ウンベルト・レオン氏は、共同デザイナーであるキャロル・リム氏と手がける自身のブランド、オープニングセレモニー(Opening Ceremony)での仕事や、リム氏とともにケンゾー(Kenzo)のクリエイティブディレクターを8年間務めたことで知られている。だがこの2年間、彼にはレストラン経営者という別の顔がある。
ファッションと食への同様のアプローチ
2020年、レオン氏は自身が受け継いでいるふたつの国の伝統にインスパイアされた中華系ペルー料理店、チーファ(Chifa)をオープンした。そして今回、ふたつめのレストランとなるモナーク(Monarch)をオープンする。ロサンゼルスの中心部にあるチーファとは異なり、モナークはロサンゼルスから約13マイル(約21キロメートル)離れたアルカディアという比較的静かな街にあり、香港料理が中心だ。ちなみにチーファはレストランガイドを提供するインファチュエーション(The Infatuation)から「とてつもなくすばらしく、とてつもなく魅力的」と絶賛されている。
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「ファッションと食に対しては非常に似たような方法でアプローチしている」とレオン氏は言う。「その考え方は、ブランドを構築しているということだ。ブランドと、そのブランドの中で経験することがもっとも重要だ。ファッションであれ、食品であれ、あるいはキャンドルやハチミツであれ、ストーリーとブランディングがしっかりしていれば、他の分野へと進出していく基盤となる」。
レオン氏は、自身のファッションの専門知識をいくらかこの事業に活かし、商品とアクセサリーのフルカプセルコレクションとともにモナークをローンチしている。帽子、フリーザーバッグ、バンパーステッカーのほか、128ドル(約1万6000円)のパーカーといったオープニングセレモニーの商品かと見間違えるような衣服が揃う。これらの商品は、中小企業向けの商品や名刺、その他の印刷物を制作している企業、ヴィスタプリント(VistaPrint)と提携して作られており、モナークのオンラインショップで購入できる。
ダイニングの世界に進出し、成功を収めるラグジュアリーブランド
レオン氏のようなデザイナーは、ファッションと高級レストランの間を行き来するのに適した立場にある。この1年のあいだに、ディオール(Dior)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)、ボス(Boss)といったラグジュアリーブランドが、カフェやパティスリー、レストランをオープンしている。パリのディオールのムッシュディオール(Monsieur Dior)のように、ブランドのショップ内や店舗に併設しているものもあれば、バーバリー(Burberry)のトーマスズカフェ(Thomas’s Cafe)のように、ブランドとの明らかな関連性をすぐには感じさせない、独立した高級レストランとなっているものもある。
ダイニングの世界に進出し、成功を収めているのが主にラグジュアリーブランドであることは、偶然ではない。これらのブランドはブランド構築の達人であり、多くの場合、何十年も費やして排他的な雰囲気と伝統に磨きをかけてきた。そしてファッションブランドはレストランによって、特に500ドル(約6万4000円)のドレスを買うことができない人々へと、ブランディングの寿命とリーチを拡大することができる。
ファッションブランドがレストランをオープンする一方で、アパレル以外のブランドもまた、ブランド構築を目的にファッションの販売に機会を見出している。マクドナルド(McDonald’s)からポラロイド(Polaroid)にいたるまで、さまざまなブランドがここ数カ月で期間限定のファッションコレクションをリリースしている。ニューエラ(New Era)の帽子に貼られた金色のステッカーを一部の購入者が誇りとして付けたままにしているように、ファッション体験の小さな断片もセールスポイントになり得るのだ。
ヴィスタプリントのCMO、リッキー・エンゲルバーグ氏は、「すべてのタッチが重要だという考え方は、今やブランド構築に必要不可欠な部分だ」と述べている。
ブランド構築では何ひとつ無駄にすべきではない
レオン氏の方法はディオールやルイ・ヴィトンとは異なっており、自分のレストランとファッションブランドは切り離したいと彼は考えている。レストランのマーケティングではオープニングセレモニーに関するブランディングや言及は一切なく、またキャロル・リム氏はどちらのレストランにも関わっていない。だがリム氏によると、このプロジェクトは哲学と運営の面で同じDNAを持っているという。オープニングセレモニーと同様に、レオン氏は料理や内装から、テイクアウトのパッケージやナプキンにいたるまで、自分のレストランのあらゆる要素をみずからの手で監修している。
「自分には何ひとつ無駄にすべきではないというブランド構築理論がある」とレオン氏は言う。「人々が手にするバッグ、名刺、コーヒーカップのステッカー、すべてのものがブランドアイデンティティを表現する機会なのだ」。
レオン氏は、最初のレストランとなるチーファをオープンした後、レストランには来たことのない人たちが、オンラインでグッズを購入したと話す。それは、ブランドアイデンティティと美学にそれだけの力があるからこそだ。
エンゲルバーグ氏は、レオン氏とともに仕事をすることで、ヴィスタプリントが中小企業に提供できるものの概念が広がったと話す。かつてはほとんど名刺やラベルといった印刷物を提供していたが、2022年現在、同社は衣類やバッグ、ホームグッズなども手がけている。
[原文:Opening Ceremony’s founder is now a restaurateur]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)