「 デジタル広告視聴率 は、『指標の氾濫』を解消できる 」:ニールセンデジタル 代表取締役社長 宮本淳氏

DIGIDAY

クッキーレスと同様に大きな課題が、デジタル広告にはまだ残されている。

「効果測定指標がバラバラで、各デジタルメディアを横並びで評価をできない」という大問題だ。デバイスをはじめ、プラットフォーム、デジタルサービスが多様化するなか、この指標の氾濫は、収束に向かうどころか、ますます拡大しているといってもいいだろう。

「デジタル広告の効果測定において、示された数字をどのように理解するべきか?」と、ニールセン デジタル株式会社代表取締役社長の宮本淳氏は問いかける。「今、デジタル広告に求められているのは、透明性、そして説明責任です」。

現在、宮本氏が率いるニールセン デジタルは米国ニールセンの子会社。日本では1999年からネット視聴率をはじめとするデジタル媒体の測定を開始し、創業以来、一貫してデジタルメディアの効果測定に取り組んでいる。

そんな同社が2016年にリリースしたのが、デジタル広告の効果測定のソリューションである「デジタル広告視聴率(Digital Ad Ratings:DAR)」だ。さらに満を持して2022年、デジタル広告視聴率を裏で支える「ニールセン IDシステム」を導入し、より精緻な効果測定サービスの確立に邁進しはじめた。

デジタル広告視聴率、そしてニールセン IDシステムが、デジタル広告の「指標の氾濫」という課題において果たす役割とは? 宮本氏に話を聞いた。

宮本 淳/ニールセン・メディア・ジャパン合同会社 マネージングダイレクター、ニールセン デジタル株式会社 代表取締役社長。ニールセン グローバル メディアの日本におけるビジネスを統括。オンライン・デジタルの領域を中心に「3R(Reach・Resonance・Reaction)」の戦略、および米ニールセン(Nielsen)の「Measurement Solutions・Marketing Solutions・Content Solutions」ポートフォリオと海外データサービスの展開を推進している。

――「指標の氾濫」の問題は、クッキーレスより以前から議論されています。ですが、一向に解消されません。原因はなんでしょう?

まず、出稿先を検討する際、媒体を評価する共通の基準がないので、比較しづらいという点があげられます。たとえばAという媒体は3000万ユニークブラウザ、Bは2億インプレッション。さらに別の媒体は3万DAUというように、メディアによって、実績を示す基準がバラバラ。そのため、選び方がわからないということは、よく耳にします。

もうひとつが、我々が「デジタル識別子のリスク」と呼んでいるものです。いまは個人が、PCやスマホ、タブレットなど複数のデバイスを保有。さらに、ChromeやSafariといった複数のブラウザを利用しています。そのため、ひとりのユーザーが広告IDやクッキーといったデジタル識別子を複数割り当てられることになり、結果、広告の重複配信が常態化。データ上はリーチを獲得できているのに、実態は、広告主の想定とは異なっているケースが多く発生しかねません。

また、ターゲティングの精度にも疑問が。たとえば20代女性をターゲットにして、AというDSPとBというDSPを使ったとします。ですが、実はターゲットの含有率がまったく違っていて、Aには20代女性はひと桁%しかいなかったというケースも。事前に含有率がわかっていればAを使わないという選択肢もあります。しかし、そのようなことを客観的に示すデータがなかったら、回避しようがありませんよね。

このように、広告主にとって、媒体の優劣や広告の成果が不透明に感じられる点は少なくありません。これでは、今後、どのようなプランが成果につながるのかも検討できず、広告主が不満を感じるのもやむを得ないと思います。

――そのような課題を解決するのが「デジタル広告視聴率」なんですね。

そうです。まず、「デジタル広告視聴率(以下、DAR)」とはどのようなものかと言うと、テレビのGRP(累積視聴率)を想像していただくとわかりやすいでしょう。GRPは、リーチとフリークエンシーをかけ合わせて算出します。広告主はその数字を見て媒体や広告効果の評価をしますが、DARによって、デジタルでも同じようなことが可能になると考えていただければよいと思います。

