著名選手が去った eスポーツ 組織、フォロワー3000万人減少 :TSMが直面している厳しい現実

DIGIDAY

eスポーツ界を牽引するTeam SoloMid(TSM)。別名「神話」と称されるアリ・カバニ氏などの著名な所属メンバーがここ数カ月で次々に脱退し、SNSのフォロワー数も激減している。フォーブス(Forbes)が2020年12月に世界でもっとも価値があると評したeスポーツチームにとって、フォロワー数の減少は潜在的な大問題と言える。

2021年8月、TSMのSNSフォロワー数は、プラットフォーム全体で8000万人近くに達していた。ゲームおよびeスポーツのコンサルティング企業であり、データプラットフォームを運営するGEEIQによると、その後数カ月で、同社のSNS全体のフォロワー数は4900万人に減少。つまり、3000万人ものフォロワーを失ったことになる。

これらの数字は、TSMに関するすべてのSNSを合わせたフォロワー数を示している。TSMのブランドアカウントに加えて、Twitch、Twitter、YouTube、Facebook、インスタグラム、TikTokなどでのTSMのチームメンバーとインフルエンサーのソーシャルアカウントを合わせたものである。この統合された数字を、ほとんどのeスポーツチームがブランドパートナーやスポンサーへ売り込むために使用している。

「チームは、SNS上での各選手の絶大な影響力を利用して売り込みをしている」と、現在はゲームおよびeスポーツのエージェンシーREV/XPのシニアバイスプレジデントであり、eスポーツ組織のディグニタス(Dignitas)とNRG Esportsで、それぞれパートナーシップバイスプレジデントを務めたクリス・マン氏は述べている。「影響力とは規模感、スケールの大きさから生まれるものだ。だから大抵のチームは、チームアカウント、所属プレイヤーのアカウント、そしてクリエイターのアカウントも含めたSNS全体でフォロワー数をカウントしている」。

「ピッチデッキ(簡潔なプレゼンテーション資料)では、我々のリーチの大きさやオーディエンス数が全体でどれくらいかを伝えるために、フォロワー数を引き合いに出している」と、TSMのリサーチ&インサイト部門の責任者であるマシュー・ボイド氏は話す。「これまで当社は、広告パートナー企業との関係構築の際に、SNSハンドル名を話題の中心に据え、それらを契約に組み込む段階では、運営しているチャネルや、とりわけ競争力のある所属選手にかなり焦点を当てて進めてきた。それゆえ、我々が市場開拓する際に、パートナー企業やスポンサー企業のために何ができるかを話し合うときに、クリエイターやストリーマーが話題の中心になることは少ない」。

ファンの忠誠心は選手にある

GEEIQによると、TSMの公式ブランドアカウントには、プラットフォーム全体で合計984万人のフォロワーがいる。これらの公式アカウントのフォロワーシップは2021年9月から1%減少したが、ボイド氏は、TSMのSNSアカウント全体のフォロワーシップは2021年度中に4%増加したと述べる。また低下の原因の一部は、SNSソーシャルプラットフォームが最近ボットアカウントの削除を行ったことによるのではないかと指摘する。ボットアカウントは、eスポーツシーンで特に多く見られる。

しかしながら、TSMのフォロワー数減少の主な理由は、ほぼ確実に、ここ数カ月でTSMの著名なインフルエンサーの脱退に間違いない。特にプラットフォーム全体で2100万人のフォロワーを誇っていた「神話」アリ・カバニ氏の脱退が痛手だった。彼は2021年12月にチームとの契約が終了し、再契約を拒否した。「明らかに、『神話』アリ・カバニ氏が去ったことは、一種の大事件だ。集客力ある選手が抜けたという事実から、我々は目をそらすことはできない」とボイド氏は語る。「結局のところ、私たちは競争する組織に過ぎない。eスポーツであれ伝統的なスポーツであれ、才能ある選手が入団しては、また去っていく。それはスポーツという分野に身を置く限り、つきものなのだ」。

カバニ氏がチームに在籍しているあいだ、彼のファンはそのままTSMのファンになったが、彼らの忠誠心は最終的にチームにではなくカバニ氏にあった。この現象は、伝統的なスポーツとeスポーツに共通している。「従来のスポーツの世界でも同じだ」と、フナティック(Fnatic)でパートナーシップディレクターを務めるジョージ・ミード氏は述べる。「クリスティアーノ・ロナウドが別のチームに移籍すると、彼が行くチームのフォロワー数が大幅に増える」。

