養士のジェニファー・ハンウェイ氏と協力して、5年ほど前にアンチエイジングウェルネス(Anti-Aging Wellness)と呼ばれる長寿プログラムを開始した。料金は3700ドル(約48万円)で、頭髪のミネラル、食物不耐症、DNAメチル化、腸の健康状態、一般的な血液検査といった対象を絞った検査と、6~12カ月間で6回の健康指導セッションで構成されている。ルサック医師によると患者は通常2年ごとにプログラムを受けているという。挙げられているプログラムの利点には、早期老化を遅らせること、肌を健康的に若返らせること、ホルモンと代謝の最適化、減量の促進、エネルギーと精神的な明晰さの増加などがある。ほとんどの参加者はルサック皮膚科の長年の患者であり、閉経周辺期か閉経期にある。しかし、ボトックスやほかの神経毒の注射剤の「若さの維持(prejuvenation)」マーケティングの出現によって、そのような予防治療を求める30歳未満の参加者が増加しているという。

「(ルッサク皮膚科は)老化を隠したり外見の加齢対策から離れて、もっと再生的な処置へと移行している」とルサック医師は語っている。

アンチエイジングと長寿科学への投資家の高い関心

民間投資分野内ではアンチエイジングと長寿科学に莫大な資金が集まっている。法律事務所のオリック(Orrick)と(データ企業の)ピッチブック(Pitchbook)のレポートによると、2021年のベンチャー支援による長寿ライフサイエンス向けの資金調達は2000件を超え、470億ドル(約6.1兆円)に達し、前年比で35%増加したという。アルトスラボ(Altos Lab)、ジュビネセンス(Juvenescence)、エイジXセラピューティクス(AgeX Therapeutics)、ヘルスニュークレアス(Health Nucleus)といった企業は、一般消費者を念頭に置いて、老化経験を遅らせたり逆転させたりする方法を研究している。

「老化と長寿に関する遺伝学と生化学について現在では多くのことがわかっており、その知識を治療に利用することによって、今後数十年にわたって生物医学に革命をもたらすことができる」と述べているのは、長寿にフォーカスした社歴2年の投資企業、ヘルススパンキャピタル(Healthspan Capital)の共同創業者でゼネラルパートナーのセバスチャン・ブルンマイアー氏だ。「(しかし、)オーダーメイド医療は加齢による損傷を元に戻す治療法がないためかなり無力だ。…現在のところは、食事とライフスタイルを変えたりサプリを摂取することを除いては、時計の針を戻すためにできる行動はあまりない」。

高齢化社会への懸念との関連

人が抱える死への恐怖、そして永遠ではないとしてももっと長生きするために人々が喜んで支払う大きな代償以外にも、企業がいわゆる不老の泉を見つけるために投資する理由はいくつかある。

根底にある重要な社会学的懸念のひとつに長寿に関する議論に大きな意味を与えるものがある。それは人口の高齢化だ。世界保健機関(World Health Organization)によると、人口の高齢化のペースは過去よりもはるかに速くなっている。2020年には60歳以上の数が5歳未満の子どもの数を上回った。また、2015年から2050年の間に60歳以上の世界人口の割合は12%から22%へとほぼ倍増する。米国、韓国、日本など数カ国では出生率が低下しており、今後数十年で医療制度と社会制度にドミノ効果が起こる可能性がある。若者が減り高齢者が多くなった今、60歳を新しい30歳にすることによって加齢の改善にフォーカスすることがいっそう重要になってきている。

「代謝の老化と細胞間エネルギーの老化を研究する人は加齢プロセスを変えられるようになるだろう。100歳や102歳まで生きられると言っても理不尽ではない」とルサック医師。「だが、私は102歳で病気にはなりたくないし、その年齢に見られたくもない。若くて健康な人のように感じたいし、他人からもそう見られたい」。

ほかの大規模な問題によって、一般的な消費者、または「健康な」人々を念頭に置いたエイジングウェルプログラムやクリニックの出現が推進されている。米国では診断や治療の多くが健康保険会社によってカバーされていない。これにより、唯一の治療から病気の予防へとヘルスケアがシフトしているにもかかわらず、一般開業医のオフィスでのオーダーメイドのヘルスケアの機会は減っている。そのため、クリニックは保険適用外であっても医師がしばしば提供できないことを提供する機会を見出している。第2に、医療制度と健康の概念は1992年まで研究と治験のデフォルトが男性だったために長い間男性によって決定されてきた。したがって、オーダーメイド医療ならば女性の健康とウェルネスのニーズにもっと細かく対応することができる。

ウェルネスクリニック、モダンエイジの取り組み

加齢にフォーカスしたヘルス・ウェルネスクリニックのモダンエイジ(Modern Age)がこれに該当する。社歴1年のモダンエイジはニューヨーク市に2カ所のクリニックを抱え、500ドル(約6.5万円)のエイジングウェルネス評価を提供している。これには、骨密度スキャン、血液マーカー分析、主観的な年齢評価、臨床医による診断レビューが含まれている。特筆すべきは、血液マーカー分析は全員に対するベンチマークの平均ではなく、年齢と性別に基づいて本人に最適なものに応じた結果を提示する点だ。臨床医はレビュー時にビタミン欠乏症などの特定の問題に対処するために、モダンエイジでの点滴などの治療法を提案することができる。しかし、モダンエイジにはマイクロニードルやケミカルピーリングなどの美容サービスもあり、身体の内側と外側の包括的な美容とウェルネスのメニューを提供している。モダンエイジは2021年10月にシリーズAの資金調達で2700万ドル(約35億円)を調達した。

モダンエイジの創業者兼CEOであるメリッサ・イーマー氏は、患者はソーシャルメディアや検索エンジン、口コミによって同社クリニックを知り、また、マンハッタンのロケーションの客足もあると述べている。同氏は当初、ほとんどの人が肌のトリートメントのために来店すると思っていた。そのようなサービスは一般的によく理解されているからだ。しかし、エネルギーや精神的な明晰さの低下といった特定の健康問題に対処するために概して来店することが明らかになった。消費者は一般開業医から受ける治療よりももっと個別化された治療と診断を望んでいる。イーマー氏によると、患者の大部分は女性で、年齢は35~45歳だという。エイジングウェルネス評価はストレス対応や免疫のための点滴とともにもっとも人気あるサービスの1つだ。モダンエイジは顧客の何パーセントが内科治療と美容治療の両方を選択しているかは調べていない。

「我々はよりパーソナライズされたヘルスに注力しているが、また、ホリスティックな(なウェルネス)、内面と外面の(美容と)健康、メンタルヘルスという異なる専門分野すべてにわたり点を結びつけようと努めている」とイーマー氏は述べている。

加齢のペースを遅らせる医療介入の可能性

イーマー氏は、5~10年以内に生物学的観点から加齢のペースを遅らせるのに役立つ医療介入がいくつか市場に登場するだろうと楽観的に考えているという。これからの12カ月間でモダンエイジには抗炎症にフォーカスした代謝の健康に対処するための検査と治療を追加する可能性があるという。

つまるところ、さまざまな長寿企業のフォーカスはどれも寿命を延ばすという長期的な目標を掲げつつ健康寿命を延ばすことなのである。

「(加齢についての)パターンと起こっていることを早く理解すればするほど、それらに対処する準備を整えることができる」とイーマー氏。「我々の目標は皆にもっと楽観的に感じてもらうことだ。加齢をもっとコントロールできるようになれば、年齢を重ねることに喜びを感じられるだろう」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Age longevity is beauty’s next frontier

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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