衣料レンタルのニューリー、トラッキングデータ活用しサステナビリティ促進:気候変動リスクの開示要求高まるなかで

DIGIDAY

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アーバン・アウトフィッターズ社(Urban Outfitters Inc.)の傘下にある衣類レンタルサービスのニューリー(Nuuly)は、約8万2000人のサブスクライバーに毎月6着の衣料品を提供している。すなわち、常にトラッキングしなければならないアイテムが数十万点にのぼる。

しかし、同社が2019年に設立されたあとに、Google Cloud(Googleがクラウド上で提供するサービス)上で開発された、社内のクラウドベースのトラッキングシステムにより、ニューリーのチームは、アイテムがどれだけ遠くまで移動したかを知ることができる。たとえばあるアイテムは、顧客が買い取る前に25回レンタルされたことを表示してくれる。Googleのビッグクエリ(BigQuery)を使用してこのような情報をリアルタイムで得ることにより、どのアイテムがより人気があるか、どのアイテムの数を増やすべきか、どのようなスタイルが販売に繋がるのかを知ることができる。

ニューリーのプレジデントで、アーバンアウトフィッターズの最高技術責任者を務めるデイブ・ヘイン氏は、このようなディープデータダイブは、「衣類のライフサイクルに関する顧客の行動とニーズについての知識をチームに伝えるのに役立った」という。

地球温暖化、歴史的な干ばつ、廃棄物埋め立ての増加などにより、気候に関するさまざまな危機が発生している現在、多くの小売業者は廃棄物を減らし、より効率的な運用を行う新たな方法を見つけるべく労力を注いでおり、その一部はその目的のために、より進んだテクノロジーを取り入れつつある。

サステナビリティのためのテクノロジー導入が遅れている

Google Cloudが最近行った調査では、小売業者の経営幹部の7割が、自社のビジネスにおいて環境、社会、ガバナンスへの取り組みを優先していると回答していることが明らかになった。しかし、小売業者の54%は、サステナビリティを高める方法がわからないと回答している。

Google Cloudの小売および消費者ソリューション担当バイスプレジデントを務めるキャリー・サープ氏は、小売業界にはサステナビリティを高めるための「方向性が欠けている」と語る。たとえば、調査対象となった小売業界の回答者のうち、リサイクリングプログラムを実行していると回答したのは36%にすぎない。

同氏は報告書のなかで、「小売業者はサステナビリティの実践の優先順位を高くしているが、小売業の経営幹部に対する調査から、こうした業者は自社のビジネスのサステナビリティを高めるためにテクノロジーを活用する可能性がもっとも低いことが示されている」と、述べている。

これに対して、Googleは独自のサービスをアピールしている。Google Cloudの顧客セグメントでもっとも急速に成長しているのは小売業であり、同社は自社の技術サービスをサステナビリティの推進に結び付けようとしている。たとえば、バーテックス AI(Vertex AI)プラットフォームは需要を予測してくれるので、小売業者は過剰な商品を生産する必要がなくなる。ラストマイルフリート(Last Mile Fleet)システムは、小売業者が移動距離を減らすような方法で配達のマップやルートを決定するため役立つ。

既存のGoogle Cloudの小売の顧客には、ウォルマート(Walmart)、イケア(IKEA)、セフォラ(Sephora)、ターゲット(Target)などの有力企業が名を連ねている。

ニューリーの場合、サステナビリティへの注力は、アーバンアウトフィッターズが自社の顧客ベースから読み取ったものに基づいた、ニューリーのサービス構想の一部だったと、ヘイン氏は語る。

同氏は次のように述べている。「顧客はレンタルモデルに関心を抱いており、同時に、よりサステナブルな消費方法にも強い関心があることが明らかになった。当社は、「この決定やあの決定を行うとどうなるのか? サステナビリティのフットプリントにどのような影響を及ぼすのか?」という認識をもって、自社のすべての決定について確実に周知しようと試みた」。

Google Cloudを採用した背景

ニューリーのこのサービスは2019年7月に開始され、2021年10月にはよりサステナブルにファッションを探求する方法としてマーケットプレイスを開始した。2022年度には純売上は4770万ドル(約64億4000万円)に達し、2023年の第1四半期には収益が2300万ドル(約31億1000万円)に迫った。