ただ、両者は考え方は同じですが、手法はまったく異なります。テレビの視聴率は、日本の人口構成を反映した「代表性パネル」というものを使い、数千から数万世帯を対象にした調査をもとに算出しますが、ビークルの数は、たとえば関東の場合だと民放のキー局である5局プラスNHKと多くはないので、サンプル数が少なくても統計的に有意な数字を出せます。また、番組とCMが対になっているので、Aという番組を見ている人は誰でも同じCMを見ています。ですから、番組視聴率と合わせて、CMの視聴率を取ることもできます。

一方デジタルの場合は、メディアの数は無数にあります。その数を正確に言える人など、いないでしょう。テレビと同じ方法では、とても計測できません。だから、新しい計測の技術が求められます。また同じコンテンツを見ていても、人によって表示される広告は異なります。ターゲティングした広告が表示される場合もあるし、そうではないものがランダムで出る場合もある。だからテレビと違って、コンテンツと広告の視聴率は別々に計測する必要があります。

我々はコンテンツと広告の両方の視聴率を計測することができますが、広告主からの要望が多いのはやはり広告の視聴率調査、つまりDARです。

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――デジタル広告の効果測定には、すでに多くのツールがあります。DARの強み・特徴というと?

「人」をベースにして効果測定を行っている点が、ほかのデジタル広告の計測手段との大きな違いです。個人は、識別子のように複数存在しません。プライバシーに十分配慮したうえで個人を識別することができれば、効果測定は非常に正確なものになります。

我々は、2016年にDARの提供を始めて以来、プラットフォーマーの保有するデモグラフィックデータを分析したり、我々自身が保有している1400億超の各種計測データを機械学習にかけるなど、さまざまな方法で、個人を識別するためのIDを生成し、DARを運用していました。ですが、この度、大規模なアップデートを行い、さらに精緻なIDの生成を実現したのです。それが「ニールセン IDシステム」ですね。

ニールセンIDは、3つのデータコンポーネントから構成されています。まず、日本国内のデータパートナーが保有している1億2000万以上のデバイス情報。次に、媒体社やプラットフォーマーから直接提供されている全数データ。そして3つめが、弊社が過去に蓄積してきた1400億超の計測データや、予測モデル、配信全数データ、そして日本のインターネットユーザーの縮図となる代表性パネルなどを含むニールセンのデータセットです。これらの膨大なデータをAIで分析して、統計学的に近しいデータ同士をマッチングさせて生成されたものが、ニールセンIDです。

広告主は、ニールセンのタグをつけて広告配信をすれば、ニールセン IDシステムによってユーザー属性などの情報が付与されます。その結果を分析し、「人」ベースのリーチとフリークエンシーを算出するのがDARです。

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――DARによって、広告主はどのようなことが可能になるのでしょう?

まず、デバイスやブラウザを横断して計測することができるので、媒体間の重複を除いた、正確なリーチ人数と広告接触フリークエンシーが把握できます。また、すべてのインプレッションのうち、ターゲットに到達したインプレッション、すなわちオンターゲット率も媒体ごとに可視化されます。オンターゲット率を適宜確認することで「この媒体ではターゲットへのインプレッションが上限に近づいているから、残りのインプレッションは別の媒体に振り分ける」という、効率的な運用も可能になります。

次に、媒体によってバラバラだった評価基準が「視聴率」として示されることになるので、横並びで媒体の評価ができるようになります。ちなみにDARであれば、GoogleやFacebookのような、いわゆる「ウォールドガーデン」と呼ばれるプラットフォーマーについても、一般の媒体と横並びで計測できます。プラットフォーマーは、通常、第三者の効果計測を受け入れていないと思いますが、我々はグローバルで彼らと非常に強いパートナーシップを結んでいるので、それが可能になっているのです。

それによって、プラットフォーマーに偏りがちだった配信先も、他媒体も含めて横並びで比較できるようになり、広告主のメディアプランの幅が広がります。

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――人ベースということは、DARはクッキーレスの影響は受けない?