カバニ氏がチームを去った要因

だがカバニ氏の脱退が最大の落ち込み要因だったにせよ、TSMのSNSフォロワー数は、彼がチームを去ったときにはすでに減少し始めていた。実はTSMは2021年11月にPR危機に直面した。元チームメンバーのイリアン・ペン(通称:ダブルリフト)が、チームとCEOであるアンディ・ディン氏(通称:レジナルド)に対するSNSを通じた激しい批判をシェアしたのだ。

2022年1月、チームメンバーを厳しい言葉で虐待し、TSMの職場環境を有害な状況に貶めたとして、ライオット・ゲームズ(Riot Games)がディン氏を調査しているという報告が明らかになった。「インスタグラム、Facebook、インドのTSMインスタグラムはすべて、一貫してフォロワーを失っている。YouTubeさえも減少している」と、GEEIQのCEOであるチャールズ・ハンブロ氏は話す。「つまり、フォロワー数減少の要因は、コンテンツクリエイターが去ることだけに限られていないということだ」。

最終的に、カバニ氏などのインフルエンサーの喪失は、TSMにもうひとつのPR危機をもたらす可能性がある。チームを去るという選択に至った経緯について、カバニ氏は動画を通じて、チームに「家族のような感触」を得られなかったと非難した。

「2021年末、TSMの創設者兼CEOであるアンディ・ディン氏に対し、公開討論の場で深刻な疑惑が持ち上がった。プレイヤーとスタッフの幸福は最優先事項であり、TSMは真剣にそれに取り組んでいるというが、実際のところ、これは組織としてのTSMの運営方針でもなければ、企業としてTSMが目指す姿でもないのではないか? これらの疑惑が持ち上がった直後に、TSMは取締役会において、ディン氏の全面的な了承を取り付けたうえで、独立した小委員会を設置している。そして外部の弁護士を小委員会の顧問に招き、独立した調査員による妥協のない調査を実施した。また、ディン氏は調査の範囲、性質、結論の監視など、自らが一切関わらないようにしている」と、TSMの広報担当者は声明で述べている。

フォロワーを失うことの意味

さまざまな議論が出ているなか、偶然、フォロワー数減少のタイミングとTSMにとって最良の契約のタイミングが一致した。TSMは2021年6月に暗号通貨取引所FTXと2億1000万ドル(約230億円)という驚くべき金額で10年間のパートナーシップ契約を締結した。ただしFTXがこの契約に署名したのは、当時8000万に達しようとするTSMのSNS全体のフォロワー数を念頭に置いてのことだった可能性が高い。

「彼らが伝えようとしているのは、あくまで自分たちは、そのカテゴリー内では優位性に優れているということ。ただしこれは、スポンサーに対して極めて価値のある提案となる。つまり、彼らは単に現在の数字だけでそれを示そうとしているのではないことは確かだ」とニューヘブン大学のスポーツマネジメントの助教で、eスポーツのエグゼクティブディレクターであるジェイソン・チョン氏は語っている。「ある意味、これはブランドにとっては学習体験のひとつだ。トレンドだから、あるいはファンがいるからという理由で、広告パートナーはeスポーツ組織に飛びつく必要はない。その経営陣にも目を向ける必要がある。どんな趣向を持った経営者が揃っているのか、リーダー手腕に相当の注意を払わなければならない。またスキャンダルに目を光らせる必要もある」。

課題が山積しているにもかかわらず、TSMは依然としてこの業界でもっとも有名なeスポーツ組織の一つだ。フォロワーが減少しているとはいえ、北米のeスポーツでもっともフォローされているチームのひとつであり、TSMに勝っているのはフェイズクラン(ブランドアカウント単体で3300万人のフォロワー数を誇る。合計では2億700万人にも達する)のみだ。ただし、TMSの競合組織がフォロワー数を増やし続けているのに対し、TSMはここ数カ月停滞している。このままいけばTSMは、フォロワー数減少により、将来的なブランドパートナーシップが危険にさらされる可能性があるのは言うまでもない。

「フォロワー数を少し伸ばすのは、どんなチームでも簡単にできる」とGEEIQでCPOを務めるジェームズ・バーデン氏は言う。「しかし、実際にフォロワーを失うというのは、誰かがあなたのアカウントに積極的にアクセスしたものの、(あなたの)コンテンツが気に入らないからフォローを辞めると言っているのと同じだ。控えめに言っても、それは憂慮すべき事態だ」と、同氏は警鐘を鳴らす。

[原文:TSM’s social media following has seen a 30 million decline in the last six months

ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

Source

タイトルとURLをコピーしました