サービスを開始するとき、ニューリーは自社でデータサイエンティストを雇用し、独自の推奨エンジンを構築して、さらに洗濯とドライクリーニングの設備を備えた新しい倉庫とフルフィルメントセンターも建設した。「アーバン・アウトフィッターズでは、多くの場合、顧客の体験にとって重要と見なされる業務の作業はすべて自社で運用するのが選好だ」と、ヘイン氏は以前米モダンリテールに語った

同氏は、それでもニューリーがこれらのシステムの基礎としてGoogle Cloudを採用したのは、システムのコントロールを自社で行えるとともに、システムが成長するときスケーラビリティを保証できるようにするためだと、同氏は米モダンリテールに語った。

初期設定には約10か月を要し、ビッグクエリやデータスタジオ(Data Studio)、クラウドストレージ(Cloud Storage)などの「エンジニアフレンドリーな」ツールとサービスが、システム運用のためのバックボーン構造を形成した。

「これは明らかに、サーバーを購入して自分たちで運用するフットプリントよりも、確実に機動的な技術フットプリントだ」と、ヘイン氏は述べている。

同氏は、サステナビリティの考え方はひとつの大きく野心的な目標ではなく、むしろ繰り返されるプロセスだと語る。たとえばニューリーの洗濯システムは、エネルギーや水を効率的に使用する洗濯機や、環境に優しい非アルカリでリン酸を使用しない洗剤を使用するよう、長期的にアップグレードされてきた。

また、クラウドベースのフリート管理システムにより、同社は衣類が梱包されている荷物の移動距離をトラッキングすることができる。このカスタムベースのシステムにより、荷物がどこに向かっているか、また曜日によって、より速く配達することなどができ、遠隔地の顧客には特に便利だ。この知識を活用することで、二酸化炭素排出量を最小限に抑えることができる。

ヘイン氏は次のように述べている。「小さな目標と、小さなステップの積み重ねだ。よりサステナブルにするために優先するべき方向性や判断はあるか? それは問題に取り組む正しい方法だと私は考えており、ニューリーにおいて試みてきた方法だ」。

測定基準の曖昧さ

フォレスター(Forrester)のバイスプレジデントとプリンシパルアナリストを務めるスチャリタ・コダリ氏は、米モダンリテールに対し、統一的な測定基準が存在しないため、企業はどのように説明責任を果たせばいいのかがわかりにくくなっていると語った。さらに、サプライチェーンをどれだけさかのぼって、廃棄物処理チェーンのどれだけ先まで調べる必要があるのかという疑問も存在している。

同氏は次のように述べている。「製造場所から開始するべきなのか? 工場での使命だけなのか? 素材そのものの調達に伴う問題ではないのか? 人々が現在測定できるよりもはるかに多くのものがあり、測定の方法も一貫していない」。

サステナビリティの指標やスコアが複雑であることから、小売業者だけでなく、サステナブルに聞こえる指標に消費者が騙されてしまい、混乱が引き起こされる可能性がある。クオーツ(Quartz)は6月29日、H&Mが他社商品よりも環境にとって良い商品であるとミスリードするようなスコアカードを公表していると報じた。また、H&Mが顧客に提示した、よく引用される評価システムであるヒグ・インデックス(Higg Index)は、方法論とデータを見直していることも報じられた

しかし、報告義務の変更が目前に迫っており、より多くの企業がサステナビリティのトラッキングを真剣に考えなければならなくなるかもしれない。

デロイト(Deloitte)は6月、「消費者向け業界における責任が明確なサステナビリティの推進(Driving Accountable Sustainability in the Consumer Industry)」というレポートを公開した。このレポートには、回答した企業のうちの7割が、財務データとして正確かつ検証可能なサステナビリティデータが必要だと述べているにもかかわらず、そうしたデータを作成していると回答した消費者向け企業は、わずか3%であるという調査結果も含まれていた。

デロイトでブランドのパーパスやESG、ブランドの評判や信頼に関するアドバイザリーリーダーを務めるジェイムズ・カスコニ氏は、多くの企業がネットゼロ目標を掲げている一方、それらの企業の責任を問うものはほとんどないと語っている。

米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)がより多くの指標を監視する動きを見せており、サステナブルな実践方式を常時トラッキングする必要性はますます増大する。2022年3月に提案された規制制定では、すべての上場企業に対して、その企業のサプライヤーが製造した材料の排出量、排出量オフセット誓約の達成に向けた詳細な計画、オフセットへの依存度などを開示することを義務づけている。

「これが規制要件となることで、すべての企業がより真剣に受け止めるようになる」と同氏は述べている。

[原文:How Nuuly is using technology to aid in sustainability tracking]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Nuuly

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