BMWが、eスポーツと提携するための費用を2023年から削減することを正式に決定した。
「BMWは2023年(初頭)より、eスポーツへの関与を終了することを決定した」と、BMWのコーポレートコミュニケーション担当者で、同社のeスポーツ事業の広報を務めていたトーステン・ユーリッヒ氏は述べ、「今後は、これまで以上に個人にフォーカスすることになる」と語った。
ユーリッヒ氏によれば、BMWが先日発表したコンセプトカー「BMW i VISION DEE(BMWアイビジョンディー)」が、転換後のマーケティング戦略で中心的な役割を果たすようだ。このコンセプトカーはヘッドアップデイスプレイユニットを搭載しており、フロントガラス全体に映像を投影できる。ただし、このディスプレイでどのようにゲームをプレイしたりストリーミングしたりできるのか、同氏からの詳しい説明はない。BMWがeスポーツから手を引くというニュースは、昨年12月にEスポーツ・ニュースUK(Esports News UK)によって初めて報じられていた。
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eスポーツからカジュアルゲームやメタバースに移行
2020年以降、BMWは数百万ドルを費やして、eスポーツの組織やイベントとさまざまな形で提携してきた。G2 Eスポーツ(G2 Esports)、フナティック(Fnatic)、クラウドナイン(Cloud9)、OGといった有名チームのジャージには、BMWのロゴが貼り付けられている。ゲーム業界とeスポーツ業界を専門とするデータプラットフォームのGEEIQによれば、BMWが2020年から2023年にかけて提携したeスポーツ組織の数は、合わせて11に上るという。
こうしたeスポーツとの提携に必要な金額は、コラボレーションの範囲によって大きく異なるが、1回限りのプロジェクトなら数万ドル、命名権やオリジナルコンテンツを含む提携なら年間数百万ドルに及ぶのが一般的だ。
一部のパートナーのコンテンツでは、今もBMWのロゴが使われている。たとえば、フナティックが12月に行った選手発表会ではBMWのロゴが見られたことから、BMWの提携は続いているようだ。しかし、2023年に入った今、BMWはeスポーツとの新たな提携をもはや検討していない。
It’s good to be back. pic.twitter.com/QAuGv31kU3
— FNATIC (@FNATIC) December 15, 2022
とはいえ、ドイツの自動車メーカーであるBMWが、ゲームの分野から完全に撤退するわけではない。同社の別の担当者はDIGIDAYの取材に対し、BMWの注力する分野が、eスポーツから家庭用のカジュアルゲームやメタバースなど、他のゲーム空間に移っただけだと説明している。
「eスポーツ領域は問題に本腰で取り組んでいない」
eスポーツから撤退するというBMWの決断は、eスポーツとの提携によるマーケティング効果への懐疑的な見方が、非ゲーム領域ブランドのあいだで広まっている現状を反映したものだ。
eスポーツ組織は、大規模なゲーミングオーディエンスにアクセスできる機会をブランドに提供している。だがマーケターは、個人のゲームインフルエンサーを起用すれば、より少ない費用で同じレベルのエンゲージメントを得られることに気づき始めている。
また、ゲーマーは自分たちが楽しんでいるエンターテインメントに広告が入り込むことに今も非常に敏感だが、インフルエンサーと連携すれば、広告への嫌悪感を和らげるのに役立つ可能性がある。
BMWのeスポーツからの撤退は、ブランドとの提携から得られる収入を今も頼りにしているeスポーツ組織にとって悪いニュースだ。彼らの多くは、ブランドへの依存状態から抜け出そうとオリジナルコンテンツなどの新たな収益源を模索しており、なかにはレコードレーベルを立ち上げたところもある。だが、さらに大規模なブランドの離脱が起こった場合への備えは、まだ十分とはいえない。
「彼らはその価値を、同じ業界の人々だけでなく、ROIやKPIといった指標を求める外部の人々や投資家にも伝える必要がある」と、ニューヨーク大学の教授で、eスポーツとゲーミング戦略のディレクターを務めるジェイソン・チョン氏はいう。「また、構造的な観点だけでもさまざまな問題があることがわかっているのに、それをどのように解釈するのか。パブリッシャーにとって、eスポーツはまだマーケティングのテストをする場に過ぎず、厄介な問題に本腰を入れて取り組む必要性を彼らは感じていない」
[原文:Why BMW its cutting ties with esports in 2023]
Alexander Lee(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)