ライブコマース やスタイリングは、店頭での接客の延長上にある:ビームス 執行役員/DX推進室室長 矢嶋正明氏【Glossy + TALKS vol.2】

DIGIDAY

店舗休業を余儀なくされたコロナ禍を経て、ファッションの世界でもデジタルシフトが加速度的に進んでいる。そんな業界にとって喫緊の課題であるDX戦略を、ビームスはコンテンツを満載したオウンドメディアをプラットフォームに独自の路線で切り拓いてきた。

数多のブランド・商品を扱うセレクトショップ、ビームスのデジタル部門を牽引してきた立役者が、執行役員/DX推進室室長の矢嶋正明氏である。

店舗の販売員としてキャリアをスタートさせた矢嶋氏は、2005年、ZOZOTOWNへの出店を機に立ち上げたEC部門で責任者に就任。以来、つねに顧客の声に耳を傾け、ECでいかに快適に買い物できるかを追求し、よりよいサイトになるようにと改善を続けてきた。2016年には自社ECサイトとビームス公式サイトを統合し、ECと店舗のオムニチャネルサービスを構築。スタッフが発信するスタイリングなどのコンテンツは好評で、現在はライブコマースにも挑戦している。

ビームスのDX戦略は、どのように進化してきたのか。
EC黎明期から最新のライブコマースまで、15年以上にわたりファッションにおけるDX戦略を考え続けてきた矢嶋氏が、ファッション、ビューティ業界のオピニオンリーダーたちへの公開インタビューイベント「Glossy+TALKS」で語る、業界の未来に向けてのヒントとは?

◆ ◆ ◆

ーーセレクトショップがECに取り組む意義とは?

現在、1,000〜2,000もの世界中のブランドと取引しているが、扱うブランドや商品は幅広く多岐にわたり、ひとつの店舗では表現しきれない規模になっている。場所という物理的な制約を受けないECサイトは検索性にも優れているので、多くの商品を扱うセレクトショップがECに取り組む意義はとても大きい。

洋服は個性や価値観の違う一人ひとりにフィットさせるツールなので、好きだと思う熱量や身につけたときの高揚感がとても大事。ブランドとお客さまの架け橋になるスタッフが、好きなことや得意なことを伸ばすことで熱がお客さまに伝わり、その結果ビジネスにもつながっていく。そのためデジタル戦略も「ビームスに関係するすべての人が幸せになるような会社を目指す」というミッションと「“Happy”を生み出せる社員を育てる」というビジョンをつねに心がけて進めている。

ーーEC部門を立ち上げてから、どのように進化してきた?

2005年に開始した当初は、リアル店舗とECの会員データベースが分かれていたため店舗のポイントをECで使えなかったが、2012年に2つのデータベースを統合させて問題を解消。在庫管理なども既存の基幹システムとECを連動させ、お客さまがどのチャネルでも商品を探せるよう、顧客IDや在庫を一元化するシステムを構築したことは大きい。さらに進化をするために2016年に公式サイトとECサイトを統合させた。

統合前はお客さまが公式サイトのコンテンツを見てブランドや商品のイメージをふくらませても、いざ買い物をしようとするとECの簡素なページが立ち上がり、ブランド体験が断絶されていた。また、私たちも公式サイトとECサイトを別ドメインで管理していたので、PDCAを回すうえで解析すべきデータが分断されていて不便だった。2つを統合したことで、双方にとってより有益で使い勝手のよいサイトになった。

ーー統合された現在のサイトには、スタッフ発信のコンテンツが豊富な理由は?

スタッフのスタイリングは、外部のデジタルサービスにビームスとしてアカウントを作った2012年頃に始まるが、試しにその画像をECサイトにアップしてみたら、スタイリング画像がある商品の購入率、コンバージョンレートが1〜2%も上がった。

ECサイトをリニューアルした2016年5月から「スタイリング」をメインコンテンツに、公式サイトと統合した9月にはスタッフの「ブログ」やアクセサリーなど小物を紹介する「フォトログ」も開始。現在、スタイリング、フォトログにはそれぞれ、男女合わせて40万件以上のコンテンツがアップされている。

ーーライブコマースの前身ともいえる動画投稿「ビデオ」は、いつ開始?

「ビデオ」コンテンツは2018年からスタートしており、簡単なマニュアルや操作方法をアドバイスしたあとはスタッフ自身がiPhoneで撮影・編集してアップロードしている。動画にすると伝えられる情報量が圧倒的に増え、よりいっそう親近感を感じるのか、ビデオに登場するスタッフが店頭でお客さまから声をかけられることが増えた。

動画の可能性に手応えを感じ、ライブコマースへとつながっていったわけだが、ライブ配信といっても大がかりな撮影機材やスタジオは使わない。オフィスの一角や店頭でiPhoneに三脚をつけて撮影し、配信システムも自社開発している。

ーー今後ライブコマースに期待することは?

ビデオや静止画のコンテンツはいまでも人気が高く有用だが、単一方向のコミュニケーションでしかない。ライブコマースならリアルタイムで質問に答えられるので、店頭で接客するような双方向コミュニケーションができることが大きな魅力。

中国で爆発的な広がりを見せているライブコマースだが、日本では各ブランドが本格的に取り組みはじめて今年で2年目。今後、日本に根付くかまだわからないが、ファッションブランドがその機会を増やすことで、新たな価値を生む可能性があると思う。

ーーこれから先やりたいことは?

販売員が自分の好きな商品を身につけ、ブランドのイチファンとして1対1で接客するのが最小単位のコミュニティ。そこからお客さまとそのブランドが好きなスタッフたち、ブランドを支えるレーベル事業のスタッフたちとだんだん大きなコミュニティへ広がっていく。

スタッフによるスタイリングの静止画やビデオ、それにライブコマースは、店頭での接客の延長上にある。店舗とデジタル、コミュニケーションの根底は変わらないし、変える必要はないと思っている。お客さまとスタッフが本気で「これ、いいよね! 」と共感できる、コミュニティの場づくりをデジタルの世界でさらに広げていきたい。

(公開インタビューイベントは2021年12月6日に実施)

■矢嶋正明(やじま・まさあき)/1998年、ビームス柏のアルバイトを経て、入社。店舗販売から内勤カスタマー業務の後、2005年にEC部門を立ち上げ、責任者に就任。EC事業の拡大に取り組むと共に、店舗とのサービス連携を推進。2016年、自社ECサイトとビームス公式サイトを統合し、ECと店舗のオムニチャネルサービスを構築。2020年、執行役員就任。2021年より現職、全社のDX化を推進中。

Written by 山本千尋

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