ニールセン IDシステムにとって、クッキーはあくまでも要素のひとつでしかありません。クッキーが完全に利用できない状況になっても、ニールセンID システムには大きな影響はないでしょう。今まで、クッキーへの依存度が高かったデジタル広告にとって、クッキーレスがどのようなことをもたらすのか、2年後、3年後、いったいどうなっているのか、正確にはわかりません。そのようなデジタルの世界にあってもサービスの品質は変わらず、持続可能性が高いというのも、DARの特徴のひとつです。

実は、ターゲティング広告の精度の低下など、ブラウザやOSによるクッキー規制の影響は、すでに多方面で出ています。このような状況を分析し、的確なプランを検討するためにも、DARを活用していただきたいですね。

――それだけ膨大なデータを組み合わせていくのであれば、デモグラや趣味嗜好を含めて、かなり正確なIDがつくれそうですね。ですが、プライバシー対策が気になります。

我々はグローバルに展開しているので、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの厳しい規制をクリアできるよう、個人のプライバシーには、徹底的に配慮しています。データパートナーや媒体社が持っているメールアドレスのような個人IDは、ハッシュ化しているので復元不可能な状態です。

また、データをマッチングさせる際にも、いわゆる突合はしません。そもそも、各社が保有しているデータは、どれも要素が異なります。たとえば居住地ひとつでも、A社のデータは都道府県レベル、B社は市区町村までわかる、などの違いがあります。ニールセンIDは、そのような要素の異なる匿名データを機械学習にかけ、より近似的なものを統計的にマッチングさせることで生成されるので、個人を特定するのは不可能です。

ちなみに、このように生成されたニールセンIDは、ユニークユーザーでおそらく5000万くらいあると思います。いま、国内のネット人口が8000万人と言われていますから、そのうちの60%以上は現状でも識別ができます。

――ネット人口の60%以上をカバーしているなら、かなり高い精度での検証が実現できそうですね。

検証という点ではもちろんですが、デジタルマーケターの方には、DARを活用することで、一歩踏み込んだマーケティングに取り組んでほしいと思っています。

たとえばブランディング施策で認知を作ろうとした場合、統計的に8回以上は広告を見てもらう必要があるという調査結果があります。さらにそこへ、クリエイティブの良し悪しも関わってきます。そのような施策を進める場合、DARを使って、8回広告を見た人が一定の数に達するところを確認し、そのタイミングで認知度調査を実施すれば、リーチとフリークエンシーの効果、そしてクリエイティブの評価も行うことが可能となります。

デジタルマーケターというと、これまではツールを使いこなし、データを見る専門家という印象がありました。ですが、本来はコミュニケーション戦略の設計までができることが重要な役割です。DARを使うことで、さらに視野を広げられるのではないかと考えています。

――最後にDARは、デジタル広告の信頼性の向上に貢献できますか?

2019年11月に、日本アドバタイザーズ協会が「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を出されました。そのなかで、ステークホルダーが課題解決のために取り組むべき「パートナーシップの8大原則」が掲げられています。このなかの4番目「第三者によるメディアの検証と測定の推奨」が、我々の役割だろうと思っています。

そこで一番重要だと考えているのは、中立的な第三者であるということです。たとえば、雑誌の場合、第三者的な機関であるABC協会が発行部数などを調査・発表することで、信頼性を担保しています。ところがデジタルのマーケットには、現状ではそのような機関はありません。

公平で中立的な第三者が提供する物差しがマーケットにあることが、デジタル広告の透明性や、広告主に対する説明責任につながるのだと思います。DARは、そのような世界の実現に向けて貢献できるものと自負しています。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 渡部幸和

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